第25話 2/4

 気がつくと自分の家だった。


 リープしたのか?


 今、何時だ?


 外は……もう真っ暗だ。


「ジュン! ジュン! 無事か!? 頭は!? 大丈夫か!?」


「カノガミ?」


 何が起きたんだ?


 頭の中で状況を整理しようとすると、急にカノガミに抱きしめられた。


「ちょっと! おい!? 何だよ!?」


「良かった。無事なんじゃな? 本当に良かった……」


「カノガミ?」


「すまん。ジュン。すまん。許してくれ」


 振り解こうとするが、力が強すぎて振り解けない。ただ、カノガミが震えているのだけは分かった。


「アヤツ……なんと……なんと恐ろしいことをするのじゃ……なぜ気付けなかった……ウチは……すまない……許してくれ……」


「い、痛いよ。カノガミ。離して」


「嫌じゃ。嫌じゃ。離しとうない。今、手を離したらジュンが、離れてしまう。怖い。嫌じゃ」


 震えるカノガミの背中を摩った。


「カノガミ? 言ってくれないと何も分からないよ」


「あ、明日話そう。今話すのは怖い……」


「分かったよ」


 結局そのまま眠ることになった。


 寝ている間、時折、カノガミの声が聞こえてきた。


「ジュン。みんな。どうか。どうか……ウチを……」




◇◇◇


 目が覚めるとカノガミはベッドにいなかった。


 リビングに行くと、髪を後ろに結び、エプロンを付けたカノガミが朝ご飯をテーブルに並べていた。


「お! ジュン。起きたか。ごはんできておるぞ♡」


「何だよ。カノガミがメシ作るなんて珍しいじゃん」


「なんじゃとぉ! たまには作っとるじゃろが!!」


「ホントにたまに、な」


「余計なことばっかり言うヤツじゃのぉ〜」


「お前も一緒だろ」


「ホレホレ〜! 目玉焼きにはソースとマヨネーズじゃ〜」


「うわっ!? 勝手にかけるなよ!? 俺は塩派だって前言っただろ!」


「だってぇ。こっちの方が美味しいんじゃもん♡」


「じゃもん♡ じゃねえええぇぇ!?」



 いつものカノガミだ。昨日の狼狽える姿が想像できない。俺、夢でも見ていたのかも。


 目玉焼きを一口食べる。ソースとマヨはともかく、黄身は半熟でちょうどいい塩梅だった。


「お! 結構やるじゃん!」


「そうじゃろそうじゃろ! ウチはなぁ〜」


 カノガミが話すのを止める。


「……」


「カノガミ?」


 カノガミが急に大粒の涙をボロボロこぼし始めた。


「え!? どうしたんだよ? 大丈夫か?」


「じゃって……じゃってぇ……これも、もう終わりかもしれんと思って……」


 カノガミが何度も顔を拭う。その姿になんだか胸が締め付けられる気がした。


「話してくれないと何も言ってあげられないよ」


「そう……じゃな。すまん」


 カノガミは、箸を置いてポツリポツリと話し始めた。


「ウチ、はな。封印が解かれた時、力を失ってたのじゃ」


「ああ。前から言っていたよな。って」


「昨日、あの子供と出会って、全てが分かった」


 あの子供……みーちゃんのことか。


「アヤツは……ウチじゃ」


「は?」


「正確には、『元のカミ』の力、それの大部分を持った存在じゃ」


「カミって『ノがみ』ってやつか?」


「そう呼ぶ人間もおったの。『元のカミ』はなんとか鏡の封印から逃げ出そうとするあまり、。その、大部分があの子供。力の残りカスがウチじゃ」


 カノガミが残りカス……。


「封印が解かれた時、アヤツの気配は無かった。恐らく、ウチだけが取り残され、アヤツは白水に潜伏しておったのだろう。ウチの封印を解く前に何か変わったことはなかったか?」


「あ……お前と会う前、大きな地震があった」


「それじゃ。その時抜け出したのじゃ」


 そう言えば、あの鏡……1枚はヒビが入っていた。アレはみーちゃんが出た後だったのか。


 「ウチが目覚めた時、記憶もあまり残っとらんかった。昔のウチは悪行を尽くしておったのかもしれん」


「それは分かったよ。それで、昨日のみーちゃんは何をやったんだよ? アレからお前の様子がおかしいぞ」


「……」


「カノガミ。頼むよ」


「い……いいか、ジュン……ここから、心して聞いて欲しい」


 カノガミの声は、震えていた。


「ああ」


「あのみーちゃんという子供はな。小宮達を14のじゃ」

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