第26話 3/4

「14年前にリープって……」


「胎児の状態へのリープ。前にジュンに言ったことを覚えておるか?」


「リープ先が幼すぎると、脳がパンクするって……」


「そうじゃ……そしてそれが胎児であれば尚更。記憶が流れ込んだ瞬間……そのショックで絶命するじゃろう」


「ちょ、ちょっと待てよ! カノガミと関係無い他人をタイムリープさせられるのか!? しかも、生まれる前にって、何の為に!?」


「元のカミの力があれば、できる。目的は……分からん。じゃが、タイムリープは寿命を使って過去に意識を送る行為。飛んだ直後にリープした者が死んだらどうなると思う?」


「分からない。そんなこと考えたこともなかった」


「リープによって死んだ場合はの、使った分の寿命……つまりエネルギーが行き場を無くし、リープさせたカミの元へ戻るのじゃ」


「それって……」


「みーちゃんがやった行為はの……小宮達の14年という寿命を自分のものにする行為じゃ」


 そう言えば……みーちゃんが呟いていた。


69


 あれは、俺達の寿命を奪おうと……。


「そして、小宮、夏樹、犬山は消えてしまった……。あの子らはもう……」


「そ、そうだったとして! 俺達にもタイムリープがあるじゃねぇか! あの時、俺がリープしたわけだから、みーちゃんが小宮達を消したのは今から数えて……6日後だ! それを止めれば」


「ジュン。今の段階で既に小宮達は消えておるのじゃ。ここは小宮達が生まれなかった世界。。いくらこの世界でリープしようとも、小宮達は……救えん」



「嘘だっ!!」



 家を飛び出した。



 みんな消えてなんかいないさ。仮にそんなことがあったとしても、今はあの日から6日も前なんだ。絶対無事だ!



 となりの家にはきっと小宮がいる。




「……んだよ、これ……?」


 隣の家に「小宮」という表札は無くなっている。そこには、全く知らない人が住んでいた。



--ジュン……家に戻ろう。



 あ! 連絡網……学校の連絡網にアイツらの電話番号があったはずだ!



 カノガミの横を通り過ぎて部屋に戻る。



 冷蔵庫に貼られたプリントをひったくるようにして取り、机の上に広げた。


 ……無い。俺の学年のどこにもアイツらの名前が無い。


 そうだ! 料理谷先輩に電話してみよう! 情報部の面々とも面識があったし「何冗談言ってるんだ?」って笑い飛ばしてくれるさ!


 プルルルル。


「どうした外輪?」


「あの、夏樹って男子知ってますよね? 芦屋夏樹。この前実習室にも居た……」


「ん? ウチの学校の生徒でだろ?」


「……」


「おい? 外輪? いきなり」


 受話器を置いた。


 全身から力が抜けるのを感じる。何も考えられなくなり、イスに座り込んだ。



「……ジュンが感じた頭痛があったじゃろ。アレは過去が改変された時に起きる波……普通の人間には感知できんが、ウチと繋がっとるジュンには感知できたのじゃ」


「はは……カノガミの言った通りだ。何もかも変わってる」



 みんな本当に消えちまったのか……。


 これからどうすればいい……。


 俺は……。


「ジュ、ジュン」


 カノガミは酷く怯えている。エプロンを掴み、チラチラとこちらを見てくる。


「ジュン。身勝手なのは分かっとる。でも、でも、ウチをどうか許してくれ……これからどんな罪滅ぼしでもする。ジュンの望むことならなんでも……じゃから」


「うるさい!」


 カノガミが伸ばしてきた手を払う。


「お前は……っ! なんでこんな時に自分のことなんて……」


 俺が拒絶した途端、様子が変わった。


 カノガミは震えが止まらないようだった。


「い、嫌じゃ……嫌……」


 目は見開かれて、もう……みんなといた時の顔じゃ、ない。笑ったり怒ったりするあの顔じゃない。

 

「……」


 体を抱きしめるように、震えを抑えているようだった。


 そして、表情の無い顔で、なんとか声を搾り出すように呟いた。


「す、すまなかった……そうじゃな。こんな時に自分の心配なんて、最低じゃな……」


 カノガミはそれ以上何も言わず、光の玉になった。

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