第27話 4/4

 結局何も手に付かず、打開策も見つからず、また夜が来てしまった。


 寝てしまえばまた元の世界に戻っていたりするだろうか?


「なんだよそれ……あるわけないか」


 1人つぶやいて布団を被った。もう電気を消して寝てしまおう。何も考えたくない。


 あの時まで。


 みーちゃんが現れるまでみんなと楽しく過ごしてたのに……。



 何でこんなことに。



「ジュン……」


 カノガミのヤツか。さっきまでどこにいたんだよ。


 布団から顔を出して外を見ると、パジャマ姿のカノガミが佇んでいた。目は赤く腫れていて、さっきまで泣いていたのが分かる。



 カノガミが悪いのかな……元はカノガミとみーちゃんは「同じカミ」なわけだし……。



「ジュン……お願いじゃ。抱きしめさせておくれ」


「なんだよ。向こうで寝ろよ」


「嫌じゃ……嫌じゃ。寝るのが怖い。暗いのが怖い」


「お前……前は1人で寝てたじゃん」


「……怖いのじゃ。ジュンに嫌われて、ジュンが離れてしまうのが……また、ウチは1人になってしまう。目を開けても閉じても真っ暗な世界に放り込まれてしまうんじゃないかって……」


 そういや、家に来たばかりの時は勝手に布団に入ってやがったな、カノガミの奴。封印のこと、そんなに……。


 ……。


 俺も知ってる。1人ってどういうことか。


 寝ても起きてもずっと1人。


 帰り道から見える真っ暗な部屋。


 帰っても聞こえない「おかえり」


 誰も作ってくれることのないごはん。



 でも、俺にはみんながいた……学校に行くと、小宮に振り回されて、夏樹とふざけて、犬山を頼って……。


 俺はみんなと話せる。触れ合える。


 ……。


 カノガミには俺しかいない……か。


「ジュン。頼む。ジュンとの日々がウチの幸せじゃ。1人なのは……嫌じゃ」


 みーちゃんに襲われた時のことが脳裏によぎった。


 カノガミは、あんなに必死になって、ボロボロで、みーちゃんを止めてくれたよな。俺を助ける為に……。


 カノガミは……知らなかっただけだ。みーちゃんのことも。元のカミのことも。


「……いいよ」

 

「ありがとう」


 カノガミが布団の中に入ってくる。カノガミの腕が俺の背中に回る。


「ジュンはあったかいの」


 カノガミもほんのり温かい。普通の人とは違うけど、確かにぬくもりを感じる。


 カノガミって生きてるのかな? 死んでるのかな? 俺にしか見えない。俺にしか触れないヤツ。


 昔のコイツは……友達いたのかな?


「なぁカノガミ」


「なんじゃ……?」


「カノガミはなんで、俺に取り憑いたんだよ? あの場には小宮だっていたろ」


「聞こえたのじゃ。ジュンの声で。『カミサマだって寂しいだろうな』って……」


 カノガミの腕の力が強くなる。


「じゃから、どんな奴かと思って様子を見ておった。そしたら、ふふ……死にそうな自分より、他人のことを気にかけるアホがおった」


「あぁ、だからあの時『アホがおる』って話しかけて来たのかよ」


「アホにアホと言ったまでじゃ」


「お前なぁ」


「まぁ聞け」


 ほんの少し、ほんの少しだけどカノガミの声がいつもの調子に戻った気がする。なんだか、それが心地良くて、もっと聞きたいと思った。


「でも、それはウチもじゃった。蘇ったばかりで、力も弱り切って、いつ消えるかも分からんのにジュンの様子ばかり伺っておったからの」


 もっと。


 もっと聞きたい。


 コイツの、いつもの声。


「お前もバカじゃのぉ〜」


「こら、真似するでない」


 意味もなく、軽口を叩いてしまう。でも、カノガミは受け止めてくれる。


 気がつくと、どちらからでもなく笑っていた。


「アホバカで似たもの同士かもな。俺達は」


 カノガミの腕が、少し緩んだ気がした。


「ごめんな」


「え?」


「お前の悩みを『自分のことなんて』って言って」


「あ……いや……ウチは……」


「俺、カノガミの気持ち分かるよ。1人が怖い気持ち」


 なんだか、元気の無いカノガミのことを見ていると、言葉にできない気持ちが湧き上がる。


 俺も、カノガミの背中に手を回した。


「だからカノガミのこと1人になんてしないよ」


「ジュン……」


「でも、みんなのことを諦めることはできない。カノガミが俺のことを慕ってくれるように、俺もアイツらに救われたんだ」


「うん」


 カノガミが俺の胸に顔を埋める。大人の姿をしているカノガミの方が、ずっと俺より背が高いのに……不思議な感覚がした。


「だから、カノガミにお願いするよ。カミサマに」


「……」


「俺は、今から……小宮や、夏樹や、犬山を諦めきれずにもがくよ。けど、絶対心が折れそうになると思う。だから、俺と手を繋いでいてくれるか? 一緒にみんなを助ける方法を探してくれるか? たとえ、無理な願いでも」


 カノガミの瞳が真っ直ぐ俺の瞳を覗く。


「……分かった。ウチがずっと側におるのじゃ。みんなを一緒に助けよう」


「ありがとう」


 カノガミのことを強く抱きしめた。


「ちょっと……っ!? ジュン……は、恥ずかしい、のじゃ」


「自分から抱きついて来たくせに」


「う、うるさい……」



 不思議だった。



 カノガミが居てくれると思うと、全ての不安が無くなったような気がした。

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