彼と彼女。なのじゃ。
第170話 1/1
その後、半壊した白水中学はカノガミとみーちゃんが数日かけて建物の時を戻してくれたことで無事に元の形状を取り戻した。
もう1人の俺は、目を覚ましてから1週間ほど俺の家へ滞在し、みーちゃんやカノガミに容態を見てもらいながら、回復していった。
俺は、ロベリアに貰った二足歩行機械を彼に渡した。彼に時の力を使わせずに世界を旅させる。消えた彼女を探させる為に。それがきっとロベリアの真意だったと思うから。
そして、彼を見送る日がやって来た。
二足歩行機械の整備方法を教えるクシア以外、みんなは見送りを遠慮してくれた。俺達だけにしようと気を遣ってくれたんだな。きっと。
「ありがとうみーちゃん。カノガミさん。君達のおかげですっかり元通りになったよ」
「あなたにね、伝えておかないといけないことがあるの」
みーちゃんが彼の手を取った。
「もう1人のお兄ちゃんは憑依態で何千年という時を過ごしていたせいで、体に変化が起きてしまったみたい」
憑依態で……彼が災厄として過ごした時間はそんなにも長いものだったのか。確かに、俺が見た災厄の記憶では様々な世界を彷徨っていたみたいだし……時間も移動していた。実時間にするとそれほどの時になってしまうのかも。
「……俺はもう長くないってことなのか?」
「ううんそこは心配しないで。あなたはね。時のカミになってるわ」
「「えぇぇ!?」」
「も、もう1人の俺が……!?」
「か、カミになっとるじゃと……!?」
彼が手のひらを見つめる。
「それって……」
「私達と同じ。死なない時のカミ。今は憑依態だけど、その憑依体を解除したら私とカノガミのように力を分け合うことになるわね」
「そっか」
「い、意外に受け入れとるようじゃな」
「時間ができたと考えることにするよ。それに……」
彼が悲しげな顔をする。
「色々と思い出して来たんだ。彼女のことも、俺がやってしまったことも」
「あまり思い詰めないでね。あれは思念達の影響なんだから」
「ありがとう……でも、俺が死なないのなら時間をかけて罪を償うよ。彼女を探しながら」
彼がツインディスクを捻る。すると、そこから二足歩行機械が現れた。ロベリアがくれた時空間転移専用機体。武器も何も付いてないシンプルな形状のものだった。
「本国に頼んで私達の持つ世界座標は全てその中に入れておきましたわ」
「いいのか? クシアさん達にとって大切なデータだって聞いたけど……」
「大丈夫ですわ。私は災厄を消した英雄ということになっておりますの! ちょっとぐらい無理を言っても通りますわ」
クシアが胸を張る。いや、偉そうに言うなよ……。
「本当に、みんなにはなんて言ったらいいか……」
彼は申し訳無さそうに俺達の顔を見た。
「もう1人の俺。カミサマになったんだから俺の願い聞いてくれよ」
「なんだよ? 昔の俺」
「ややこしいな!? なんて言ったらいいかワカンねぇ!!」
彼が笑う。自分ってこんな感じに笑うのかな? なんだか不思議な気分だ。
彼の目を見て真っ直ぐ伝える。俺の気持ちも、彼に託したいから。
「彼女を絶対見つけ出して、幸せにしてやってくれ」
彼は噛み締めるように俺の言葉を聞くと、手を差し出した。
「絶対その願い叶えるよ」
彼と握手を交わす。それは、自分とは思えないくらい大きい手だった。彼が大人だからなのか、彼女を想う気持ちが強いのか分からないけど、大きな……。
「中学生なのに力、強いな」
「え?」
「俺が昔の頃は……君みたいに力強くなかった」
「……ありがとな」
彼とは生きて来た世界が違うから、未来の俺そのものではないけど……認められた気がして、生きていていいと言われた気がして、すごく嬉しかった。
「それじゃあウチとみーちゃんからプレゼントを送ってやろうかの〜」
カノガミがみーちゃんを見てニヤリと笑う。
「まぁね。1人で旅立つあなたには必要なことだと思うから」
「プレゼント?」
不思議そうな顔をする彼の前でカノガミとみーちゃんはあのポーズを取った。
「「はっ!!!」」
「え、えっと……」
「見てなよ」
混乱する彼の前が眩い光に包まれる。
そして……。
光の中から白水中学の制服を着た少女が現れた。
「パンパカパーン! 彼ノがみ様だよ♡」
「あ……」
彼が、彼ノがみを見て目を見開く。
「俺達の世界の彼ノがみなんだ。アンタの知ってるあの人とは結構違うと思うんだけど、その、出発前に会わせてあげたくて……」
彼ノがみが、目を閉じてこめかみに人差し指を当てる。そして、ゆっくりと目を開ける。その表情は、幼さこそ残るものの、俺が災厄の夢で見た彼ノがみにそっくりだった。
「彼ノがみ……」
「どうしたのだ、準?」
口調も彼ノがみが再現してる。声も……全てに聞き覚えがある。本当に、彼女と見間違うほど……。
「その制服……その姿……昔の、俺が子供の頃の、彼女そのまま……だ」
彼の目から涙が溢れ出る。
彼はゆっくりと彼ノがみの前に歩いて行く。
「あ、あの」
「ん?」
「少しだけ……その、抱きしめさせて、貰えない……か?」
彼は、彼ノガミへと問いかける。
「うん」
彼は震える手で、彼ノがみを抱きしめた。
嗚咽を漏らしながら、彼女の存在を確かめるように。
「彼ノがみ……迎えに行くから。どれだけかかっても。絶対……」
彼の背中に、手が回る。彼の記憶にその存在を焼き付けるように。
「うん。待っておるぞ。何千、何万の時が経とうとも、私はずっと準のことを……だから、私を迎えに来て」
泣きじゃくる彼の頭を、彼ノがみは優しく、慰めるように撫で続けた。
◇◇◇
「行ってしまわれましたわ」
彼が立っていた場所には何も残されていなかった。足跡も、何もかも。まるで彼が存在していなかったかのように。
でも、俺達には分かる。彼も彼女も確かに存在しているんだって。
「さーて。せっかく出て来た訳だしぃ。私もゆっくりしていこっかな♡」
「えぇ!? 早くみーちゃんを返してあげないと比良坂さんに怒られるって!」
「だって〜こっちの準も甘えたいでしょ私にぃ♡ 夢であの人と同じこと体験した訳だし〜」
「な、なんでだよ……」
ちょっとだけ図星を突かれて怯んでしまう。
「寂しかったでしょ? 悲しかったでしょ? その想い……いっぱい私に甘えて今日という日に置いていきなさい♡ 引きずったりしたらカノガミとみーちゃんに失礼だよ?」
彼ノがみがニヤニヤ笑いながら腕に抱きついて来る。
全く調子いいヤツだなぁ。
まぁ、でも……。
「夕飯食ったら分離してくれよ」
「やりぃ♡」
たまには、いいかもな。
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