エピローグ♡ なのじゃ!
第???話
誰もいない文芸部室の扉が開く。扉から入って来たのは少女だった。少女は、部屋に置かれた椅子に腰掛ける。
切長の目に細く整った眉。14歳にしては端正な容姿。きっと彼女が内気でなければ同年代の男子は放っておかないだろう。
「おべっかなんていらない。私は貴方に怒っている」
少女はおかしなことに、誰もいない部屋の角を見つめ、誰かに話しかける。
「出て来なさい。観測者達に混じってこちらを見ているんでしょ?」
少女は独り言を続ける。その言葉には怒りの感情が混じっているのが分かった。
「私達を弄んで楽しかった? 何が目的なの?」
少女はさらに続ける。誰もいない壁に向かって。その壁が問いかけに答えることはないというのに。
「そこにいることは分かってる」
彼女の問いかけは部屋の中に虚しく響く。当然だろう。だって、この部屋には彼女しかいないのだから。
「もう一度言う。出て来なさい」
それでも彼女は諦めずに問いかける。例え虚しく響いたとしても、彼女は答えが返って来るまで延々と問いかけるつもりだろう。
「答えなさいよ。神気取りのクソヤロウが」
酷いな。そんな風に言わなくてもいいじゃないか。ジノちゃん。
「貴方にジノちゃんなんて呼ばれる筋合いは無い」
1人の時はよく喋るね。地の文じゃないと他人と上手く話せないのに。
「うるさい」
それで? 君は僕に何のようだい?
「貴方の真意を確かめに来た」
何の?
「災厄をこの世界に呼び込んだことを。外輪がこの世界の秘密を知らなかったら私達は消滅していた」
僕は何も君達を苦しめるつもりは無かったよ。
「あんなことをしておいてよくも……」
確かに君達の世界へ干渉はした。だけど、それは準君とカノガミによるラセンリープと、世界の融合によって干渉できるようになっただけだ。
「元々貴方が持ってる力じゃないと言いたいの?」
そう。ジノちゃんは勘違いしてる。僕はこの世界の神なんかじゃない。ただの観測者の1人。
ただ、他の観測者達と方法が違うだけ。君達の世界を観測し、他の観測者に見えるよう出力する。それだけの存在なんだ。
「貴方は私にこの力を目覚めさせた。災厄をこの世界へと呼び込んだ。そんなことをしておいてよく言えるね」
それは認めるよ。今の準君達の力を借りること。君にこの世界の秘密を解き明かしてもらうこと。その2つの条件を満たさないと彼女を救えなかったからね。
「彼女……?」
裏設定の彼ノがみ。寂しいカミサマ。彼女。消えた彼ノがみだよ。
「矛盾してる。神では無いと言いながら設定なんて言葉を使うじゃない」
それは、仮の呼称だよ。この世界が生まれる前の存在である彼女達を表すためのね。
ジノちゃん。僕はこの世界を生み出した訳じゃない。さっき言った通り観測しているだけ。準君やカノガミは、僕が出力している間も当人の意志を持って動いている。そこに僕が入る余地は無い。
君と、ここを見ている観測者達全員に大切なことを伝えるよ。
僕達観測者の世界と同じように、この世界も存在する。そして、それは同時に僕達も立体状に存在する世界の中の存在ということを意味する。僕達の世界と準君達の世界とでは世界の構造が違うだけだ。
「メタ発言が過ぎると思うけど」
誰も君達の世界が存在しないなんて証明できないよ。僕はおかしなことを言っているかい? それとも、君は僕の話を否定して、創造物に収まりたいの? 自分の存在を否定したい?
「絶対嫌」
それが自然だよ。僕は、たまたま、この広い多元世界の中にある1つ、君達の世界を観測できる能力を持っていた。そして、それを見える形に出力できた。それだけ。
「……」
だけどね。
出力されることの無い裏設定の彼と彼女は誰の目にも止まらない。準君やカノガミの物語の裏で起きた悲劇的な出来事は誰にも観測されず、救われず、それこそ悠遠の時を彷徨うことになっただろう。
だから災厄をこの世界へと呼び込んだ。今の準君やカノガミ、みんなの力を借りることができればきっと災厄になった彼を助けられる……そう思ったから。
だから君の力を目覚めさせた。君なら真実をこの世界の準君に伝えられる……そう思えたから。
そして、真実を知った準君達ならきっと彼女達を救ってくれると信じた。
「善意でやっていたと? それならこんな方法取らなくたって良かった」
僕には、この方法しか思い付かなかった。僕はそんなに頭が良くないから……。
災厄を呼んだことや、この世界の準君に辛い思いをさせたことは……悪いと思ってる。
僕がしたことが許されることじゃないことも、分かってる。
「外輪達に謝って」
残念だけど、僕は準君達と接することはできない。本来観測者とはそういうものなんだ。君が特別なだけだよ。
だから、君が代わりに謝っておいてくれないか?
「何で私が……」
彼女達を救いたいが為に、準君やカノガミ達を危機に陥れたのは事実だ。僕の大好きな彼らを。
本当に、すまなかった。
「……口だけならなんとでも言える」
ジノちゃん。頼むよ……。
「……分かった。折を見て言っておいてあげる」
ありがとう。ジノちゃんは優しいね。
「貴方に褒められても嬉しくない」
厳しいなぁ。でも、赤い光の中で君と出会えて本当に良かった。君も129話で僕の存在を示唆してくれたしね。
「外輪達の台詞に被せてしまったから誰も見ていないと思うけど」
はは。伏線なんてそんなもんだよ。
「ねぇ。なんで私を選んだの?」
……。
「代わりに謝ってあげるんだから、教えてよ」
君が、自分のことを脇役だと認識していたから。力の無い頃の君は、いつも物語の輪に入らず、みんなのことを遠くから見ていたろ?
「うん」
でも、観測者なら分かる。みんなと接していなくても、みんなのことを大好きな君の気持ちがね。観測者の中に、君を手伝ってくれた人達もいただろ?
「いた。助けてくれた人達……ついて来てくれたり、教えてくれたり……」
そう。君は僕達観測者と似ていたんだよ。だからこそ僕は君の力を目覚めさせた。準君達をよく観察していた君なら、きっと準君達のことを助けてくれると思ったんだ。
「……そう」
じゃあそろそろ行くよ。僕が出て来るのはリスキーなんだ。僕の世界にはこういうことを嫌う観測者達の方が多いからね。
「待って、もう1つだけ教えて」
ん?
「彼と彼女は出会えた?」
……結末を聞くなんて君らしく無いね。
「観測してるんでしょ? 教えてよ」
さぁ? この世界の話では無いからね。知らないままの方が綺麗な終わり方かもしれないよ?
「やっぱりクソヤロウじゃない」
ま、どうしても気になるなら近況ノートでも見てみればいいんじゃない? 最悪の人格破綻者の僕は最奥にでも隠してるだろうし。
表示されている近況ノートのさらに過去の分を見ることが可能なのは知ってるよね?
「知ってる。近況ノートの最奥……分かった」
それじゃ。僕は他の世界へ観測に行くよ。いつかまた会おう。機会があれば。
さようなら。ジノちゃん。みんな。
君達の世界に触れられて、僕も楽しかったよ。
「……」
「バイバイ」
あ、同じ人物の台詞が2回続くのはルール違反だよ。
「さっさと行け」
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