カイ兄が帰って来た!?なのじゃ!

第100話 1/3

「カノガミー昼できたぞー」


「お、昼は何かのぉ〜♡」


「ソーメンだぞ」


「……」


「なんだよ?」


「ジュン。これで昼にソーメンは3日目じゃぞ?」


「貰ったんだから文句言うなよ」


「しゃあないのぉ〜」


 カノガミがおもむろに冷蔵庫を漁り出す。そして、わさびやしょうがといった薬味以外に、ポン酢やらマヨネーズやらラー油を持ってテーブルに戻って来た。


「な、なんだよ!? その大量の調味料は!?」


「ん? 少しでも飽きんように味変するのじゃ」


「ぼ、冒涜だろ。ソーメンに対する……」


「そんな硬いこと言うでない。ラー油とか結構イケるのじゃぞ?」


「う、ウソだろ?」


 恐る恐る麺つゆにラー油を入れてみる。



「!?」



 ラー油を入れたソーメンは香ばしさと辛さが混ざり合った見事な一体感があった。


「ほれ。ウマイじゃろ? 何事も試しもせず否定するのは良くないぞ」


「なんだか説教される立場が逆のような……」



 その時。



 ピンポーン。



 家のチャイムが鳴った。


「おや、誰か来たようじゃぞ?」


「みーちゃんが泊まりに来るのは来週だったよな?」


「そのハズじゃぞ。まさか、またソーメンが届いたりせんじゃろうな?」


 カノガミをテーブルに残して玄関へと向かう。


 誰だよこんな昼時によ〜。



「はーい。どちら様ですか?」



 チェーンを外してドアを開ける。



「準!! 会いたかったぞぉ!!」



 ドアの外にいたのは……。


 スーツケースを持った笑顔の男性が1人。



 外輪開成そとわかいせい……俺のおじさん。



 「カイ兄」だった。



「カカカカカカカイ兄!? どどどどどうしたの急に!? かかかかか帰って来るって言ってたっけけけけ!?」


「そんな驚いた? いやぁ盆も帰って来れそうになかったからさぁ! 有休貰って帰って来ちまったよー! ちょうど仕事に空きができてさ」


 カイ兄が笑う。


 や、ヤバい……!? カノガミと何の打ち合わせもしてねえええぇぇぇ!?


 ど、どうしよう!? カノガミの可視化を解除して見えなくして……いや、何日泊まるかも分かんねぇんだ、人間として紹介して……いや、一緒に住んでるとか通報されたりしないよな? なんて言ったら自然なんだあああああぁぁぁ!?


「そろそろ中に入れてくれよぉ。長旅で疲れちまったよー」


「カカカカカカカイ兄!? ちょ、ちょ〜と部屋散らかってるから、も、もう少しだけ待ってて!!」


「え? おい準」



勢いよくドアを閉めてチェーンをかける。



 急いでリビングに戻るとカノガミがソーメンを食っていた。


「どうしたのじゃ? なんか届いたのか?」


「ちちちちち違うんだよ! カイ兄が帰って来た!!!」



「カイ兄……?」



 カノガミが一瞬考える素振りをする。しかし、その意味を理解した途端、顔が青ざめていった。


「どどどどうするのじゃ!?」


「いいいいや考えてくれよ! と、とりあえず! もう一緒に住んでること言うからな! 設定はお前に任せるから!!」


「りょりょりょ了解じゃ! ふ、服どうしよう!?」


 カノガミがTシャツから服をコロコロ切り替える。


 カノガミは好きな服に一瞬で切り替えることができる。だけど慌てすぎてよく分からない組み合わせになったりしていた。


「ちょ!? お前!? 婦警の格好とかやめろよ!?」


「あ、焦ってなってしまったのじゃ! ちょっと待って……」



  !?



 ドアノブが回る音がする。



「おーい! なんでチェーンかけるんだよぉ〜。開けてくれよ〜」



「カカカカカカカイ兄!? い、今開けるよよよよよ!」



 チェーンを開けてカイ兄を家へと入れた。



「なんだよ〜そんな見られたらヤバいモンでもあったのか?」


「い、いや……そんなことないんだけど……カイ兄に言わなきゃいけないことが……」


 た、頼むぞカノガミ。お前の設定に全てがかかってるんだ……。



 恐る恐るリビングへの扉を開ける。



 !?



 カノガミがいない!?



「そんなに散らかってないじゃんかよ〜」


 カイ兄がリビングをキョロキョロと見回した。


「ん? 誰かと昼飯食ってたのか?」


 テーブルに置かれたソーメンと、食器類を見たカイ兄が不思議そうな顔をする。


「あ、あ〜そうなんだよ……。じ、実は……」


「分かった!」


 何かを思いついたかのように大きな声をあげると、カイ兄は俺に顔を近づけてきた。


茉莉まつりちゃんだろ?」


「……は?」


「いやいや〜。俺もさぁ思ってたんだよ。すぐ隣に幼馴染の女の子が住んでるなんて、そういう関係になってもおかしくないってさ! 青春だねぇ〜憧れるなぁ」



 カイ兄が納得したようにうんうんと頷く。



「そういう関係ってなんだよ!? 小宮とは何もないよ!!」


「え? お前、茉莉ちゃんと付き合ってるんじゃねぇの? 急に俺が帰って来てどっかに隠れてんだろ?」



「ないよ!」

「ないのじゃ!!」



 突然。



 クローゼットからカノガミが飛び出して来た。



 ……。



 スーツ姿で。



「え? え? え? お、おい準!? この女の人誰!?」


 驚くカイ兄を前に、カノガミは神妙な面持ちで話始めた。


「はじめまして開成さん。私は……準さんとをさせて頂いております……お、大橋カノ子と申します」



  は?



 大橋カノ子って誰? どういう設定で、しかも何でスーツ姿なんだよ……。


--仕方ないじゃろ!! 咄嗟に大橋先生が浮かんだのじゃ!!


 頭の中でカノガミの声が聞こえる。


 あ、なんだかこうやって頭の中で話すの久々だなぁ〜。可視化していても会話できるんだなぁ〜ってそれどころじゃねぇ!? どうすんだよ!


--と、とにかく、ウチが話す! ジュンはフォローしておくれ。


 わ、分かったよ。



「は? じ、準……この女の人は何を言ってるんだ? し、しかも付き合ってるって……」


 カイ兄は壊れたロボットのように、ゆっくりとこちらを見た。


 や、ヤバい……カイ兄の目が死んでる! 頼むカノガミ! なんとか上手いこと説明してくれ! 俺達が真面目な関係だってことが分かるように!


--!? 「真面目に」じゃな!? 任せるのじゃ!



 カノガミは深呼吸すると、再び真剣な顔つきで話し出した。



「あ、あのですね開成さん……私は、その、白水中でをしておりまして……、その、準さんに、……一緒に暮らしております!」



 やめろおおおおお!? それ以上話すなあぁぁぁぁ!!



--なんかいかんかったかの!?


 何で教師なんだよ! 「劣情を抱く」って意味知ってんのかよ!?


--え? 教師って真面目な職業じゃろ? 「劣情を抱く」って、「恋心を抱く」を難しくした言葉じゃろ? 極力問題無さそうな言葉を選んだつもりじゃが……。


 問題大有りじゃねぇかあああああ!?  しかも最後の誘惑した末暮らしてるってヤバすぎだろ!?


--う〜「アプローチして」って言おうとしたのじゃ! 難しい言葉で言おうとしただけなんじゃあ〜真面目に見えるように!



 逆効果だろおおおおお!?



「は、はは……じゅ、準が女教師に……」


「カイ兄いいいいいぃぃぃ!?」


 カイ兄は気を失ってしまった。



◇◇◇


 その後、意識を取り戻したカイ兄に正直に話した。カノガミがカミであること、一緒に住んでいること。タイムリープやイアク・ザードに関しては伏せたけど……。


 カイ兄は最初こそ疑っていたものの、カノガミの衣装替えや可視化の解除をみせると、信じてくれた。



 というか。



 むしろカイ兄は目を輝かせていた。



 さすが俺の叔父。



 順応性が高い。

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