第99話 3/3


 翌日。約束通り紺田の爺ちゃんちへ行った。


「紺田。考えてきたぜ。賞品」


「お。教えてくれよ」



「駄菓子1万円分でさ、カノ子姉ちゃんカノガミの反応良かっただろ?」


「めちゃくちゃテンション上がってたなぁ」


「そりゃあの。とんでもない数じゃぞ? テンション上がるじゃろ!」


「そうなんだよ。駄菓子って単価が安いから、すごい数になる。だから、それを景品にする。少し増額して12000円分」


「ん〜? でもさ12000円の景品ってちょっと地味じゃねぇか? もっとゲーム機とかじゃねぇと」


「いや、それだと1回キリしか効果ないだろ? 『駄菓子パス』ってのを考えた」


「駄菓子パスぅ? なんだそれ?」


「駄菓子パスっていうカードを作ってそれを景品にする。そのパスを持ってる奴は、1年間、毎月対象商品から駄菓子を50個貰えるんだ」


「駄菓子を50個……毎月……じゃと?」


「今のカノ子さんの反応……確かに俺らにしたらデカいなそれは」


「そう。しかも『毎月』って割り振ることで、優勝者は毎月ここに通うだろ? ソイツが友達を連れて来たら、いい呼び込みになると思わないか?」


「でも、単価が高い商品ばかりを選ばれたらどうする?」


 紺田の爺ちゃんに質問された。


「対象商品以外は20円割引で1つ扱いにする。対象商品は20円の商品を集める。10円のは2個セットにして、しょぼく見えないように種類をとにかく増やして」


「毎月菓子を持って行かれるだけになる可能性もあるんじゃないかの?」


「それでも費用は年間12000円だろ? それに、毎月そんなパスを使って買い物してるヤツがいたら目立ちそうじゃん?」


「いや、面白いと思う。このままでもジリ貧だしな。ならワシは面白いことをやりたいぞ」


「あ〜あと俺も調べたんだけどさぁ」


 紺田がゲーム筐体を指差す。


「格闘部の明暗あけくらと相談したんだけど。この辺のゲーセン、バーチ○ロン無いらしいぜ。俺はノーマークすぎて気が付かなかったけど」


 あぁ。だからゲームの営業マンは「狙い目」って言ったのか。


「ほぅ、そんな珍しいのじゃな」


「そうなると、募ればやりたいヤツ結構いると思うんだよね」


「おお! いいじゃん!」


「あ、ワシも今思い付いたぞ。人数が多くなれば小学生の部も設けよう」


「店主? それじゃと景品の額が倍になってしまうのじゃぞ?」


「ああ。だがな、大会の間口が広くなれば子供も出たがるだろうしな。ちょっとでも楽しんでもらいたい」


 紺田の爺ちゃんが優しそうな笑みを浮かべる。ずっと店を続けて来たくらいだし、子供好きなんだろうなぁ。


「あ、告知方法は俺らに任せとけよ。頼りになるヤツいるからさ」



◇◇◇


 そして大会当日。


「おぉ!? 小中学生に高校生まで……こんなに人が集まるとは」


 紺田の爺ちゃんの目が輝く。駄菓子屋の店内も店外も人でいっぱいで、ちょっとした祭りのようだった。


「ふっふっふ。ソトッちぃ〜これは1つ貸しだからね♪」


「いや、マジで助かったよ小宮」


 小宮が勝手に作った白水中学公式掲示板。そこに今回の大会の話を書き込んだ。しかも、近隣の小学校、高校、白水町の地域のネット掲示板にまで宣伝の手を広げてくれた。


「やっぱりねぇ。みんな飢えてるんだよ! 限られたお小遣いの中でいかにオヤツを工面するかをね♪」


「ははは……ま、まぁ俺らも動機がそれだったしな」


「ヨ! 紺田ぁ〜遊びに来てやったぞぉ!」


 声のする方を見ると、ジャージにサンダル姿の女子、明暗あけくらが立っていた。


「明暗〜お前が言った通り結構人来たぜ!」



 2人が手で謎の挨拶を交わした。


「な、なんじゃ? あのオシャンティな手の動きは……?」


「アイツらだいたいでいるもんな。仲良いんだろうなぁ」



「やっぱり来んの? 大丈夫?」

「だからバーチ○ロンにしたんっしょ」


 明暗と紺田がほぼ同時に話す。


「ど、同時に話してたのに……」

「か、会話が成立しておる……」



「あ、ソトッちとカノちゃんが明暗と紺田みたいになってるねぇ♪」



 すると、後ろから不穏な声が聞こえた。



「うふふふふふふ……クソガ、いえ子供達がいっぱいねぇ〜合法的にボコボコにできる〜」


 振り返るといやらしい笑みを浮かべた女性が立っていた。



 お、大橋先生!?



「何驚いてんだよ〜知らなかったのかぁ?」

「先生はゲームと聞いたらすぐ出てくるよ」


「子供達をクソガキと言おうとしてたの……」


「犬山もボコボコにされたって……ゲームめちゃくちゃ上手いんだろ?」


「ソトッち〜。大橋先生はね〜普段溜めたストレスを格ゲーで発散する性質があるの♪ 主に子供相手に」


「性質って……しかも子供相手とか大人気ねぇなぁ……」


「でも、そんなヤツが来たら優勝を攫われてしまうのじゃ!?」



「先生バーチ○ロン苦手だから大丈夫」

「唯一バーチ○ロンだけは下手だから」



「え?」


 意気揚々と店内に入って行った後、店内からは大橋先生の絶叫が聞こえた。



「クソガアアアアアああああ大人を舐めんじゃないわよおおおおおおおおおおおお!!」



「お、おい……!? 大橋先生めちゃくちゃキレてんじゃねぇか!?」


 明暗の顔が邪悪になっていく。


「くくく……アタシがねぇ騙したの。大橋先生には今日ストゼ○の大会だって伝えてねぇ」


「え? お前……先生騙して自分から連れて来たの……?」


 紺田が困惑の表情を浮かべる。先程までのコンビネーションは見事に崩れていた。


「明暗ぁ……な、なんでそんなこと……」


「アタシはねえ〜大橋先生に一矢報いる機会をずっと待ってたんだよ! 普段アタシらを散々ボコボコにしてっからさぁ!」



 紺田は肩をすくめた。



「はぁ〜女の戦いってヤツか……怖いねぇ」

「紺田ぁ!? アンタもやるんだよぉ!?」



「嘘おおおぉぉぉ!?」

「来いやぁぁぁぁ!?」



 紺田は明暗に引きずられて店の中へと消えていった。



「いつも一緒でも分からないことってあるんだねぇ♪」


 店内へと入って行く2人を見送りながら、小宮が呟いた。



「……そうじゃな。相手の気持ちを知らず嫉妬したり……の?」


 カノガミがそっと手を繋いで来た。いつもなら恥ずかしくなる所だけど……今日はすごく、嬉しかった。


「あ! な〜にをイチャイチャしてるのかなこの2人は〜今度アミちゃんが来たら言ってやろ〜♪」


「ま、待てって小宮ぁ〜」


「じゃ、奢りね♪」


「げ!?」


「ジュン! ウチにも奢っておくれ♡」


「マジかよぉ!?」


 

◇◇◇


 結局この日、バーチ○ロン大会は大盛況に終わった。


 紺田の爺ちゃんは大会中も菓子と飲み物が売れまくってまた開きたいと言うほどだった。


 大会終了後、駄菓子屋はバーチ○ロン目当てのプレイヤーや、菓子を買いに来た子供達で一気に賑わいを取り戻した。




 肝心の大会の内容はと言うと……。




 1回戦で大橋先生と明暗が激闘を繰り広げた末、明暗が辛くも勝利を収めた。明暗の狙い通り、大橋先生の腕前は素人感があった。



 敗れた大橋先生は血の涙を流しながらリベンジを誓っていた。


 紺田は、そんな大橋先生を見て怯え切っていた。


 俺やカノガミも賑やかしとして参加したが、どちらも1回戦敗退となってしまった。


 しかし、カノガミがキャアキャア言いながらプレイする姿は、一部の大会参加者に刺さったらしく、なぜか大量の差し入れを貰うことになった。


 俺は……カノガミと一緒にいたせいで、会場の殺気で消されそうになった。



 その後、準決勝で明暗と紺田が戦い、コツを掴んだ明暗の圧勝。



 優勝は会場全員が明暗の物になると確信した。




 そして決勝戦。





 優勝したのは……。





 小宮茉莉だった。


「なんでじゃっ!?」


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