第98話 2/3
「紺田。俺思うんだけど」
「なんだよぉ?」
「ここってスペース結構あるだろ? 何かのイベントとか開いてみたらどうだ?」
「イベントぉ? 何で?」
「ここの店ってさ、品揃えは充実してるわけだし、あとは知名度だけだと思うんだよ。だったら盛大にイベントを開いて人を集められれば……」
「確かにそうだな。その案は良いと思うぜ」
「良いこと思い付いたのじゃ!」
カノガミは自信満々に声を上げた。
「バーチ○ロンの大会を開くのじゃ!」
「大会ぃ?。バーチ○ロンで人呼べるかぁ?」
紺田が怪訝な顔をする。
「ふっふっふ……豪華な賞品を用意するかの」
「賞品って何を用意するんだよ?」
カノガミがニヤリと笑う。
「優勝者の願いを1つ叶えてやるのはどうじゃ? 過去に行った過ちを……ジュンをリープさせて……いてっ!?」
カノガミの頭を叩いて無理矢理店の外へ連れて行く。
「痛たたたたたた!? ジュン!? 痛いのじゃ!?」
「お前なぁ! 賞品に俺の寿命使わせんじゃねぇよ! 『10年前にやり直したいことが……』とか言われたらどうするんだよっ!」
「じょ、冗談じゃろ〜? じゃあ……みーちゃんに頼んで優勝者本人をリープ……いてっ!?」
再びカノガミの頭を叩いた。
「一緒だろうがっ!!」
「う〜痛いのじゃあ……」
カノガミの目に涙が溜まっていく。さっきまでの笑顔があっという間に泣き顔になってしまった。
「あ! す、すまん……」
しまった……ついカッとなってしまった。
「う、ウチも悪かったのじゃ……悪ふざけが過ぎたの……」
カノガミが目を伏せる。
なんとなく、気まずい空気が流れた。
「お〜い。結局どうするよ?」
紺田が店から顔を覗かせる。
ダメだ。普段みたいに振る舞わないと……。
あれ?
俺っていつもどうしてたっけ?
「すまん紺田。ちょっと今日の所は家帰るわ。明日また来るからさ」
紺田に顔が見えないよう気を遣いながら答えた。極力普通の話し方になるように。
「しゃあねぇなぁ〜じゃ、俺も大会のこと
そう言うと紺田は店の中へと戻っていった。
「帰ろう」
「そうじゃの……」
店に入るまでと打って変わって、2人とも、何も話すことなく歩く。
手のひらにカノガミを叩いた感触がまだ残ってる。
……。
すごく、胸がモヤモヤした。
◇◇◇
家に帰って、メシを食っても風呂に入っても、モヤモヤが取れない。
シャワーを浴びていると、昼間カノガミに手を出した時のことが思い浮かぶ。
前はそんなことしなかったのに。
カノガミの泣き顔が頭から離れない。
なんだか……。
いつもの俺じゃ、なかったかも。
夏休みに入ってから憑依態の特訓ばっかで、イアク・ザードと戦って、そのまま
ずっとカノガミと接して無かったのに……カノガミのことをあんなに待ってたはずなのに。
なんであんなこと……あんなの冗談だって分かり切ったことじゃん。
いつもみたいにツッコミ入れておしまいだったハズだろ。
……。
風呂から出ると、カノガミはテレビを見ていた。
気不味くて、少し距離をとって絨毯の上に座る。
「ジュン! 今テレビでな? そんなことあるわけないじゃろ〜っていう話をやってたんじゃけど〜」
カノガミはすっかり調子を戻していて、明るい声で話しかけてくる。でも、そのまま会話を続けてはいけないような気がして、もう一度謝った。
「あのさ……昼間は……悪かったよ」
「謝りすぎじゃぞ? ウチも悪かったのじゃし」
「……」
「ジュン? どうしたのじゃ?」
不思議そうな顔で俺のことを覗き込む姿を見ると、胸の中から感情が溢れ出してきた。
「ごめん。ごめんな……あんなことするつもり無かったんだ……」
「な、泣いておるのか?」
「あれ? 俺泣いてる? お、大袈裟だよな……ごめん……なんか……ごめん」
カノガミに言われて咄嗟に顔を拭う。
カノガミが来て背中を摩ってくれた。泣き止みたいのに、なぜか涙が止まらない。
「ごめん……ごめん……」
気の利いたことでも言えればいいのに、なぜか「ごめん」しか口に出せない。
「大丈夫。大丈夫じゃぞ」
手が、何度も俺の背中を往復する。それがすごく優しくて、胸が締め付けられた。
「ごめん。今、泣き止むから……」
「泣きたければ泣けばよい。ウチは気にしておらんし、ずっとジュンの側におるからの」
その言葉に嗚咽が止まらなくなる。
その時、分かった。
俺……色々なことがありすぎて、強くなきゃいけないって……マンガの主人公みたいに強くないと……って、勝手に思ってた。
先輩の努力に報いたいと思って決闘したこと、イアク・ザードと戦って怖かったこと、彼ノがみが消えて悲しかったこと……。
カノガミにずっと会いたかったこと。
全部、全部平気なフリしてた。
みんなが戦ってる中で俺が弱音を吐いちゃダメだって……消えることを約束してくれた彼ノがみを急かすようなこと言っちゃダメだって……。
でも、その時の感情が俺の中に溜まっていて……いつの間にか、俺の許容範囲を超えてた。
それで……いつもの俺じゃ無くなっていて……カノガミに当たってしまったんだ。
カノガミを泣かせてしまった。1番傷つけたく無い人なのに。
それが後悔になって、余計に涙が止まらなくなる。
「ジュンは強がりなバカじゃからの」
カノガミが俺のすぐ隣に座って手を繋いでくれる。耳元で聞こえる声は、俺がずっと聞きたかった声だった。
「バカ……か、も」
「でもウチは、それで良いと思うぞ?」
「う、う、うん……」
カノガミの肩にもたれかかって、小さな子供のように泣きじゃくってしまう。カノガミの肩を濡らしてしまう。
「仕方ないのじゃ。色々あったし。ジュンは普通の子なのじゃから……ウチに当たってもよい。ゆっくりいつものジュンに戻っていけばよいのじゃ」
「あ、ありがとう……か、カノガミ」
背中を摩る手も、肩から感じる温もりも、その声も……安心する。
「お、俺……カノガミのこと、ずっと、待ってた……2週間……ずっと……」
涙のせいで上手く話せない。でも、なんとか、カノガミに伝えた。
俺の奥でずっと思ってたこと。
「ふふふ。そうか」
優しい声が聞こえる。
カノガミの指が俺の髪を撫でる。それがすごく……心地良かった。
「ウチも……見苦しく嫉妬することなど……無かったのじゃな」
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