幕無編。じゃって。

駄菓子屋を救え!なのじゃ!

第97話 1/3

 ノがみが消えてから数日。


 今日は朝からウラ秋菜やみーちゃん達と憑依態の訓練をしていた。


「アヂぃ……」


 昼過ぎのアスファルトは遠くの景色が揺らいで見えるほど熱気に支配されていた。もうちょっと早く切り上げれば良かった……。


「のぅジュン? こう暑いとな〜んもやる気起きんのじゃが」


「つまり……何が言いたいんだよ?」


「決まっておろう……アイスを買っておくれ♡」


「え〜? 今月もう厳しいんだけど……」


ノがみには奢ったのじゃろ?」


「ぐ……っ!?」


 先日の彼ノがみとの件を問い詰められてから、カノガミはちょいちょいこの言葉を盾に要求を通そうとしてくる。


「あ〜あ。ウチはで許してと言うのに、ジュンはアイスの1も奢ってのじゃなぁ」


 う……言葉の端々にトゲを感じる。この前から時々トゲを出してくるんだよなぁ。なーんか微妙に距離がある。


 俺はもっといつもみたいに……。


「わ、わあったよ……でもコンビニのにしてくれよ?」


「ありがとうなのじゃ!」


 そう言うと、カノガミがビルの合間へと入っていく。


「おい? どこ行くんだよ? そっちにコンビニねぇぞ」


「あそこに商店みたいのがあるのじゃ」


 ん?


 ホントだ。路地の奥の方になんだか古びた店がある。駄菓子屋か?



「面白そうじゃな。行ってみるかの」



 近くに行くと、そこは如何にもな見た目の駄菓子屋だった。


 外には古びたガチャガチャの機械。中を覗いてみると、無駄に広い内観。ゲーム筐体きょうたいが2台と、壁に設置された棚に駄菓子がぎっしり陳列されていた。


「これ入ってよいのか?」


「え、いいんじゃねぇの? 開けっぱなしだし」


  店奥にはレジが置かれたカウンターがあったが、店員らしき姿は無かった。


「おぉ!? めちゃくちゃ菓子が売ってるのぉ!」


 カノガミは駄菓子の棚を眺めながら目を輝かせた。


「そういやカノガミは駄菓子屋に来たことないのか」


「行ったことあるのはコンビニかスーパーだけじゃの。お、アイスも売っておるぞ! このメロンの形しとるヤツ買っておくれ」


 カノガミがアイスの機械からメロンの容器に入ったシャーベットを取り出した。


 それを受け取って、俺用に棒アイスを1つ取り出してレジに行く。


「すみませーん」



「……」



 あれ? 人が出てこない。



「すみませーん」



「……」



 やっぱり出てこない。


「留守なのかな?」


「ウチに任せておくのじゃ」


 そう言うと、カノガミが目一杯息を吸い込んだ。



「こるああああああああああああ!? 客が来とるじゃろおおおおおおお!?」



「うるせぇ!?」


 カノガミが馬鹿でかい声を出すと、店の中から人が出て来た。やる気無さそうな感じで。


「ウィース……ちょっと待って……」



 ん? コイツ……。



「お前、格闘(ゲーム)部の紺田こんだじゃねぇか」


「あぁ……外輪かよ。アイス2つね」


 紺田はやる気無さそうにレジ打ちをする。小銭を渡すと、よく確認もせずにレジに放り込んだ。


「あざーす」


「なんだ、ここ紺田の家だったのか?」


「いや? 爺ちゃんち。今出かけてるから俺が店番してんの」


「な〜んかやる気ないのぉ〜」


「だって来ないし、客……」


「そ、それは確かにやる気出ないわな……」


 店の外から辺りを見回しても全く人通りが無い。


「あ〜あ。唯一の楽しみがさぁ格ゲーの筐体だったんだけど……来てみたらになっててさぁ。しかもなんで2台も同じの入れてんだよ……」


 紺田の指す方を見ると、2ゲーム筐体が2台。


 確かに……俺はロボット好きだけど、格ゲー好きの紺田はやらないだろうなぁ。


「なんでバーチ○ロンなんだよ……せめてバーチ○ファイターにしてくれよ……」



 紺田はため息をついた。



「もう店閉めようって親は言ってんだけどさ、頑なに辞めようとしないんだよなぁ」


「なんでじゃ?」


「さぁ? 趣味も兼ねてんじゃね?」



「こりゃ雄太! お客に何を愚痴っとる!」



「じ、爺ちゃん……」


 店に帰って来た爺さんに紺田は怒られていた。



◇◇◇


「この店もなぁ。昔は繁盛しとったのだが……周辺のビルを見ただろう?」


 アイスを食べながら、紺田の爺ちゃんの話を聞いた。


 少し前まではこの店も小中学生がよく来ていて賑わっていたらしい。だけど、近くに社用ビルが立つようになってから客足は減る一方なのだそうだ。


「会社員は駄菓子など買わんしなぁ。ビルのせいで、子供達に店の存在すら気付かれないんだ」


「確かに。俺らが知ってたら絶対通ってるよな」



 カノガミのおやつ代も安く済みそうだし……。



「やはりここは何かテコ入れすべきかなぁ。外輪君達も協力してくれんか?」


「え!? 俺達ですか!?」


「ああ。協力してくれたら礼をしよう。雄太。お前も協力してくれ」


「え〜俺も〜?」


「当たり前だろ! 売上伸びたら小遣いやるから」



「マジ!? じゃあ俺もやるぜ!」



 紺田……現金なヤツだな……。



「店主よ。礼と言ったがウチらには何をくれるのじゃ?」


「そうだなぁ。さすがに雄太の友達に現金で……というのもマズイだろうしな。売り上げ次第だが、ここにある駄菓子を1万円分あげるというのはどうだい?」



「い、いいいい1万円分の菓子じゃと!?」



 駄菓子の値札を見てみる。大体1つ20円から30円くらいだよな……すげぇ量になるぞ……。



「やるじゃろ!? なぁなぁ!?」



カノガミに激しく体を揺さぶられる。


「わ、わあったよ! やるよ!」



「おぉ! ありがとうな! 2人とも」



 その後、紺田の爺さんから店内を好きに見てくれていいと言われたので、駄菓子をいくつか買って、食べながらバーチ○ロンをプレイした。


 紺田とも対戦したが、俺とそれほど変わらない腕前だった。素人同然の俺と……。


「うおおおっ!! このロボ飛んだのじゃ!? オラオラオラっ!! 撃ちまくってやるのじゃああああぁぁ!!」


 カノガミはプレイ中、とにかくうるさい。叫びながら、2本のスティックをめちゃくちゃに操作する。でも、威勢とは裏腹に紺田に瞬殺されていた。



「うう……全然勝てんのじゃ……」



 紺田の爺さんは俺らの様子をニコニコしながら見ていた。


「そう言えば、なんで同じゲーム2つも入れたんですか?」


「ああ。筐体の営業マンに言われたんだ。とな。よく分からんが安かったし」


「俺に相談してくれよ〜爺ちゃん!」


「お前は高い最新ゲームを入れたがるだろ!」


「ちぇっ! ニーズが分かってねぇなぁ」


 紺田は大袈裟に肩を落とした。

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