帰還。なのじゃ!

第92話 1/1

 あの後、すぐに夏樹がデカイ車で迎えに来てくれた。


「それで、イアク・ザードはどうなったのデスか?」


「ここにいるよー♡」


 彼ノがみが大袈裟な仕草で時間玉を見せる。みんなが不思議そうに黒い玉を覗き込んだ。


「その中から逃げ出すことはないのかい?」


 蝶野先輩が心配そうに問いかける。


 そりゃあ、いきなりこんな玉見せられても分かんないよな。



「大丈夫だよ♡ 私の許可無しでは絶対に出られないから」


「恐ろしい力デスね。私達が死ぬ気で戦っても勝てなかった相手をこうも容易く……」


「私はまだその女のことを信用していない。いつ面白半分に人を消すか……すぐに芦屋の監視下に置いた方がいい。いや、いっそのこと再封印するか?」


 ウラ秋菜が鋭い目付きで彼ノがみを睨み付ける。


「あ? 私に助けられた分際でよくそんなことが言えるな。お前」


「うおおお!? 喧嘩するなお前らぁぁぁ!!」


 強引に2人の間に割り込む。何回このやり取り繰り返すんだよコイツら!?


 ウラ秋菜と彼ノがみは迎えが来るまでずっと睨みあっていた。もう、気が気じゃない。


「そうだぜ秋菜。彼ノがみさんが俺ら芦屋あしやを消すならとっくにやってるはずだ。それをしていないってことが友好的な印だよ」


「お、お兄様……」


「え〜? 君は芦屋なのに融通利くじゃん! いい男だねー♡」


「あ、彼ノがみさん……? おおおお俺はいつでも彼女募集中だよ!!」


「お兄様ああああああああぁぁぁ!? よりにもよってこの女にそんなことを言うなんてええええぇぇぇ!!!」


 ウラ秋菜が物凄い怒りの表情で夏樹の首を絞める。


「あ、秋菜ああああ!? 死ぬ!? それは死ぬから!?」



「みんな静かにして欲しいでござる」



 猫田先生が真剣な面持ちで声を掛けた。



 いつもと目付きまで違う。野生の殺気まで感じさせる瞳……。



 車内の全員が静まり返る。



「ど、どうしたんだ? 先生」



「非常に申し上げにくいのでござるが……」





 まだ何かあるのか……?



 

 イアク・ザードは彼ノがみが封印した。その上での問題……。




 まさか!?





 レイラさんの世界と何か関係が!?







「は、吐きそうでござる!! 車に酔ったでござるぅぅぅぅっ!?」



 猫田先生は隣にいたレイラさんにしがみついた。



「ちょっ!? おい! 私の膝の上で吐くんじゃないデス!!」


「し、師匠!? 急に猫田先生をパスしないで下さいよ!?」


「吐くぅぅぅぅ!?」


「こ、この車汚したら……ばば様に殺される!? 秋菜! 窓! 窓開けろ早く!!」


「わ、分かりましたお兄様!! 猫田! こっちに来い!!」


「秋菜殿♡」


「うぇっ!? おい猫田!! 太ももにすり寄るなぁぁぁぁぁ!?」


「秋菜殿に優しく介抱されたいでござるぅ〜♡」


「うわあああああ!? お兄様違うんです!? 私はこんなオッサンに興味はあああ!?」


「秋菜あああ!? それはいいから早く窓開けろおおお!!」


「おい弟子!? この馬車窓が勝手に開いてるデス!?」


「え? 師匠は街に行った時に車見たじゃないですか?」


「私をバカにするのデスか!?」


「理不尽だああああああ!?」


「お。じゃあ私の力で猫ちゃんのゲ○を巻き戻して……♡」


「やめてやってくれえええぇぇぇ!?」



 車内はめちゃくちゃだった。

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