アミちゃんの夏休み。なのじゃ!
第93話 1/2
「準。おはよ〜」
朝食を作っていると、カイ兄の部屋から
「おぉ。寝れたか?」
「朝までぐっすりだね〜」
「そりゃ良かった」
「そういえばなんで夜リビングの電気付けっぱなしだったの?」
「え? お前暗いの苦手かなと思って」
「ふ〜ん……」
「ほら。朝メシ」
「なんで食パン8枚もあるの?」
「え? それぐらい食うだろ?」
「ま、まぁね」
「あとサラダと目玉焼き」
「ちょっと!? ニンジン!? 私ニンジン嫌いなんだけど!?」
「まぁ食ってみろよ」
彼ノがみは顔をしかめたが、迷った末に1口だけニンジンをかじった。
「……おいしい」
「だろ? それだったら食えるかな〜と思って昨日仕込んだ」
「何? カノガミが食べてたの?」
「え? 違うけど? お前ハンバーガー食った時ピクルス気に入ってたじゃん」
確かにニンジン嫌いはカノガミも一緒だ。でもコイツの場合は酸味があった方がいいかも、と思い出したのが昨日の夕方だった。
まぁ、サラダにできそうな野菜がほとんど無かったからなんだけど。
「え」
なぜか、一瞬だけ彼ノがみが止まった気がした。
「そういや、今日はどうする?」
「私に聞いてんの?」
「当たり前じゃん。行きたい所あるか?」
「じゃ、じゃあ……準が行ってる学校見てみたい」
「なんでそんなとこ……」
「いいじゃんか〜見てみたいんだよ!」
◇◇◇
学校に向かっていると、比良坂さんが校門から出て来るのが目に入った。
そういや今日は比良坂さんと夏樹が取材に行く予定だったな。イアク・ザードの件でそれどころじゃなかったけど。
「あ! 舞じゃーん♡」
「あ、彼ノがみさん!? ちょっと、その、そんなに抱きつかないで?」
「なんでか知らないけどぉ〜私、舞を見ると抱きつきたくなるんだよねぇ〜♡」
「うぅ……外輪く〜ん……助けてぇ〜」
「ひ、比良坂さんがこういう目に合うのって珍しいな……もしかして中のみーちゃんの影響かな」
「え!? みーちゃんの!?」
比良坂さんが暗い笑顔になる。
前も見たんだけど……中々のインパクトだよな……。みーちゃんが関わると比良坂さん人が変わるなぁ。
昨日、みーちゃんとカノガミが融合してしまったことを話した時、比良坂さんはもっとショックを受けると思っていた。
でも、比良坂さんは、みーちゃんの意思を尊重すること、彼ノがみが2人を返してくれることを信じる。と言っていたな。
比良坂さんは俺が思っていたより、ずっと強い人だ。
「ま、舞……? その笑顔……ちょ〜と怖いかなぁ〜?」
「いいじゃないですかぁ〜彼ノがみさん。みーちゃんとの間接ハグということでぇ……」
「じゅ、準〜!? 助けてぇ〜!!」
「な、なんか……色々珍しい物が見れた気がする……」
◇◇◇
比良坂さんと別れて校内に入った。
普通の学校だったらグラウウンドは運動部が使っているんだろうけど、ウチの学校では趣が違う。
「へぇー準達はここで勉学に励むんだねぇ〜」
「まぁ、やりたい放題やってるけどな」
外ではサバゲ部が学校全体を使って楽しんでいる。しかも夏休み仕様なのか、みんな水鉄砲でびしょ濡れになりながら走り回っていた。
「おや。準殿に彼ノがみ殿ではござらんか」
声のした方を見ると、木の下で黒猫が休んでいた。
「猫田先生。もう体は大丈夫か?」
「すっかり元通りでござる。これも彼ノがみ殿のおかげでござるな!」
「よしよし〜私は動物に優しいんだよ♡」
「う、うにゃあああん♡ 首筋をカリカリするのはやめるでござるぅぅぅ」
彼ノがみに弄ばれた猫田先生が地面にゴロゴロと転がる。
嫌がってる割には嬉しそうな声だな……。
しばらくその様子を見ていると、武士研のメンバーが走って来た。
「猫田先生! ここにいらっしゃいましたか! 今日もご指導のほどよろしくお願い致します!」
「う、うむ! 部員のみんな。本日も共に精進するでござる」
先生は急に立ち上がると、腰に刀を回して武士らしいポーズを取った。
「……先生、
「可愛い〜♡」
◇◇◇
部室に入ると、小宮が1人で作業をしていた。
「お! ソトッちとアミちゃんじゃん♪ 夏休みなのに部室に来るなんて感心だねぇ〜」
「あ、アミちゃん……」
「彼ノがみだからアミちゃんでしょ?」
「ふ、ふ〜ん……変なあだ名付けるねぇ〜」
「お前、何ニヤニヤしてんだ?」
「うるさいな〜」
「ところで、小宮は部室で何やってたんだよ?」
「私はねぇ〜昨日のイアク・ザードの件を記事にまとめてたんだ♪」
「そんなの書いても誰も信じねーだろ」
「ソトッち君。例えそうだとしても真実を伝えることにこそ意味があるのだよ!」
「そんなもんかなぁ」
「そんなものなのです♪」
「あとね、
「路野? 誰だっけ」
「え〜!? 文芸部の部長だよ? ソトッちぃ〜情報部員として恥ずかしいよ?」
「そこまで言うか……」
「ねぇ。この本なに〜?」
部室を物色していた彼ノがみが、分厚いファイルを1つ、手に取った。
「アミちゃん。それはねぇアルバムだよ♪ 今まで撮った写真をまとめてあるの」
「ふぅん……あれ? この女の人……」
パラパラとページをめくっていた彼ノがみの手が止まる。
「ああ。カノガミだな。そん時はカノガミに部室の茶菓子を全部食われそうになってさー」
「ぷ。何この顔〜」
「このすぐ後に俺からチョコ○イを奪おうとして飛び付いて来たんだよ」
そうそう。小宮っていつの間にかこういう写真撮ってるんだよなぁ。
「ふふ。それで、こっちの仏頂面の子がもしかして……」
「みーちゃんだよ♪ 可愛いでしょ? キャンディあげるとね〜喜ぶの。本人は平静を装ってるのがまた可愛いんだよねぇ♪」
「へぇ……」
彼ノがみは2人が写っている写真を撫でながら、ゆっくりとページをめくっていった。
「あ、そうだ。はいどうぞ」
「え、何?」
「キャンディ♪ アミちゃんにもあげる〜」
「あ、ありがとね〜」
「やっぱアメ貰うと嬉しいんだな。彼ノがみも」
「貢物は遠慮なく頂く! これが私の流儀だから!」
「お。アミちゃんの1シーン頂き〜」
小宮がカメラを向ける。彼ノがみは表情を一瞬で丹精な顔立ちへと変え、小さくピースを作っていた。
「カメラ向けられてキメ顔すんなよ」
「別にいいじゃ〜ん♡」
「いいよいいよ〜。アミちゃんはモデルの才能あるかもねぇ。これで1つ、思い出が残ったね♪」
「え」
彼ノがみが、一瞬、笑顔のまま固まった気がした。
「どうした? 彼ノがみ」
「なんでもありませーん」
「そうそう。もうちょっとで終わるからさ♪ 一緒に帰ろ?」
「オッケー♡」
「いいぜ」
「アミちゃん。帰りにソトッちにアイス奢ってもらおうよ。トリプルのヤツ♪」
「いやったあぁ〜ありがとね! 準♡」
「うげっ!?」
なんだよ。小宮と彼ノがみの息の合い方は……。
「ソトッちは奢り係だから♪」
「なんの係だよそれ!?」
小宮とそんなやり取りをしていたら、彼ノがみの呟きが聞こえた気がした。
「私の……思い出……かぁ」
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