第94話 2/2

 風呂から出ると、ノがみがPS2のソフトを物色していた。


「なに人のゲーム漁ってんだよ?」


「いいじゃん。何があるのかなぁ〜と思って」


「悪いけど今PS2壊れてて遊べないんだよ」


「えぇ〜!? せっかく面白そうなの見つけたのにぃ!」


「いや、ちょっと事情があって……呪いのゲームとか……」


「呪いのゲーム!? 何それ!? 教えてよ!」


「お、おう……実はさぁ……」



 ……。



「何その面白い話〜♡」


「面白いってお前なぁ……」


「でも、ふ〜んそっかぁ。あの芦屋の女のせいかぁ」


「あ! でも俺は全然怒ってねぇからな!? 仕返しとかすんなよ!?」


「大丈夫大丈夫! 今度会ったらこのネタでおちょくってやるだけだから♡」


「それはそれで怖いな……」


「あーあ。でもゲームはお預けか〜」


「ロクヨンなら無事だから後でそっち出してやるよ」


「やりぃ♡」


「先に台所片付けるから待ってろ」


 台所で乾かしていた食器を片付ける。彼ノがみはテーブルに座ってこちらを見つめて来る。そんなにじっと見られると、ちょっと……やり辛いな。


「……」

「……」


「ねえ」


「ん? なんだよ?」


「みんな私のこと怖がらないよね。信用し切ってる感じ」


「まぁ〜みんなお前が力使うとこ見てないしな。俺達に使う気も無いだろ?」



「うん」



「じゃあ怖がることもないだろ」


 話しながらヤカンに火をかける。


「準は私があの竜と戦った所見てたじゃん。怖くないの?」


「まぁ……すげぇなとは思ったけど」


 お茶用の瓶に麦茶パックを入れて、沸かしたお湯を入れた。


「けど何?」


「お前、イアク・ザードにワザと1回やられたろ? 俺達がやられた事の仕返しする為に」



「……」



「だから、前会った時とは違うんだなって、そう思ったんだ。俺達人間のこと……許してくれたんだって」



「ま、まぁ〜? チヨに酷いことしたヤツらは大昔に死んじゃったしぃ? アンタ達まで責めるのは悪いかなって思ってさ♡」


「ありがとな」


「う、うん……」


 マグカップに氷を入れ、麦茶を注ぐ。粗熱が取れたので氷を追加し、テーブルに置いた。


「ほい。麦茶」


「サンキュー」


 喉が渇いていたのか、彼ノがみは麦茶を一気に飲み干した。


「あ"〜生き返る〜」


「なんかカノガミみたいな反応だなぁ」


「そりゃあねぇ私だし。いや、違うか。娘だし」


「娘の方が年上に見えるってどうなってるんだよ……」



◇◇◇


 彼ノがみに「ロクヨンを出せ」と催促されたので、2人でカイ兄の部屋を荒らすことになった。


「お、あったあった。この前出したばっかだからクローゼットの手前にあって良かったぜ」


「これは形が違うんだねぇ〜」


「こっちはカセットだからな」


「準」


「ん?」


「私の好みのこと、良く覚えてたね」


 好み……ああ。ピクルスのことか。でも、わざわざ言うようなことか?


「そりゃあ……お前みたいなインパクトの強い女子のこと忘れるわけないじゃん」


「分かってないね〜準は」


「何がだよ?」


「私はだよ?」


「知ってるよ」


「そうじゃなくて。時を司ってるからこそ、ってことに特別な意味を感じるの!」


 そういや、今朝も固まってたな。彼ノがみのヤツ。


「とにかく! それがほど嬉しいの」


「そ、そうなのか」


「だから、準の行動は、ううん。準は……100点なの。私にとっては……」


「どういうこと?」


 彼ノがみは、なんとも言えない表情をしていた。笑ってるような、自信満々のような、でも自信が無いような……。


 けど、俺を見つめて来る視線だけは、さっき台所で感じた視線だった。



「好きってこと」



「え?」



 部屋が静まり返る。



 彼ノがみの瞳が、真っ直ぐ俺を見つめる。



「お、お前……また俺のこと、からかってるだろ!」



 彼ノがみは……顔が赤くなった気がした。しかし、確かめる間もなく普通の笑顔に戻っていた。



「あ、当たり前じゃん!! いや〜純な男だねぇ〜準だけに♡」



「おっさんかよ……」



「いや〜からかい甲斐あるなぁ♡」



 ひとしきり笑ったあと、彼ノがみは静かになった。



「どうした?」


「早くカノガミに会いたい?」


「あ、あぁ。でも……まかせるよ」


「何それ? プレッシャーなんだけど」


「あ、いや、そんな意味じゃなくて! カノガミとみーちゃんには早く会いたいけど、彼ノがみには気が済むまでいて欲しいし……だからその……なんて言ったらいいか」


「ふふ。ウソウソ。ちゃんと2人は返してあげるから、もうちょっと待ってなよ」


「ごめんな」



「何が?」



「せっかくみんなと仲良くなったのに」



「はぁ? 私はカミだよ? そんなこと気にしないっつーの!」



「そ、そっか。明日もどっか行くだろ? 今日はもう寝るか?」



「何言ってんの? 今からヤルことは決まってるでしょ!」



「え?」



 彼ノがみはそう言うと急に顔を近づけてきた。



「え、え?」



「今日は寝かせないからね♡」



「いやいやいやいや!? そそそそそれはちょっと!?」



「オラ〜! 向こうの部屋行くぞ〜!」



 彼ノがみが俺の腕を引きずって行く。



「嫌あああぁぁぁ!?」



 ……。



 徹夜でゲームをやらされた。

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