さらば。なのじゃ!
第95話 1/2
「私、明日分離する!」
イアク・ザードとの戦いから2週間経った頃、
「え!? だ、大丈夫か?」
「うん。今の白水が居心地良すぎてさ、このままだとずっといたくなっちゃうから」
彼ノがみはふざけた口調だったけど、その目は真剣だった。そういや、昨日の夜、ずっと起きてて何かやってたよな……。
「そうか……お前がそう言うなら、何も言わないよ」
結局、この2週間……やったことといえば毎日のように部室に行って、小宮達と話して、取材に行って、夜にはゲームして……フツーのグダグダした日を繰り返してた。
「それじゃ明日、
彼ノがみは……どう思ってたのかな。
◇◇◇
みんなに連絡すると、夏樹とウラ秋菜、小宮に比良坂さんが一緒に行くことになった。
レイラさんと先輩は残りの夏休みの間、修行の旅に出るということで連絡がつかなかった。
猫田先生は、昨晩ウチに挨拶に来た。夜中に黒猫が窓に佇んでたから、死ぬほどビビったなぁ。
「さて。チヨのお墓にも手を合わせられたし、そろそろ行きますか」
鳥兎寺の石碑に手を合わせていた彼ノがみが立ち上がる。
鳥兎寺の石碑で分離することは、彼ノがみたっての希望だった。チヨさんのいる所が良かったらしい。
彼ノがみの一言を聞いた小宮が急に泣き出した。
「うぅ……アミちゃんがいなくなると寂しくなるねぇ……」
「ありがとね
「アミちゃん……」
小宮が彼ノがみに抱きつく。小宮、彼ノがみとよく喋ってたからな……。
「ほら、秋菜も言うことあるだろ?」
夏樹に言われてウラ秋菜がおずおずと話し出した。
「ま、まぁ……その、なんだ、わ、悪かったな。お前に、その……酷い事言って」
「私、そういうの気にするタイプじゃないし〜? 2人とも芦屋だけどいいヤツってことで覚えておいてあげる」
「はは。彼ノがみさんと仲良くなったなんて知られたら俺ら芦屋で名前残るなぁ」
「あとは〜そこの2人」
彼ノがみが俺と比良坂さんを見つめた。
「はいこれ」
「これは?」
「時間玉と……手紙」
彼ノがみは俺の手に渡すと、続けた。
「あの竜は、アンタ達の言うことを聞くようにしてあるから。困った時はその玉を使って。投げつければまた封印できるから。ま、アイツから喜んで封印されると思うけどね」
「え? あの竜……封印されて喜ぶの?」
「あ、ありがとう。彼ノがみさん」
「あと、手紙は……あの子達と一緒に読んで。カノガミとみーちゃん宛だから」
「分かったよ」
「あの子達のこと、よろしくね。私が言うのも、アレだけど……」
「心配しないで彼ノがみさん! みーちゃんは私が立派な大人に……」
「いや、それはちょ〜と違うんじゃない?」
比良坂さんの意気込みに彼ノがみが苦笑する。
「あと、最後に……準」
「ん?」
そう言うと、彼ノがみが急に抱きついてきた。
「え!? ちょ!?」
「ちょっとだけさ、抱きしめてくんない?」
「で、でも……」
「外輪君。彼ノがみさん……震えてる」
比良坂さんの言う通り、彼ノがみの体は震えていた。
そうか……そうだよな。
俺達は「カノガミとみーちゃんに会いたい」って簡単に言うけど……それは、彼ノがみが消えてしまうってことだもんな……。
申し訳なさと、悲しさが胸に込み上げる。
目の前の彼ノがみを抱きしめて、背中を叩いた。
彼ノがみは俺の想像より、ずっと細い体だった。
なんだか……考えてしまう。
この華奢な体で、とんでもない力を持っていて……大切な人を失って……ずっと、1人だった。
一体彼ノがみはどんな気持ちで過ごしていたんだろう?
初めて会った時は、無茶苦茶だった。悪意をばら撒いて、人を弄んで……何かを求めてるようだった。
でも、あの時喧嘩して、再会して、一緒に過ごしたから分かる。
コイツは……普通の女の子だって。
みんなと一緒の……普通の。
「無理しなくていいよ。家に帰ろうぜ?」
その声には答えず……彼ノがみは顔を埋めてきた。
彼ノがみがポツリと呟く。
「あ〜消えたくないなぁ……」
「だ、だったらさ! まだ一緒にいようよ! そうだ! 夏休み最終日まで遊んでからさ! ね? アミちゃん……」
小宮が必死な様子で訴える。でも、彼ノがみは首を振った。
「ううん。こんないい友達、あの子達から奪えないよ」
「お前も……みんなの友達だろ?」
彼ノがみが笑った。その顔は少し寂しげで……でも、綺麗だなと思った。
「ありがとね。みんな」
彼ノがみが石碑へと歩み寄る。
ゆっくりと俺達の顔を見渡す。
深呼吸して……手を振った。
「じゃあね」
そう言うと、彼ノがみが消えていく。
彼ノがみ……。
また会えるよな?
視界が歪んで、しばらく戻らなかった。
◇◇◇
「外輪君。みーちゃん達を」
「うん。比良坂さんも教えた通りに頼むよ」
2人で目を閉じて、カノガミとみーちゃんのことを想う。
すると……。
声が聞こえた。
カノガミとみーちゃんが話しているような声が。2週間ぶりの2人の声。
なんだかすごく懐かしい気持ちがする。
そして、2人の姿も彼ノがみの立っていた場所に浮かび上がる。
やがて、ハッキリとカノガミとみーちゃんの後ろ姿が見えた。
「カノガミ! みーちゃん……」
「じゃからみーちゃん! 身長差を補うにはこうするしかないのじゃぞ!!」
「はぁ!? ただでさえ恥ずかしいフュージョンやらされてるのになんで私が余計にジャンプしなきゃいけないのよ!!」
……。
俺達に気付いてないのか?
「もう一度行くぞ!? ホレ早くするのじゃ!」
「ちょ、ちょっと!?」
「はっ!!!」
「は、は……」
2人が指を合わせる。
辺りが眩い光に包まれる。
「パンパカパーン!!! 彼ノがみ様だよ♡ 」
謎の決めポーズを取った彼ノがみが現れた。
「あ」
彼ノがみは決めポーズのまま固まっていた。
……。
めちゃくちゃ気まずかった。
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