第76話 3/3

「こら! 拙者の真空波をちゃんと止めるでござる!!」


 袈裟斬りの形に空間が歪む。そのまま歪んだ空間がこちらへと飛んで来る。


「うああああぁぁぁ!? 猫田先生!! その技反則だよおおおおおおぉぉぉ」


 ギリギリのところで避けると、後ろの木が真っ二つになってしまった。


 ……先輩のミサイルより恐ろしいんですけど!?



「油断するな! こっちも行くぞ!」



 ウラ秋菜が硬式野球の球をバットで打ち込む。その球をみーちゃんがさせる。


 野球の球は弾丸のような速度でこちらに向かって飛んで来た。



「ヒィィィィっ!?」



 顔を捻って避けると、野球の球は後ろの木を貫通して穴を開けた。



「そんなもん当たったら死ぬだろぉぉぉ!?」



 髪の毛を使って木の間を移動して逃げる。


「逃げるな! 万が一死ぬことがあったら私がリープして死ぬ前に止めてやる!」



 ウラ秋菜の提案が怖すぎる!?


 真空波と弾丸ボールが襲ってくる。



「うああああああ!?」



 逃げ回っていたら、自分の動く速度もできることに気が付いた。



「は、速いでござる……」

「逃げ回るのだけは上手くなってるわね……」

「こ、これも実戦のおかげ……か?」



 ……。



 今朝、指定された山へ行くと、みーちゃんの他に猫田先生とウラ秋菜が待っていた。


 ウラ秋菜から「命懸けの特訓こそ最も成長する」と言われ、それからずっと殺されそうになっている。



 いや、ホントに死んじゃうから。



「みーちゃん! そろそろ休憩しようよ」


 いつの間にか比良坂さんが来ていた。大量のごはんを持って。


「舞……そうね。お昼にしましょう」



◇◇◇


 比良坂さんが持って来てくれたお弁当をみんなで食べる。


 みーちゃんはどうやってるか知らないけど、とんでもない速度でお弁当を食べていた。比良坂さんが弁当箱を渡し、みーちゃんが口に運んだと思うと、もう弁当は空になっていた。


「いやぁウラ秋菜殿が調合してくれた『猫袋』いい感じでござる。意識も失わずに力が湧くようでござるな」


 猫田先生が猫用のカリカリを食べながら言う。猫袋。みーちゃん達の話じゃそれを使うことで先生は真空波を撃てるらしい。


「お前の自前のヤツは分量めちゃくちゃだったからな。ちゃんと猫のことを調べて調合したんだ」


 ウラ秋菜がタマゴサンドに手を伸ばす。


「もう1つ貰った『ギリ袋』というのはなんでござるか?」


「それは……本当に接種して良いギリギリを狙って調合した物だ。普段は使うなよ」


「しょ、承知した……」


「でもさ。モグモグ。なんで、モグ。そんな物作ったんだよ?」


「そのガキの話聞いたろ? いつどんな事が起こるか分からないし、最大限自衛できるようにした方がいいからな」


「モグモグ。確かに。モグ。準備にしとくに越したことは無いよなモグモグ」


「お前も憑依体を覚えて良かったな。お前らは今後も何かしらの事件に巻き込まれそうだし……というか話してる時ぐらい食うのやめろ」


「だってモグモグ。手。止まらねーんだもんモグ」


「カノガミの影響ね……」


「多分そうだと思うよ。モグ。もう無意識にハムサンドとツナマヨおにぎりと唐揚げローテで食ってるしな。モグモグ。アイツが食いたいんだろ」


「あ、カノガミさん。その辺が好きなんだねぇ」


 比良坂さんが笑う。こんな様子を見られるのはちょっと恥ずかしい。普段食いしん坊なのはカノガミだしなぁ……いててててて!?


 長くなった俺の髪が複数の束になって攻撃してくる。


「あ、自分の髪に攻撃されてるでござる」


「いててて!! 悪かったって!」


 結局みーちゃんと俺で弁当はほぼ食べ尽くしてしまった。



 ……。



「食い終わったか? じゃあそろそろ私の話を聞け」


「なんだよウラ秋菜? 急に真面目な顔して」


「お前達の能力のことだ」


「俺達の能力がどうしたよ?」


「ガキから大体全容は聞いてるだろ? お前達の力っていうのは使い勝手が良い。というより、使い方さえ理解すれば絶対に負けない」


「まぁ時のカミの力だしな」


「最後まで聞け。だけど、それを引き出せるかは能力を使うヤツの想像力で決まる。つまり、使い勝手が良い分んだ」


「自分で制約? どういうことだ?」


「考えてみろ。猫田の真空波、お前ならどう攻略する?」



 先生の真空波を? うーん……。



「ええと、先生の時を止めるとか、刀の時を止めるとか……」


「それだと猫田が早すぎて捉えられないだろ」


「じゃあどうすりゃいいんだよ」



「ガキ。ちょっと耳貸せ」


「何よ?」


 ウラ秋菜がみーちゃんに何かを耳打ちする。


「ふぅん。そんなことできるのかしら? 猫田。ちょっと真空波出してみて」


「え、今からでござるか?」


「そうよ。この球を投げるからそれを切ってみて」


「分かったでござる」


 猫田先生がどこからか先程の猫袋を取り出して匂いを嗅ぎ出す。


 そして、抜刀の構えをとった。


「いい? 投げるわよ」


 みーちゃんが野球の球を投げる。


「ふん!」


 猫田先生が刀を振ると、空間が歪み、真っ直ぐ球に向かって飛んでいく。


 そして、球に当たった瞬間。


 


「な!? 止まったでござる!!」


「本当にできるなんて……」


 猫田先生だけじゃなく、みーちゃんまで驚いていた。


「なんだよこれ。ウラ秋菜は何をやらせたんだ?」


「大したことじゃない。ガキにそのだけだ」


「ボールの時間でなんで真空波が……」


「お前らのやってる技はな。んだ。文字通り。それは物体の形状変化すらも許さないってことだ」


 形状変化を許さない……?


 それって……。


「止められた球は。最強のになるってことだ。後は真空波の威力が弱まれば、攻略完了だ」


「す、すげぇ……考えもしなかったぞ、そんなこと」


「だろ? それを知ってるかどうかで強さが全く違うってことだ。大技ばかりが脳じゃない」


 そうか。さっきの自分の加速といい、カノガミの力は思っていたよりもずっとすごい力なのかもしれないな……。


 ウラ秋菜の言った通り、球に当たった真空波は威力が弱まっていき、やがて消えていった。



 ん?



 隣でなんか変な気配が。



「せ、拙者の奥義がああぁぁぁ……」



 猫田先生はプルプル震えていた。

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