第75話 2/3

「なんで髪が長くなってるんだよ!?」


「それが1つになった証。憑依態ひょういたいよ。メリットが無いからあまり使うことない形態だけど」



 憑依態……全然知らなかったよな?



 ……。



 カノガミ?



「なぁ。カノガミの声が聞こえないんだけど」


「その状態だと意識はお兄ちゃんメインになるわね。でも、ちゃんとカノガミにも聞こえてるし、意識もあるわ」


 急に俺の髪の毛がウネウネと動き出した。そして、勝手にペンを持って紙に字を書き出す。書いた内容は……。



 聞こえておるぞ♡



「筆談で会話すんのかよ」


「会話しなくても大丈夫よ。カノガミが何を考えているか分かるはず。ちょっと意識を集中させてみて」



 意識を集中……?



 目を閉じて、余計なことを考えないようにすると……すごく……なんだか……無性に……カントリーマ○ムが食べたくなってきた。


「お前もしかしてカントリーマ○ム食いたいと思ってるか?」


 また髪がペンで何かを書く。



 当たりじゃ♡



「めんどくせぇぇぇ!?」



「慣れれば会話しなくても心を1つにできるわ」


「そ、それって私もみーちゃんと1つになれるのぉ?」


 比良坂さんが今まで見たこと無いような笑みを浮かべた。なんだか、暗い笑顔というか……ちょっと怖い感じの……。


「ちょっと怖いわよ舞!? 私は拒否するわ!」


「なんだぁ……」


 比良坂さんは大袈裟に肩を落とした。



「ところで、この状態だと俺はカノガミの力が使えるって言ってたよな?」


「今のお兄ちゃんにはどうやったらいいか分かるでしょ?」


 分かるだろって言われてもな……。


 

 深呼吸して目を閉じる。すると、カノガミが周囲をどうやって感じているのか分かる気がする。

 


 もう一度目を開くと、いつもの俺と違う視界へと変わった。


 

 目の前の物体それぞれに時間の流れのような物が見える。



「ちょっとこれを止めてみて」



 みーちゃんが近くにあったティシュ箱を投げる。


 ティッシュ箱から青い線みたいな物が俺に向かって伸びている。


 手を伸ばしてその線を掴むように意識を向けると、ティッシュ箱がした。



「すごい……!?」


 比良坂さんが驚く。


「これが物体の時をイジるということよ。目に見える物しかイジれないから注意して」


「前みーちゃんがやったの時止めとかもできるの? いや、やらないけど」


「あれは……力を分けた私達じゃできないわ。今は目に見える範囲だけ」


 みーちゃんは少し目を伏せた。しまった……謝るなとか言っておいて罪悪感持たせてどうするんだよ俺。


 あ、なんか胸のあたりが苦しいというか、悲しい感覚がする。


 カノガミも思うところがあるのかな?


 話題を逸らすように続ける。


「それでもすげぇよ。俺にこんなことができるなんて」



 !?



 なんか胸の当たりがめっちゃザワザワする!?


「悪かったって! カノガミのおかげだってちゃんと分かってるよ!」



 謝ると胸のザワザワが治った。



 めんどくせええぇぇぇ!?



 でも、これで先輩の力に抵抗できるか。



 後は……。



「これって戻る時はどうすんの?」


「カノガミと分離したいと考えてみて。中のカノガミもよ」



 カノガミと分離したい分離したい……。



「あ、お兄ちゃん。その状態だと考えは全部カノガミに筒抜けだから



 え? なんで今それ言うの?



 待って。そんなこと言われたら頭に浮かぶじゃん。そもそも一緒に暮らしている中でそういうことを考えてはいけないという意識を持ってるから反動がヤバイんですが。そりゃあアイツいつも無防備だし、そ、その色々な所に目がいってしまうわけだけど、む、胸とか……でも精一杯意識しないようにしてるんだよ俺は。なんでみーちゃんはそういうこと言うかなぁ。夏樹達が来た時もそんなこと言われてたし、俺とカノガミが普段どんな生活を送っていると思われているんだ。俺はいたって健全な男子であるわけだが、そういうことはちゃんと年齢とともに段階を踏まないといけないわけで。そんな道を踏み外したら天国にいる俺の両親を泣かせてしまうわけで。だから俺はカノガミの風呂を覗いたりそんな目で見てはいけないんだよ。そこのところなんでみんな分かってくれないのかなぁ。いだだだだだだだだっ。髪が勝手に攻撃してくるんですが。カノガミが絶対やってるだろこれ。というかこれはどっちの反応なんだ。そういう目で見て欲しいとかそういう反応なのか。それとも見るなという意味なのか。いだだだだだだだだだだだっ。髪で攻撃すんのやめろよおおおおぉぉぉ。


「あ、やってしまったわ」


「みーちゃん。今そんなこと言っちゃダメだよぉ。外輪君、ひたすら自分の髪に攻撃されてホラー映画みたいになってるよ……」



◇◇◇


 その後、なんとか意識を集中させてカノガミと分離することができた。


「ジュンの気持ち。ウチはよく分かったぞ♡ まさかジュンがそんな風にウチを見ておるなんて♡」


 カノガミは頬を赤く染めた。


「そ、そうだったの外輪君?」

「やっぱり年頃の男女が一緒に暮らすのは無理があるわよね……」


「あああああ!! 2人とも俺の内面を勝手に想像するなよぉ!?」



 涙が止まらなかった。



「ま、冗談はさておき明日から特訓よ」


「特訓て何するのじゃ?」


「やっぱり憑依態の実践経験が必要よね……あの2人に頼んでおくわ」


「実践経験?」

「あの2人って誰じゃ?」



 カノガミと顔を見合わせる。



 なんだか嫌な予感がした。

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