戦闘!二足歩行戦闘機械!なのじゃ!

第141話 1/2

 1時間の跳躍を終え、外輪達はクシアの世界へと到着した。


「Mう78世界への出現まで5・4・3・2・1……迷彩システム起動」


 クシアの言葉と共にモニターへ白銀の世界が映し出される。到着した場所は、どこまでも続くような針葉樹林だった。外輪は思う。俺達の知っている海外の風景みたいだなと。しかし、その針葉樹の間から、薄く黄色がかった空が見えており、その景色が自分達の世界とは違う場所なのだと実感させた。


「すげ……こんな風なんだ。クシア達の世界って」


「寒そうでござるなぁ……」


 猫田が体を震わせる。


「貴方達の着ているスーツがあれば外気の影響は受けませんわ。早速辺りを探索します」


 クシアが計器類を操作すると、景色だけを写していたモニターに青い矢印と数値らしき物が浮かび上がった。


「弍型は移動したようですわね。カノガミサンが自力で動かしているのであればいいのですが……」


 バルディアが針葉樹林を進んで行く。二足歩行なのだから、もっと揺れるかと猫田は身構えていたが、コックピット内は至って平穏だった。まるで水平移動をしているようにも感じる。


「ほっ……これなら酔わないでござる」


 猫田が安堵したように座席から飛び降りた。そのまま、足元を伝ってクシアの席へと移動する。


「弍型まではどれほど離れているのでござるか?」


「50.67km。全速力なら30分で到着します。ですが、そこまでの速度を出すと迷彩システムに支障が出ますわ。少し速度を落とします」


 クシアが両手の操縦桿と足元のペダルを器用に操作して木々の隙間を進んで行く。


 外輪は何かを考えている様子で目を閉じていた。後方を確認したクシアの視界の隅に、その様子か映った。


「準サン? 何をしておりますの?」


「カノガミに話しかけてる。ある程度近づいたらアイツにも聞こえるはずだから」


 クシアは首を傾げた。自分が調べた範囲ではLあ77世界人に交信能力など無いはず。何か宗教的な行為にも思えない。喋る猫といい、自分の調査能力はまだ未熟なのかもしれない、と。


「ここからは接敵する恐れがあります。慎重にに行きますわ」


 そう言いながら、彼女はバルディアの歩みを進めた。



◇◇◇


 警戒しながら15分ほど進んだ頃、クシアは声を上げた。


「ムスカリの機体がいます」


 機体の前方、林の奥に3機の黒い機体が見えた。モニターにその3機を拡大表示する。


 猫田がモニターを見つめる。それはバルディアと頭部の形状が異なっていた。角ばった体にドームのような曲線の頭部。そのアンバランスな組み合わせが、なんとなく気持ち悪さを感じさせた。


「迂回して行きましょう」


 そう言ってバルディアが1歩踏み出した瞬間。



 3機の動きが変わった。



 先程までの辺りを巡回するような動きから、真っ直ぐにこちらへと向かって来る。


「しまった!? この先は……センサーが張り巡らせてありますわ!?」


 クシアがペダルを踏み、バルディアが後方へと飛び退いた。しかし、その3機は散開してバルディアを取り囲もうとする。


「振り解けない……っ!? すみませんお2人共。戦闘に入りますわ!」


 バルディアが腰に手を回すと、腰と繋がっていたライフルのロックが外れ、そのグリップを鉄の指がガッチリとホールドする。


 急ブレーキをかけ、ライフルの照準を無人機へと向ける。



「頭部なら!」



 青白い閃光が真っ直ぐに機体へとめがけて発射される。



 閃光が弧を描いて飛んで行く。



 コンマ数秒の後。

 


 黒い機体の頭部が爆発し、敵機体は沈黙した。


「あの反応! 無人機ですわ! 残り2体も……」


 クシアがそう言いかけた瞬間、突如としてモニターが黒い影に覆い尽くされた。


 両側から2機の無人機がバルディアへと掴みかかる。


「く……っ!?」


 持っていたライフルを捨て、両腕を左右の無人機の胴体へと突き出した。


「お2人とも、揺れますわよっ!!」


 バルディアの両腕に搭載された小型チェンソーが展開される。展開の勢いで深々と2機のの胴体へと突き刺さった。


 チェンソーの刃が高速で回転を始める。それに合わせて、機体内は物凄い振動に襲われた。


「うああああぁぁぁ!? 振動が強すぎるでござるううぅぅぅ!?」


「無茶してるのだから当然ですのっ!!」


 そのまま、チェンソーを上へ上へと突き進め、無人機2体を胴体から頭にかけて真っ二つにした。胴体と頭部を引き裂かれた無人機は項垂れるように動きを止めた。


「はぁ……っはぁ……」


 呼吸を整える。彼女は安堵していた。今まで戦闘らしい戦闘はほとんど行って来なかったからだ。


 ただの調査員であるクシアにとって相手が無人機であったのは不幸中の幸いだった。動きが単調であったことも、人が乗っていなかったことも……。



 しかし、その油断が状況の認識を鈍らせた。



 ギギギ……という鈍い音と共に、目の前の無人機の1体が再起動した。



「う、ウソ……仕留め損ねるなんて……」



 裂かれた頭部から黄色い光が漏れる。それが、まだ無人機内のコンピュータが生きている事を告げていた。


 無人機が歪な腕を振り上げる。その手には対二足歩行機械用ナイフが握られていた。



 ダメ……咄嗟に体が動かない……っ!



 彼女の中に絶望が湧き上がる刹那--。



 




「……え?」




「焦ったぁ。ハッチの開け方1回間違えちゃったぜ」



 後部座席から能天気な声が聞こえる。



『二足歩行機械。未知の世界の鋼だが、意外に脆いでござるな。ヒトキリ丸に切れぬ物はござらん』



 モニターに黒猫が着地する様が映し出される。



 2本の足で立つ黒猫は、小さな刀を2度払うように振ると、その刀を鞘へと納めた。



 この2人がやったのか。


 自分が死を覚悟したあの瞬間に、無人機がまだ生きていることを把握して、しかも……猫がそれを仕留めるなんて……。



「先生早く戻って来いよ。追手が来る前に移動しないと」


『承知した』



 私は……私は……。



 何をこの世界に呼び込んでしまったんだ?

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