第142話 2/2

 迂回しつつ目標に近づいて行く。林を抜け、雪模様の渓谷を進んで行くと、徐々に高低差が出て来る。辺りを見渡せる崖へと渡り、バルディアは停止した。姿勢を下げ、頭部カメラを伸ばして周囲を確認する。



 クシアが望遠へと切り替えたモニターを見ていると後ろの席から呟きが聞こえた。振り返ると外輪が目を閉じて何事かを呟いていた。


「カノガミの声が聞こえて来た。基地みたいな所にいるみたいだ」



「基地、ですの?」


 モニター内に地図を写し出す。衛星から写し出された写真を確認するが、ここから半径50kmに渡って針葉樹林と渓谷が続くばかりだった。


「何も無いでござるな」


「弍型があると思われるポイントを重ねますわ」


 地図に青い円が写し出される。円は広範囲ではあったが、地図上の地形と合わせると、1つの可能性が浮かび上がった。


「この渓谷……不自然ですわ。この円の範囲を見てください。自然にできたにしては……円の周辺だけ横幅が広すぎますの。そして、この壁面」


 地図が渓谷の壁面を拡大していく。そこには無数の穴が空いていた。


「トンネルのようでござる」


「渓谷全体が要塞化しているように見えますわ。このポイントへ近づいてみます」




 ……。



 バルディアが渓谷上部を進んで行く。目的のポイントまで進むと、崖下に舗装された道路が現れた。バルディアを地面へと設置させてバイザー型の頭部を伸ばして崖下を覗く。そこでは6台のトラックが連なって走っていた。


「あの車両……こんな何も無い所に何を運んでいるのでござるか?」


「兵器……はツインディスクで運べます。ということはあれに乗っているのはですわ。この道沿いには点々と詰め所があります。そこで兵士達を乗せているのでしょう。6台なら100人以上は集めるつもりですわ」


「人間? 何の為に?」


「あの規模の要塞、もしかして……」


「どうしたのでござるか?」


「バルディアに搭載してある次元転移システムは小型化された最新型ですの。その開発と共に用済みとなった古い大型転移システム。それがあの要塞に設置されているのかも」


「は!? そんな所に弍型があるってことは……!?」


「恐らく、既に座標データは抜かれておりますわ」


「ど、どれほどの規模が送り込まれるのでござるか?」


「要塞規模から考えるに、設置されているのは屋外展開式モデル。一度の転移で30機は送れますわね……しかも、あの人員。段階的に100機以上を送るのだと思われます」


 外輪と猫田は息を呑んだ。100機の二足歩行戦闘機械。そんな物が白水町に送り込まれたりしたら……。


「ですが、まだ大部隊は送られていないはずですわ」


「なんでそんなこと分かるんだよ?」


「転移する物体が多いほど到着座標にブレが出ます。それを防ぐのが転移ビーコンですわ。転移ビーコン無しで30機なんて送り込んだら……大部分が次元の狭間に飲み込まれて到着前に壊滅ですの」


「つまり……先に転移用の機体だけを斥候せっこうとして送り込み、ビーコンとやらを設置させる訳でござるな」


「そう。そして機体そのものを転移する最新システムは高価ですの。ムスカリの辺境基地であれば搭載機体は少ないですわ。数機程度を送り込んでいるはず」


 クシアがモニターを操作し、時刻を確認する」


「仮に私達と行き違いであったとしても、ビーコン設置から転移までを行えるほど時間は経っていない。今あの基地の転移システムを破壊すれば……」


「どうやって乗り込むのでござるか?」


「そこですわ。要塞の警戒網を単機で突破するのは流石に無理ですわね」


「……俺に考えがある。まずは詰め所に潜入して敵の服を手に入れよう」


外輪は2人を真っ直ぐに見つめた。


「転移を止めてカノガミも助ける良い案を思い付いたぜ」



◇◇◇



 ……。



 よし! 今だ!


 外輪は兵士を乗せる為に停車していたトラックへと乗り込んだ。


 敵兵士から奪った軍用服を着直す。小柄な兵士がいて助かった。そう思いながら、後ろから3番目の席へと座り込んだ。


「おい」


 突然兵士に話しかけられて心臓が止まりそうになる。


「な、なんでしょうか?」


 外輪はヘルメットを被り直し、話しかけて来た兵士を直視しないよう顔を伏せた。


「貴様。何だか怪しいな。ヘルメットを脱げ」


 なぜか怪しまれてるな。俺が子供だからか? しかし、兵士の中には自分とそう歳の変わらないヤツらもいる。ここは堂々と対応することでやり過ごす感じで行こう。



「はっ!」



 外輪は、昔映画で見たミリタリー映画のような機敏な動きで立ち上がりヘルメットを外した。


「ん? 貴様……つ!? 別世界のスパイだな!?」


 外輪の顔を見た兵士が突然大声を上げる。それにつられて他の兵士達の視線が一斉に外輪へと向けられる。



 ん? なんで大声出すんだよ? 焦るな俺……。



「はっはっは。なんですかそれは。自分は仲間でありますよ」


 段々外輪の中で兵士像がよく分からなくなっていく。ミリタリー映画の記憶は薄れ、マンガで見た緑のカエル軍曹が頭の中に浮かんでは邪魔をしてくる。


 しかし、この変装は完璧だ。バレるはずがない。そう。これは映画や漫画に良くあるスリリングなシーンと同じなんだ。そう自分に言い聞かせた。



 が。



 声をかけてきた兵士は再び叫んだ。



 を光らせながら。



「嘘つけええええぇぇぇ!? 額にクリスタルが無い人間などいるかああああ!!」



 あ。



「しまったああぁぁ!? M78世界人にはクリスタルが有ることを忘れてたああぁぁ!?」



 外輪の作戦。敵兵になりすます作戦はダメだった。

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