ロベリアの野望。なのじゃ!

第143話 1/1

「ロベリア様。間も無く規定の人数が揃います」


 ロベリアと呼ばれた女は報告を聞いて満足そうに頷いた。


「そうか。二足歩行戦闘機械の方は?」


「既に時空間移動用が10機転移しております。残り100機は基地内に展開済みです。ご指示があれば、いつでも」


「分かった。指示を待て」


「はっ」


 報告を終えた部下が退出していく。


 女は司令室のモニターに映る大型転移装置を見つめながら思いを馳せる。


 この国は腐っている。軍は自国防衛に必死、乏しい資源は自国の経済を衰えさせ、国民を飢えさせる。そして、肝心の指導者達は理想を騙りながら私服を肥やす。この国は亡国なのだ。共和国から離反したあの日から。


 しかし……。


「だからこそ立ち回り次第では……フフ」


 必死だからこそ目が届かない。乏しいからこそ高く売れる。飢えているからこそ従う。腐っているからこそ手に入る。


 そう。全ては野望を持つか否かなのだ。それを馬鹿なこの国の人間は誰も分かっちゃいない。この国に生まれた己を呪いながら、何も変えようとしない。自分だけ。唯一自分だけがこの腐った国で輝きを放つ存在なのだ。


 この辺境の基地を買収した。共和国に遺棄された大型時空転移装置を導入し、斥候用に時空移動用二足歩行機械も手に入れた。大国も裏では金の亡者達に埋め尽くされているな。


 兵士となる人間も近隣の村からの志願兵が後を経たない。


 さらに……。


「本当に運が良い。まさか別時空の座標を持つが舞い込むなど。カミのお導きというヤツかな?」


 時空転移装置を手に入れてから探し求めていた物。それが別時空の座標。共和国の偽善者共め。何が「並行世界の平和の為」だ。そんなお題目を掲げながら調査組織で座標情報を独占しているではないか。


 そこに人間がいると分かっているのに指を咥えて見ているなど、腑抜けのすることだ。何が調査だ。私は違う。過去の災厄などを恐れはしない。侵攻し、支配する。


『ロベリア様よぉ。先行部隊からの連絡はまだなのか?』


 部屋の奥にあったモニターが点灯する。そこには顔色の悪い青年が映し出されていた。


「まだだログサ。向こうの世界に出現したのはつい先程。ビーコン設置までもう少し時間はかかるだろう」


 ログサと呼ばれた男は肩をすくめた。


『ちぇ。早く暴れたいのになぁ。向こうの世界は二足歩行戦闘機械が無いんだろ? 向こうのヤツらがどんな顔を見せるのか……楽しみだぜ』


「暴れるのはいいが分かっているんだろうな?」


 分析官からの情報によると向こうの世界は如何にも凡庸な歴史を辿っているようだ。我らと同じような戦争を体験してはいるが、世界は均衡を保っている。我らよりも長く平和を享受している。なればこそ、局所的な制圧は容易に達成できるだろう。


『分かってる分かってる。向こうの資源は無駄にしない。人も極力殺さない。だろ?』


「あぁ。私の目的はあくまで植民地の開拓。そこの物資も人材も有効に使いたい」


『じゃ、俺はもう機体で待機してるわ』


 ログサが通信を切ろうとモニターへと手を伸ばす。しかし、何かを思い付いたように声を上げると、その手を止めた。


『……なぁ。飽きたらシバのオッサンに任せて帰って来てもいいか? 最初は楽しそうだけどよぉ。相手弱かったらすぐ飽きちまいそうだ』


「……現場指揮はお前の担当だ」


『へいへい……分かりましたよ司令』


 ログサは急にやる気を無くしたようにため息をつくと、通信を切った。


「これだからガキは嫌いだ」


 ロベリアはポツリと呟く。


 災厄も経験していないガキが。先行部隊のシバが嘆願して来なければ指揮など取らせたくなかった。



 ……。



 ヤツの操縦技術は一級品。今後の成長の為には必要。そういうことにしておこう。


 まぁ、ヤツの気持ちも分からなくは無いが。戦場を駆け抜けてこそ戦士として生きる価値を感じられるものだ。かつて私がそうだったように。



 ……一方的な侵略行為か。



 兵士達の士気向上もせねばな。



 だが、もうすぐだ。



 もうすぐ、目的が達成できる。



 1つ目が拠点の設立と独自部隊の設立。それはこの国では楽に達成できた。


 次は植民地の開拓。これももうすぐだろう。


 そして、次は……。


「……異世界の者よ。お前達は私の野望の糧となってもらう。私の国を起こす為のな」


 私は奪われただけでは終わらない。必ずそれ以上の物を手にしてみせる。次は奪う側になってやる。



 私から戦場を奪った災厄への……これは復讐だ。

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