クシアの世界。なのじゃ!

第140話 1/1

 「うおおぉぉぉっ!? めちゃくちゃ揺れるじゃねぇかああああ!!!」


「き、気持ち悪いでござるぅぅぅ!?」


「ちょっと!? こんな所で吐かないで欲しいですわ!!」



 ……。



 機体がバラバラになるんじゃないかと思うほどの揺れが15分以上続き、俺と先生の心が折れそうになった頃、急にコックピット内は静まり返った。


「ふぅ♡ 無事安定したようですわね」


「し、死ぬかと思った……」


「うぅ……飲み込んでしまったでござる……」


「さぁ。これから到着まで1時間はありますわ。寝ていてもよろしくてよ?」


「いや、全くクシアの世界について知らないからさ、教えてくれよ。クシア達の世界のこと」


「私達の世界のこと、ですか?」


「拙者は特にカノガミ殿が飛ばされた国について知りたいでござる」


「確かに。その辺りを詳しくお話しておく必要がありますわね」


「ウラ秋菜達には話さなくて良かったのか?」


「エアリーが知っていると伝えておりますから、大丈夫ですわ。恐らく」


 恐らくって……心配性なのか適当なのかよく分かんないヤツだなぁ。まぁ、ウラ秋菜のことだからエアリーを質問攻めにしてると思うけど。


 クシアは俺達を横目で見るとゆっくり話始めた。


「私達の世界……やはり、歴史から話さなければいけませんわね」



◇◇◇


 私達の世界は、15年前に大きな戦争がありましたの。それは世界を二分するほどの大きな物でした。


 世界は自由を重んじる共和国と規律を重んじる連邦に分かれました。戦争は苛烈を極めておりましたわ。


「世界を二分するほど……か。どこも同じようなことやってんだな」


「準殿は歴史に詳しいのでござるか?」


「いや、ちょうど歴史のテスト勉強中だったから」


「中学2年生の範囲なのでござるかそれは……」


「いや、はは……実は、やる気無くしてパラ見してたわ……」


「続けても?」


「「ど、どうぞ」」


 戦争の中で新たな兵器が作られ続け、2年間の戦いの末、ついに二足歩行戦闘機械が生まれたのです。そしてもう1つ。バルディアを収納していたツインディスクです。


「ツインディスクって、クシアが投げてた丸い板みたいなヤツか」


 そのどちらかだけでもダメだったのです。この2つを開発した共和国は、圧倒的優位に立ちました。戦場に突如として現れる鋼鉄の兵士。これによって敵の撹乱、敵陣の突破、襲撃……様々な活躍を見せましたわ。しかしその反面、鋼鉄の兵士による戦いは、戦場を選ばなくなってしまいました。


 やがて、人が住む街の中で突如として大規模な戦闘が繰り返されるようになりました。兵士だけでなく、一般市民も常に死と隣り合わせの暮らしを余儀なくされました。中には収拾がつかなくなった国もありました。


「そ、それはどうやって解決したのでござるか?」


 その国自身が大型爆弾を投下、都市ごと消滅させましたわ。


「なんと愚かなことを……」


 ……ですが、その戦争の最中にが現れましたの。


「ヤツってクシアが追っていたのことか?」


「そうですわ」


 ヤツはある戦場の只中に現れ、戦場にいた全てのを消滅させたのです。それが発端となり、それ以後の大規模な戦闘では全てヤツが戦闘を終結させました。敵味方問わず皆殺しという形で。


 また、その時からおかしな現象が起き始めましたわ。消された兵士にまつわる建物や人々が次々と消滅しましたの。


「え、それってなんでだよ……?」


 私達の必死の解析により判明した事実。それは、ヤツはということですわ。


「その人間の持つ歴史ごと消してしまう……ということでござるか?」


 ええ。まるでその人間がかのように。いとも容易く、消してしまうのですわ。それが時間干渉による物だと判明したのは、随分後のことでした。


「時間干渉って……じゃあなんでクシア達はそのことを認識できるんだよ? 生まれて来なかったようにされるなんて、そのことを覚えている人なんていないだろ」


 私達の額のクリスタル。これは他者と意思疎通できる器官でもあり、記憶の保存媒体でもありますの。これが私達の世界では無数のネットワークを構築しております。そのネットワークによって歴史を補完し合っていて……。


「よ、よく分かんねぇ……」


 単純に言えば、ヤツの時間干渉によって人が消された。歴史改変が起きた。でも、人類はその改変を感知できた。ということですわ。


「拙者にも理解できたでござる!」


「偉そうに言うなよ……」


 ヤツの存在を脅威に感じた各国は団結することとなりました。


「共通の敵による団結……皮肉でござるな」


 ヤツとの最終決戦の末、遂にヤツを私達の世界から追い出すことに成功したのです。


「追い出す……?」


「倒した訳では無いのでござるな……」


 そう。最終決戦の最中、ヤツは忽然と姿を消しました。後からですが、ヤツは別時空へ転移したことが判明しましたわ。


 しかし、いつまたヤツが現れるか分からない。私達はそんな恐怖を乗り越える為、ヤツを解析したデータからを開発しました。そして改良を繰り返して小型化。二足歩行戦闘機械に搭載することとなりました。


 本当に皮肉なのです。ヤツへの恐怖が国々を団結させ、ほぼ全ての国が共和国入りしました。そして、災厄が訪れる前には想像もつかなかった平和を、遂に世界は手にしました。


 そして、二度とヤツの脅威が訪れないよう、調査組織が設立されましたわ。私達は日夜様々な世界へと調査に出ているのです。



◇◇◇


「ふぅん。それで、バルディアに乗って白水へやって来たってことなのか」


「今の話を聞くと、どの国も戦争には懲りているようでござる。ならず者国家というのは?」


「結局のところ、1つにまとまるという行為は歪みを生みますの。私達が平和を享受している間にどこかに我慢を強いる。小さな国はそういったパワーバランスを打破しようと強硬になって行く。他の国はそれをやめさせる為に圧力をかける。そしてまた……という負の連鎖が起きるのですわ。近年になっていくつかの国が共和国から独立しました。カノガミさんが転移してしまった「ムスカリ」もその中の1つ。それらの国を締め付ける為、共和国は徹底的に貿易を規制しましたの」


「なぜでござるか?」


「独立させて何も無しというのは他の国の離反を招きますから。見せしめの為に徹底的に締め上げて、独立国を後悔させるつもりですわ」


「難しいんだな……」


「それもあくまで1つの見方。世界は様々な思惑で動いておりますから」


「俺、大丈夫かな……ちょっとその国の人達のこと悪く思えなくなって来た」


「準殿の目的はカノガミ殿を救うことでござる。他のことを気に病む必要はござらん」


「そうだけど……」


「準殿が苦しまなくて良いように拙者がいるのでござろう?」


 先生は俺を気遣うように体を擦り付けて来た。


「……ありがとな。先生」



 猫田先生の気遣いはすごく嬉しい。でも、俺には気になることがもう一つあった。



 時空規模の災厄……時間干渉されて人が消された?



 それってまるで……。

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