第139話 2/2


 ウラ秋菜の話を聞いて、一度家に戻って準備した。クシアから渡された体にピッタリのメカスーツを着て、そのままでは恥ずかしいから上から紺色のパーカーを羽織る。


 机の上にあった小さめのリュックにをしまった。家を出る直前に、カノガミの好きなカントリーマア○を数枚引っ掴んでカバンに入れて、家の戸締りをして再び空き地へと全力で走った。


 走りながらウラ秋菜の話を思い出す。


 今回、2つのことを同時に行う。俺はカノガミを迎えに行って、この世界に帰って来る。ウラ秋菜達はみーちゃんの腕輪が取れた時点で誰かがタイムリープしてカノガミの転移を止める。もし、クシアの世界の奴らが白水に乗り込んで来た時はウラ秋菜達が対処してくれる。


 異世界とはいえ、大人の軍人相手にどうするのかウラ秋菜へ尋ねたが「お前はカノガミを迎えに行くことだけに集中しろ」と一蹴されてしまった。もし仮に白水が落とされても俺とカノガミがリープできれば、保険になるらしい。


 あぁ。この嫌な緊張感……久しぶりだな。でも弱音を吐いてる場合じゃない。



◇◇◇


「お兄ちゃん。いい? クシア達の世界はこの世界とは時間軸が異なるわ。通常のタイムリープではクシア達の世界の中でしか移動できないから、転移前のカノガミを止める為には、必ず私達の世界へ帰ってからリープする必要があるの」


「あぁ。分かってる」


 どちらにしてもカノガミを迎えにいかないと。アイツがいないだけでこんなにも辛いなんて……。


「それと、しゃがんで」


 みーちゃんに言われた通りしゃがむ。彼女は俺の手を取り、真っ直ぐに瞳を見据えた。


「カノガミに会ったら、よく叱っておいてね」


「みーちゃんの分まで怒っとくよ」


 みーちゃんが笑う。強がってはいるけど、きっと心配で仕方ないんだろうな……ここ最近はずっと仲良くやってくれてたから。



「気を付けて」



 みーちゃんがゆっくりと手を離す。最後にもう一度、彼女の瞳を見てから立ち上がる。



「後のことは任せておけ。外輪準はカノガミと帰って来ることだけに集中しろ」


「ありがとうウラ秋菜。お前が友達で良かったよ」


「そ、そんな恥ずかしいことを言うな!」


 ウラ秋菜は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。


 黒猫が彼女へ体を擦り付ける。彼女はそんな黒猫を抱き上げるとギュッと抱きしめた。


「猫田。外輪準とカノガミのこと、頼む」


「秋菜殿の頼みでござるからな。拙者の命に換えてもお2人は」


「……お前も絶対帰って来るんだぞ」


「分かっているでござるよ」


 ウラ秋菜が先生の頭を撫でる。2人の別れを邪魔してはいけない気がして、クシアへと話しかけた。


「クシアの世界へはどれくらいで行けるんだ?」


「おおよそ1時間ほどですわ。本国から弍型の座標を送って貰ったので跳躍後は敵国内ですの。気を引き締めて行きましょう」


「クシア。シヌナヨ」


 エアリーの言葉に頷きで返すと、クシアはバルディア壱型へと乗り込んだ。


「あ、あとにも外輪準達のこと頼んでおいたから、その内追い付くと思う」


「マジか……まぁ。いてくれると心強いことに変わりは無いけどさぁ」


 この状況分かったのものおかげだし……。


「ほら! お2人とも早く乗って下さい! 急ぎますわよ!」


 クシアの声で猫田先生が俺の肩へ飛び乗る。俺が着ているメカスーツはなぜか猫用もあって、それを着ている先生はいかにもSFに出て来る宇宙猫って感じがした。


 バルディアの体を伝って背中から中へと入る。内部は意外に広い空間で、後部座席は俺と猫田先生が座ってもまだ余裕があった。


 前の座席は俺達の少し下に位置していた。目の前ではクシアがバルディアを起動していた。


「並行世界座標『Mう78』……到着後座標は……」


 クシアはブツブツと独り言を言いながら計器類を操作し始める。


「シートベルトを忘れないように。安定するまでは激しく揺れますから」


 慌てて座席からベルトを探す。そして、それを俺と猫田先生のメカスーツへ接続した。


「それでは転移……時空間跳躍致しますわ」


 コックピット内のモニターが順に点灯して行く。そして、全てのモニターが付くと、天井から全面に渡って、外の景色が映し出された。


「すげ……オープンカーみたい」


「よ、酔わぬことを願うでござる……」


 バルディアが移動を開始し、モニターにみーちゃんとウラ秋菜が映る。スピーカーからクシアの声が外へと響いた。



『それでは行って参ります』


 機体全体にゴウンゴウンとものすごい音が響き渡る。


「時空転移システムを起動します。目標座標。Mう87に固定。到着後座標……」



 合成音が言葉を発する。



「時空間跳躍、開始--」






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