なり損ない。なのデス。

第150話 1/1


(エアリー。解除コード完成まであとどれくらいだ?)


(ゴフン! ゴフン!)


「流石にこの数相手に5分はキツいって……」


 夏樹君が弱気になってる。どうする……この戦力差をひっくり返すにはどうしたらいい? 師匠の重力魔法も最大出力にするにはタメが必要だし……。


『テメェら手ぇ出すじゃねぇぞ!! 最初は俺が遊ぶんだからよぉっ!!』


「しめたぜ先輩! 一騎討ちならまだ……」


 夏樹君の言葉が終わる前にログサの機体が突撃して来る。


「右手薬指!」


 夏樹君の声と共にレーザーを照射する。


『レーザー!? おもしれぇ!!』


 しかし、ログサ機はレーザーを紙一重で避けそのまま向かって来る。


「何で避けれるんだよっ!!」


『俺って目だけはいいからよぉっ!!』


 ログサ機が腰から2本のダガーを引き抜く。挑発するように両腕を広げて駆け抜けて来る。


「先輩! もう一回お願いします! 全弾発射で!」


「分かったよ!」


 夏樹君が両手をログサ機に構える。


 力を解放し、レーザーを照射……。


『近接武器だからって近付かなきゃ攻撃できない訳じゃねぇよなぁ!!』


 ログサ機からダガーが投擲される。


「うわやべっ!?」


 シュウメイが咄嗟に体をのけ反らせて投擲されたダガーを避ける。しかしその直後、目の前にログサ機の頭部が現れた。その両目が光り、もう片方のダガーが振り下ろされた。


『終わりだオラァ!』


「くそおおぉっ!!」


 僕が死を覚悟した瞬間、夏樹君がペダルとスティックをめちゃくちゃに操作し、体に浮遊が漂った。そして、足元に物凄い衝撃が訪れる。


 目の前のログサ機が吹き飛んでいく所を見てやっと分かった。シュウメイが蹴り飛ばしたんだって。


『おいおいおい!? 戦闘機械で入れて来るヤツなんて初めてだぜ!!』


 ログサ機は空中で体制を立て直し、着地した。


『あぁ!! 燃えて来たぜ。こんなに楽しめるとは思わなかったよなぁ』


「すごいよ夏樹君! これを狙ってたのかい?」


「ひ、必死すぎて分かんないですよ……」


『第2ラウンド行くぜぇ』


 ログサ機が再び突撃の構えをとる。


「先輩。何とかこのまま時間稼ぎます! 死ぬ気で力使って下さい!」


「わ、わかった!」


(私がリープする! 腕輪が取れたらすぐにやってくれ!!)


(分かったわ!)



 しかし、再び突撃しようとするログサ機をシバ機が制止した。


『遊びは終いにしろログサ! お前が隊長なんだろうが!』


『ち。うるせぇオッサンだな……分かったよ』


 ログサ機は名残惜しそうに体制を変えると、その右手を上げた。


『全機射撃準備ぃ』


 ログサのやる気の無い声。だけど僕達にとって絶望的な命令。それが、発せられてしまった。


「あぁクソ。時間稼げると思ったのに……」


 夏樹君が被りを振った。今度はライフルだけじゃない。バズーカまで構えた機体もいる。あれだけの量を回転レーザーだけで塞ぎ切れるのか……。


(レイラ! お兄様達を浮かせてくれ! 早く!)



 敵機の銃口が一斉に僕らに向けられた時。

 









 が聞こえた。










 オイテカナイデ。








 急に場違いな声が辺りに響く。その場にいた全員が声のした方向へと顔を向ける。するとなぜか敵機体の1機が沈黙していた。


 機体の上にが佇んでいた。 人の形をした影は、こちらの方をジッと見つめていた。


「な、なんだ……?」


 手元のディスプレイを操作して影を拡大する。何だか……すごく不気味な雰囲気を感じる。この雰囲気……以前どこかで……。


『全機射撃を中止! 引け!』


『あぁ? どうしたんだよシバのオッサン』


『黙れ!! アイツが動き出したら……』


 一部の機体達の挙動がおかしくなる。まるで何かに怯えるように影へ向かってライフルを構え出した。


『バカ共が! 射撃を中止しろ! ヤツに構うんじゃない!』


 シバ機の叫びも届かず、二足歩行戦闘機械達が一斉に攻撃を開始する。しかし、影は平然とした様子で銃弾を見つめていた。


 雨のような銃弾が、影に降り注ぐ。


 しかしその銃弾が影に触れる直前。


 全ての銃弾が




 オイテカナイデ。



 頭に影の声が響く。不快な気持ちが掻き立てられる声。



 これってもしかして……。



「みーちゃん! 聞こえる!?」


(えぇ……聞こえてる。アイツでしょ?)


「アレって前に僕達が遭遇した『カミのなり損ない』じゃないか!? まだいたのか!?」


(この気配。確かにアレはカミのなり損ないよ。蝶野君達が出会ったのと別種の……)


 やっぱりそうか。なら……。


「みんな聞いて欲しい。アイツに関わったらダメだ。連れていかれる。ここは一旦引こう」


(私も連れて行かれそうになったことがありマス! すぐにここを離れた方がいいデス!)


「なんだか分かんねぇけどヤバそうだなっ!!」

(レイラ。頼む)


 夏樹君がシュウメイを跳躍させ、師匠達を乗せたヒガンも高度を上げる。


『待てや! 逃げんじゃねぇっ!!』


 ログサ機も僕達を追うように跳躍した。



 オイテカナイデ。



 何だ? すごく嫌な感じだ。アイツは何をするつもりなんだ?


 影は僕達を含めて品定めするように全員を見ていった。


『あれは……全員この場を離れろ!! 今すぐにだ!!』


 シバ機の叫びが辺りに響き渡る。それに合わせるように、影を中心にが広がって行く。


『みんなっ!! アレはダメ!! あの中に絶対入っちゃダメよ!!』


 突然、ヒガンのスピーカーからみーちゃんの声がした。何だ? 相当に焦ってる……。



 僕達とシバ機、ログサ機以外……20機以上の機体が黒い円に飲み込まれていく。



 次の瞬間。



 円が一気に収縮し、20機以上の機体が一斉に沈黙した。


「な、何が起こったんだ……」


『アレは……広範囲のよ。なぜタイムリープをカミのなり損ないが……』


 

 黒い影が地上にいたシュウメイとログサ機を見る。



 ヤツと目が合った瞬間、頭にヤツの声が再び響き渡った。



 オイテカナイデ。



 影が物凄いスピードで僕達へと向かって飛んで来る。



「夏樹君! もっと速く走れないのか!?」

「やってるよ! これが全力だって!!」

『な、なんだよアレはよぉ!?』



 ヤツがもう僕達の目の前に……。



「く……っ!?」



 反射的に目を閉じると、物凄い爆音が響き渡った。


 な、何が……?


 恐る恐る目を開けてみると、影の頭が爆発したようで、頭から煙が上がる。 


『ガキ共は逃げろ……クソ』


 声のした方を見ると、シバ機がバズーカを構えていた。


 煙が消え、影の下から顔が現れる。


 人間の顔。大人の男の顔。それはに吸い込まれそうなをしていた。



 これって、え? どういうことだ……?



『嘘……』


 みーちゃんの動揺した声が聞こえる。


 あの顔……けど、見間違えるはずが無い。



「な、なぁ先輩? 俺の見間違いかな? なんか……あ、あの影、アイツにすごく似てる気がするんだけど……」


「僕も同じ気持ちだよ。何で……あんな姿に……」



 オイテカナイデ。



 男がシバ機の方へと向き直る。


 そして、瞬きをした時には既にシバ機の上に乗っていた。


 男がコックピット上部を素手で引き剥がし、壮年の男……シバの首を持って持ち上げる。


『シバのオッサン!?』


「来るなログサ!!」


 シバは苦しそうな表情のまま僕達に向かって叫んだ。


「お前達!! コイツは……俺達の世界をめちゃくちゃにしただ!! は、早く」


 そう言い残して、シバは僕達の目の前からした。




『カミのなり損ないが……クシアの言っていた時空規模の災厄だと?』




 ウラ秋菜が声を震わせる。時空規模の災厄? 他の世界をめちゃくちゃにした存在だって? 何を言っているんだ……でも、1つだけ分かる。は僕達の知ってる彼じゃない。


『あ、あり得ない……なんでが、なり損ないなんかになってるのよ!』


 みーちゃんが叫んでも、その影は答えない。感情の無い顔で、真っ黒の瞳で僕達を見つめるだけだ。



 君。



 君のに何があったんだよ。

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