お前は……。なのじゃ。

第149話 1/1


『防衛部隊半壊!! も、目標の電撃で6機が沈黙しましたっ!!』

『攻撃が効きませんっ!? 指示を! 指示を求めます!!』

『目標がなおも転移装置へ接近中!! 止まりませんっ!?』

『ロベリア様!!』

『ロベリア様……助けて……』


 通信から兵士達の助けを求める声が聞こえて来る。


「ロベリア様。いかが致しましょうか?」



 ……。



 ここまで築き上げたというのに振り出しから、という訳か。



 いや、まだだ。まだ人さえいれば……。



「ロベリア様?」


「この状況で指示もクソもあるか。放棄だ放棄。全兵士へ告げろ。機体が無事な者は生存者を救出。その後第3基地へ撤退させろ」


「よ、よろしいので?」


 能天気な顔をしている兵士を殴り付けた。


「本意でない事ぐらい分かるだろうが。たかが本拠地惜しさの為に部下を見殺しにしろとでも?」


「は、はい…失礼致しました!!」


「機嫌を伺うくらいなら早く撤退を開始させろ。転移装置の爆破も忘れるなよ。足止めぐらいにはなるだろ」


 手を離すと兵士は司令室の外へと走って行った。オペレーター達へも撤退するよう指示を出す。皆、私の身を案じる者ばかりだったが半ば強引に退去させた。



 モニターへ映る3つ首竜へと目を向ける。指令を受ける前の機体達が散開しながら竜へと攻撃をしている。しかし、竜が翼を開くと無数の落雷が降り注ぎ、各機共に沈黙する。



 何だコイツは? こんな生物聞いたことも無い。


 ……Lあ77世界の存在なのか。


 他世界への侵攻は、私が想定していたよりも困難らしい。



 胸に宿る「悔しさ」という感情を握り潰すように拳を硬く握り、司令室を後にした。



◇◇◇


 ツインディスクから専用の二足歩行戦闘機械を展開する。一目で指揮官機と分かる装飾。前戦の士気向上の為にと作らせた物だが、まさか撤退で初搭乗になるとはな。


 2本のスティックの感触が懐かしい。昔は……自分の機体と腕だけが唯一信じられる物だった。




 ……撤退か。



 昔の私なら、意地でもあのクソドラゴンを殺そうとするだろうな。いずれにせよ。あの転移装置はもう使えん。せめて残った兵士だけでも手元に置いておきたい。そうだ。異世界へ転移させた者達も救出せねばならんな。また金がかかる。



 そして、今度こそ手に入れてみせる。次は周到に準備しよう。一切の油断無く。


 Lあ77世界の人間共よ。私にこれほどの屈辱を味合わせたこと、必ず後悔させてやる。何年かかっても必ず……。



『いました! ジノサンが教えてくれたロベリアの機体ですわ!』



 スピーカーの音が反響し、若い女の声が聞こえる。振り返るとそこには共和国製の二足歩行戦闘機械が立っていた。


 肩に「弍型」という文字。鹵獲した機体か。


『アンタがロベリアだろ! 俺達の世界に攻め入るのは諦めてくれ!』


 次は少年の声。これも、かなり若いな。ログサと同じ年頃か。


「俺達の世界? フフ。ということはお前達があのクソドラゴンを呼び出して私の計画をぶち壊したのか」


『そうだ。アンタ達の状況には同情するけど何の関係も無い俺達の世界に侵攻するなんて間違ってる』


 ち。ガキが説教かよ。


 ……。


 ここで戦うのは何の意味も無いが……。



 憂さ晴らしぐらいはさせろ。



 ペダルを踏み込みバルディアへと急接近する。両腕の対二足歩行戦闘機械用チェンソーを展開しコックピットを狙う。


『は、速いですわ!?』


 1テンポ遅れてバルディアが両腕のチェンソーを展開する。ブランクがあるとはいえ私は長きに渡り最前線にいたのだ。貴様の様な素人には追い付けまい。


 チェンソーがコックピットを貫く瞬間。


 バルディアが体を捻って


 何? 明らかに避けられる位置では無かったハズだ。


 雑念を捨て逆の腕のチェンソーで相手の懐を薙ぎ払う。しかし、何度チェンソーを向けても


 紙一重で全て避けられる。


 あり得ない。こんな挙動を持つ機体とは遭遇したことが無い。


 バルディアが後方へと跳躍し距離をとる。



『何だお前達は?』



 そう問いかけた刹那。



 私の目の前、視界が一気に開けた。


「何……っ!?」


 すぐ脇に何かが着地する。


「もう降参するでござる。お主1人では拙者達に勝つことはできん」


 それは2本足で立つ黒猫だった。その右手には小さな刀。その刃が私の喉に向けられる。


 機体のコクピットが切られたことに気付いたのはその後だった。


。アンタの攻撃はこのバルディアに効かないよ」


 バルディアのハッチが開く音がして、機体から少年が地面に降り立った。



 



「お前……お前はっ!?」



 顔を隠すほどの髪に。年齢や細部は違うが、その姿……忘れもしない。



「Lあ77世界は俺達の世界なんだ。手を出すのはやめてくれ」




 今の挙動はコイツがやっていたのか。



 時を操る?



 ……そうか。



 ×××××××は時間干渉が特性だったな。時間干渉ができるということは、当然……こともできるはず。



「フ、フフフフフフ」


「お、おい。急に何だよ?」


「フハハハハハハハハッ!!」



 面白い。初めて自分の人生を面白いと思った。親を戦争で失い、戦場に生きる意味を見出し、友人を災厄に消され、戦場を奪われたクソみたいな道だったが。



 確かめてみるか。



「おい黒猫」


「な、何でござるか?」


「邪魔だ」


 懐から拳銃を取り出し黒猫に発泡した。黒猫は銃弾を避けるように機体から飛び退く。その隙にペダルを踏み込み少年へと突撃した。



「死ねええええぇぇぇ!!」



 少年は一瞬戸惑いの表情をしたが、私の機体へと手を伸ばす。




「あの機体、速い!?」



 貴様の手元を見れば狙いは分かる。ヤツが手を向けた瞬間に軌道を変える。



 私は。 



 手元が向けられる度に起動を変え、全速力でヤツへと近付いていく。



 ヤツが目前へと迫る。



 ……これ以上は避けきれないな。だが、コクッピットを切断したのは間違いだったな。



 ヤツが機体へ手を伸ばした瞬間機体から飛び降りた。着地の瞬間に体を回転して衝撃を逃した。そのままヤツの顔へと向け拳銃を発泡する。



 しかし。



「時を操れるっていったろ? 無駄だ」



 ヤツの目の前で銃弾はしていた。






 はは。予想通り。



 これで間違い無い。


 本来の私の計画とは全く予想外の所で、私個人の恨みが晴らせるかもしれない。



 後はどうするか。コイツを道連れに……。



 ヤツの髪が伸び、私から拳銃を弾き飛ばした。



「もうやめてくれ。手を出さないと約束してくれるならアンタに危害を加える気は無い」



「危害を加える気が無いだと? どの口が……」



 その時。私の額のクリスタルへと、交信が入った。


 これは……



 ……。



 奇跡だ。



 


 奇跡が起きた。




「知らないのか?」



「え……何をだよ?」



 知らないのかお前はフフフ……このような形でお前にできるなんてフフフフ……。


 どんな顔をするのだろう?


 絶望か? 泣きじゃくるのか? 見たい。見たいぞお前のその顔を。



「貴方は何を言っておりますの?」


 バルディアから銃を構えた女が降りて来る。共和国製の機体に最新型の転移装置。恐らく調査員だろうな。


「お前、歳は?」


「え? 15ですが……」


「戦場にいた者しか知らないからな。お前が知らないのは無理も無い」


 ちょうど良い。共和国の人間がどんな顔をするのかも拝める。


「自分達の世界を攻めるなと言ったな。なら1つ、私の願いを聞いてくれ。そうすれば、私は今後一切お前達の世界へ手を出さない」


「条件? 何だよ?」


「私をお前達の世界へ連れていけ。今すぐにな」


「何で……そんな」


 突然。少年が苦しそうに地面へ這いつくばった。


「な、何だ……めまいが……っ!? これって改変の!?」 


「な、なんですの!? クリスタルの記憶ネットワークにバグが……」



 額のクリスタルから伝わる。の証。



で始まったようだ。急いだ方がいいぞ」

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