災厄。なのじゃ。
第151話 1/1
「お前達!! コイツは……俺達の世界をめちゃくちゃにした時空規模の災厄だ!! は、早く」
目の前で叫んでいた男性は、黒い影によって消滅させられた。
「な、何だよこれ……」
「「「これは……なんということだ……」」」
イアク・ザードの転移魔法で俺達はロベリアを連れて元の世界へ帰った。
転移して目に入ったのは20機以上の二足歩行機械。それが全て沈黙している光景だった。そして、機体の上で黒い影が佇んでいた。男の人を掴んでいた影。男の人を消滅させた影。
その影。それは……人の顔をしていた。大人の男の顔。
「しまった!? ロベリアが!」
猫田先生が何かを言っている。でも頭に入って来ない。
「おや、シバが消されてしまったか。それに20機以上の部隊が消滅とは……どうだ? お前の所業だ。これはお前が全てやった。未来のお前がな」
いつの間にかロベリアは俺の後ろに立っていて、囁きかけて来る。
俺と同じ顔。
胸の奥が熱い。めまいがしそうなほど心臓が脈打ってる。カノガミだ。俺の中のカノガミが動揺してる。みーちゃんの叫ぶ声が聞こえる。あの影を「お兄ちゃん」と呼ぶ声。それで分かる。あの影は俺自身なんだって。
「あ……あ……」
「ロベリア! 準サンから離れなさい!」
「黙れ。お前達はそこで見ていろ」
こめかみに銃口が当てられる。ひんやりとした感触が皮膚を伝う。クシアの声も、誰の声も頭に入って来ない。ただ、ロベリアの囁きしか聞こえなくなっていく。
「時空規模の災厄よ。己が未来が絶望しかないと知った気分はどうだ? お前はな……何千何万という人間を消す。生きた証も全てな」
「準殿! 其奴の話を聞いてはいかん!」
「ロベリア! 準サンがそんなことするはずが無いですわ! 私は見ていました。準サンは1人の女性を救う為に世界まで渡ったのです! そんなことをするはずが……」
クシアが何かを言って俺を庇ってくれている。だけど、その言葉も沸き上がる罪悪感に飲み込まれていく。
「そうなのか。じゃあお前は……1人を救う為に大勢を犠牲にしても良いと思っている異常者なのかもしれんな。だってそうだろう? お前はこの世界が侵攻されるかもしれないと知っていたんだよな。その上で世界より1人の女を選んだのだよな? 異常だよお前は。でなければあのような姿になるハズが無い」
「ち、違う……俺は、ただ……」
「目を背けるな。お前は罪人だ。未来の姿だろうが関係無い。お前の罪はお前の物だ」
頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。何が本当で何が嘘か分からない。いや、全て真実なのかも。だって、今、目の前で人が消えたんだから。
俺がタイムリープさせたんだ。
「その顔。私の計画全てと引き換えとなったが……長きに渡り見たかった顔だ。フフ。私は今、この上ない喜びを感じているぞ?」
ダメだ。どうしていいか分からない。俺はどうしたら……。
「もう一度言う。お前は何万という命を奪った。そして今、また命を奪った。後悔しろ。その上で責任を取れ。やり方は分かっているだろ? 目の前に未来のお前がいるんだ。ほら、止めてみせろ。グズグズしているとお仲間も消されるかもしれんぞ。生身でも同じ能力があるお前なら止められるだろ?」
「あ、あ……あ……」
災厄がヒガンとシュウメイを見てる。アレにはきっとウラ秋菜達が……。
止めないと。
止めないとみんなが。
俺に……。
「あ、ああ"あああ"ああああっ!!」
災厄に向かって駆け出す。加速して一気に接近する。
『嘘……お兄ちゃんが戻って来てる! 早くエアリー!! 解除コードは!?』
『カンセイ! カンセイ!』
『は、早く腕輪を取って! 私を降ろして!! 早く!!』
『おいガキ! 落ち着け!!』
『嫌!! 早く降ろして!! あのまま戦ったら……お兄ちゃんが……』
災厄と目が合った瞬間頭に声が響く。
オイテカナイデ。
災厄がこちらに手を向ける。リープさせる気か。
ロベリアがやったようにジグザグに走り抜ける。
そのまま加速して全力でその顔を殴り付けた。
ヤツが後ろへ吹き飛んでいく。
また声が響く。男の声。これは、俺の声……か?
オイテカナイデ。
置いてかないで?
一瞬頭が回ったせいで反応が遅れた。瞬きした時には災厄が目の前にいた。
しまっ……っ!? リープされ……。
災厄に溝落ちを殴られ、内臓が抉られるような衝撃が体を駆け巡る。
「がっ……っ!?」
息が止まる。でも、なんとか頭は回った。なぜだ? なぜタイムリープをしかけて来ない!?
災厄に顎を蹴り上げられ、仰向けに倒れ込んだ。
災厄が馬乗りになって俺の首を締め上げる。
「ぐ、ぐるし……っ」
俺の髪が災厄を攻撃するが、災厄は気にも留めないように力を込めてくる。
な……なんだ、これ?
災厄の腹から影が伸びて来る。
影が、俺の体の中に侵入してくる。その瞬間、頭の中に声が響いた。今聞こえたのとは別の声。無数の男女の声。
ズルイ。
ズルイ。
ズルイ。
オマエタチダケズルイ。
オマエタチモハナレロ。
「ぐ、ぐぅぅゔ……!?」
体に侵入した影が無理やりカノガミを引き剥がそうとして来る。
や、やめろ。
俺からカノガミを奪うな。
顔を殴りつける。何度も何度も何度も。でも、災厄はびくともしない。
嫌だ……嫌だ!! カノガミと離れるくらいなら俺は……。
災厄の持つ漆黒の瞳を睨みつける。
お前何なんだよ! なんで俺からカノガミを!!
でも、俺がどれだけ抵抗しても影は手を止めない。光の玉が影に包まれ持っていかれそうになる。俺の体から光の玉が顔を見せた時、カノガミの声が頭に響いた。
--い、嫌じゃ! ジュンと離れたくない!!
この野郎……お前にカノガミは渡さない……絶対……絶対!!
両手で影を引き剥がそうと掴む。だけどカノガミを掴む影は、物凄い力で離れない。
俺の首を絞める腕にさらなる力が込められる。
クソ……意識が朦朧として来た。どうしたらいい……どうしたら……。
「お兄ちゃん!!」
視界の隅にみーちゃんが駆け寄って来るのが見える。
みーちゃん、く、来るな。
いや、漆黒の瞳……?
コイツ。もしかして憑依態なのか?
……。
だったら、一か八かこのまま……なってやる……俺も!!!
ほとんど残って無い息をかき集めて叫んだ。
「みーちゃん!!! 来いっ!!」
駆け寄って来たみーちゃんの手を掴む。彼女を抱きしめるように引き寄せて、影に引かれるカノガミの光へと触れさせる。
「頼む。力を貸してくれみーちゃん!!」
「うん!!」
みーちゃんが光になってカノガミの光と混ざっていく。そして、その光は眩いほどの輝きを放ち始めた。
「「「あれは……彼ノがみ様の光……」」」
眩い光の球が影を払い、俺の中へと入って行く。彼ノがみの光が。
光が完全に俺の中に取り込まれると、俺の中で、喜怒哀楽の感情がぐちゃぐちゃに混ざっていく。
「消してやる……っ!」
感情が、感情が抑えられない。俺の中で爆発する。大事な物を奪われそうになったことへの怒りが猛烈な勢いで湧き上がる。
「テメェ……俺からカノガミを奪おとしやがってぇ!!」
もうコイツには何もさせ無い。カノガミにもみーちゃんにも絶対に触れさせ無い。
災厄の顔に、全力の拳を叩き込む。
それと同時に、災厄を1秒間タイムリープさせる。
一瞬、災厄が止まった瞬間に災厄の顔面を加速した左手でぶん殴った。
衝撃を与えた瞬間、災厄をまたタイムリープさせる。
災厄の意識が引き戻された瞬間また飛ばす。隙ができた瞬間ぶん殴る。殴りながらリープさせ続ける。
「死ね死ね死ね死ね死ね!!!」
棒立ちになった災厄を全力で殴り続ける。
「死ね!!!」
顔面を殴った災厄をそのまま地面へ叩き付ける。災厄は痙攣するように体を震わせた後、動かなくなった。
「はぁ……はぁ……」
まだだ。まだ許せない。怒りが体中に渦巻いて全身が熱くなる。コイツの存在ごと消滅させないと……。
タイムリープさせる為に手を突き出す。
消す。コイツを消してやる。存在した証すら残さない。俺自身だって構うもんか。俺からカノガミを奪うヤツは、例え未来の俺であっても許さない。
消えろ。
「やはりな。お前は元から災厄なんだよ」
災厄を飛ばそうとした瞬間。ロベリアの声で我に返った。
手を見ると、真っ赤な血に染まってる。
あ、あぁ……。
俺は、俺は何をやってるんだよ。
俺はただ、カノガミともう一度会いたかっただけなのに……。
なんで……なんでこんなこと……。
気が緩んだ瞬間、災厄が纏っていた黒い影が俺へと纏わり付いて来た。
「こ、コイツ……まだ!?」
の、飲み込まれる!? 影に……。
暗い。
い、意識が……。
暗い影に包まれていく。
暗い暗い影に飲み込まれて、俺の意識が混ざっていく。何も考えられなくなっていく。カノガミはどうなったんだろう? みーちゃんは?
俺はただ、2人と離れないことだけを祈った。
◇◇◇
僻遠編。完。
……。
ダメ。このままじゃ……。
当然だけど、私が出て以降の話にはカケラが見つからない。過去の章に遡って順番に探して行くか……。
16話、43話、70.5話、96話、127話……そこを起点に探すしかない……かな。
1番可能性が高いのは127話付近か……でもまずは16話に行って、その後は43話に……。
あ、あなた。
観測者さん。
あなたとはもう会ってるよね? 私の話を聞いてくれない?
あなたが観測した「時空規模の災厄」は本来私達の世界には現れることが無い存在。先の話を見続けてきた私には……分かる。
アレが現れたせいで、外輪はこの世界から消えてしまうかもしれない。もしそうなったら、きっとこの世界のみんなが酷い結末を迎えてしまう。
でも。分かったこともある。
災厄が現れたことで気付いたの。きっとこの世界には私達が知らない秘密がある。外輪が消える前に、それを見つけ出さないと。
「寂しそうなカミサマ」を見つけ出して、その記憶を探りたいの。それが必ず鍵になるから。
もし良かったら手伝ってくれない? もしかしたら、あなたは既に観測しているかもしれないし。
それじゃあ私はもう行くから。
またね。
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