追憶編。……。
15年後
第152話 1/3
どこかから音が聞こえる。テレビの音みたいだ。
『10、9、8……』
何だこれ。数字を数えてるのか?
「起きぬか準。ほら、もうすぐ年を越すぞ」
女の声がする。俺の顔をペチペチ叩いては、呼びかけて来る。起き上がりたいけど、体が動かない。なんだか嫌に眠い。昨日飲み過ぎちまったかなぁ。
「ん〜なんだよ。もう少し寝かせろよ……」
『7、6、5……』
「もう。いつまで経ってもソナタは子供だな。初詣に行こうと言ったのはソナタであろう?」
初詣? そんなこと言ったっけ?
『4、3、2、1……ハッピーニューイヤー!!』
「あぁ……もう年が……もう良い! 私1人で出てしまうぞ!」
ドタドタという足音と共に女が離れて行く。やっと静かになった。これでゆっくり寝れ……。
『2017年あけましておめでとうございます!!!!!!!』
「い"っ!?」
テレビの爆音と共に目が覚めた。アイツ! 嫌がらせにテレビの音を目一杯上げやがったな!
……。
あ!
目が覚めると、急に記憶が蘇って来る。
そうだった。俺が
「本当に行ってしまうぞ? 愛しい女に1人で夜道を歩かせるつもりか?」
玄関に向かう扉から彼ノがみがにゅっと顔を出した。肩まで伸びた髪の毛がマフラーの中に入っていつもよりシルエットが丸みを帯びてる。
「ちょ、待てって。俺も行くから」
「ソナタは私との約束なぞどうでも良いのであろう?」
「そんなことないよ。カノガミちゃん?」
どうでも良くないと示したくて、ワザと懐かしい名前を呼んでみる。
「その名で呼ぶでない。昔を思い出して恥ずかしくなるであろうが」
彼ノがみが頬を膨らませる。子供っぽい仕草に笑いが込み上げた。こういう所は昔から変わんねぇな。尊大に見せようとして実は子供っぽい所。
「いいじゃん。俺は恥ずかしいっていう昔のカノガミちゃんのことも好きだよ」
「むむむ……ま、まぁ? 素直に謝るなら許してやらんことも、ない」
彼ノがみがチラチラとコチラを見て来る。恥ずかしそうというか、照れてる顔。出会った頃は俺達2人ともこんな顔してたよな。
初めてキスした時なんてロボットみたいにギクシャクしてさ。これ言うと怒って来るから言えないけど。
「何をニヤニヤしておる?」
「いや、寝過ごしちゃってごめんな」
「……仕方ない。待っておるから早く着替えて来るが良い」
彼ノがみは椅子に座って頬杖をついた。
◇◇◇
深夜運行していた山手線に乗る。ほぼ一周しそうなほど電車に揺られ、
なんとか辿り着けて良かった。彼ノがみのヤツがいちいち口を出して来るから2回くらい行き先を変えることになったけど。
「うわぁ……分かってはいたけどすんげぇ人……」
「おぉ……やはり都会は違うな。同じカミとして羨ましい限りだ」
ここに来て以降、参拝なんてしたこと無かったし、全然人混みをイメージしてなかった。やっぱり頭で分かっているのと実際に体験するのとでは違うなぁ。
「でも彼ノがみの方が偉いだろ? 時のカミな訳だし。ここのカミサマなんて実在するかも分からないし」
「これ。これから1年の願い事をする者が願いを聞き入れて貰うカミを愚弄してどうする」
「あ、しまった。つい」
「ま、実際私の方が偉いのだがな」
「お前も愚弄してんじゃねぇか……」
彼ノがみがそっと手を繋いでくる。人混みの中離れないようにその手を握り返す。
ふと気になって彼女の顔を見ると、安心したように微笑みを浮かべていた。
2人で大渋滞する人の流れに身を任せ、1時間ほど経った頃、やっと賽銭箱まで辿り着くことができた。
賽銭を2人分投入し、彼ノがみと手を合わせる。後ろからのプレッシャーがすごいので早々に切り上げ、急いでその場を後にした。
「何をお願いしたんだ?」
「今年こそ子を成せますようにと」
「他のカミサマにお願いしたのかよ」
「仕方ないであろう。私達ではどうにもできぬことであるし、頼んでおいて損は無かろう?」
「……そうだな」
俺達も、世間から見れば適齢期の男女に映る。他人に興味の無い都会であれば何の問題も無いが、田舎の白水は違う。やれどこどこの誰それか結婚しただの子供ができただの、すぐ他人の家に首を突っ込みたがる。俺達なんて年々怪しまれるようになった。ガキの頃は……逆に誰も干渉して来なかったのにな。友達以外は。
だから俺達は白水を出て色々な町を転々とした。そして昨年、東京に越してきた。
彼ノがみは子供を欲しがっているけど、そもそも人とカミである俺達の間で子供なんてできるんだろうか? そりゃあ俺だって欲しいけどさ。彼ノがみの子供だったら、絶対可愛いに決まってる。本当は……子供ができて、俺達の出会った白水にいられたら最高なのに。
白水か。もう随分帰ってない。でも、明日は久しぶりに……。
「明日は小宮達との飲み会か」
「日付けが変わったのだから今日。であろう?」
「あ、そうだった。暗いからつい」
「ふふ。懐かしいな。早くみんなに会いたいぞ」
「みんなと最後に会ったのっていつだよ?」
「小宮が就職した時だな。もう6年前。2011年」
「よく覚えてるな」
「時のカミだから、な!」
「うおっ!?」
彼ノがみが俺の腕に抱きついて来た。寒い風の中、彼女に触れている腕だけが暖かい。
いつかは俺が先に死んじまって、彼ノがみを1人にさせてしまう。それも2人でいっぱい話をした。彼ノがみが泣いてしまうこともあった。けど……2人で沢山、本当に沢山話をして、今を生きようと決めた。彼ノがみには今、幸せを感じて欲しい。いや、俺がしなくちゃいけないな。
……。
がんばろう。
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