第153話 2/3

 居酒屋で予約名を告げると、奥の部屋へと通された。小宮は忙しいようで、遅れて来ると言っていた。


「先飲んでるか」


「え、みんな揃ってから頼むのでは無いのか?」


「いいだろ細かいことは気にしなくても。アイツらとだし」


 呼び出しボタンを押そうとした所で、背の高い男に話しかけられた。


「おいおい〜なに主役抜きで始めようとしてんだよ」


「おぉ! 夏樹ではないか!」


「彼ノがみさんも相変わらずお美しいですね」


 夏樹がキリッとした顔をする。昔は、こんなことしても夏樹だからということでネタにできたのに、今の夏樹が言うと笑えねぇ。


「お前……モテるんだから人の彼女ナンパすんなよ」


「なんだ。準はヤキモチを焼いておるのか? ん? ん? 素直に白状するが良い」


 彼のがみが笑みを浮かべながら顔を覗き込んで来る。距離が近過ぎて胸が肘に当たる。家だったら嬉しいけど、人前だと恥ずかしいな。


 バレないようにそっと腕を引いた。


「彼ノがみさん……顔がめちゃくちゃニヤついてるよ……」


 良かった。夏樹にはバレてないみたいだ。反面、彼ノがみは俺がさりげなく距離を取ったのが気に食わなかったようで、少し顔をムッとさせた。……俺にしか見えないように。


「はぁ……今日秋菜ちゃんは?」


「流石にな。正月早々2人して家開けるわけにはいかねーって。秋菜に当主代行して貰ってる」


「そうか……秋菜にも会いたかったのだがな。6年前の時も会えずじまいであったし」


「秋菜ちゃん。美人になってるだろうなぁ」


「兄貴の俺が言うのも何だけどな。めちゃくちゃ美人だぜ〜。でもなぜか結婚どころか彼氏も作らないんだよなぁ」


「そ、それはやっぱり……。が原因であろうな」


だよな。どう考えても……」


「んん? 俺なんか変なこと言ったか?」


 ある意味アラサーになっても同じことやってることが恐ろしいぜ夏樹……。兄妹だけどさ、ちゃんと話し合えよ。このまま放っておいたらふわっとした感じのまま秋菜ちゃん年寄りになっちまうぞ。


「秋菜に言っとくよ。彼ノがみさんが寂しがってるってさ」


「ああ。また買い物に行こうと言っておいてくれ」


 その時、廊下から騒がしい足音が聞こえて来た。この足音、絶対小宮だ。


「やぁ元情報部員の諸君。元気だったかね?」


 何だか大仰な振る舞いでスクエア型の眼鏡にショートカットの女……小宮が入って来た。


「元旦から仕事かよ。ブラックだねぇ」


「ソトッち君。私達の仕事に休みは無いのです。情報は日夜更新されているのですから! ……でもごめんね。なっつんとアミちゃんも待った?」


「アミちゃん……」


「みーちゃんの方が良かった?」


「す、好きに呼ぶが良い」


「じゃあアミちゃんだよね。これが1番しっくり来るからね」


 小宮が笑う。昔から小宮ってあだ名付けるの好きだよな。


「あとは犬山だけか」


「犬山君はね。残業中〜」


「残業?」


「そ。ウチの事務所の下請けみたいなことやって貰ってるんだ。私らができない探偵的なことをね」


「犬山昔っからそんなことばっかりやってるもんな〜」


 夏樹が昔を思い出すようにうんうん頷いた。


「逆に茉莉は先に来てしまって良かったのか?」


「アミちゃん。私は情報屋だよ? 情報を提供するまでが私の仕事なのです」


 小宮が胸を張る。


「ま、ちょっと別件で時間かかっちゃったんだけど。ちょっとの案件を追っててさ」


 裏の方ってなんだよ。怖えな。


「サクラザワ情報事務所だっけ? 大丈夫なのかそこ」


 俺の言ったことが気に食わなかったのか、小宮はメガネをギラリと光らせた。


「一時期は10数人も情報屋を抱えてたすごい事務所なんだよ」


 そういう意味じゃないんだけどな……でもそんなに人がいるんだ。ん? 「一時期」は?


「今は?」


「私を入れて3人」


「全然ダメじゃねぇか……」


「3人でもちゃんと稼げてるしぃ。犬山君も私のおかげで食べられてるんですぅ!」



「その分めんどくさい仕事回されるけどな。部長には」



 声のした方を見ると、見覚えのある男が立っていた。白いシャツにスラックスとフォーマルな服装でまとめてはいるが、クセの強いボサボサ頭が全てを台無しにしている男が。


「お、犬山君。どうだった?」


「盗聴に盗撮。しかも依頼者の隣の部屋に住んでたヤバい女を警察に突き出して来た」


「ストーカーというヤツか?」


 彼ノがみが不思議そうな顔をする。


「いや、商売敵への嫌がらせだ。依頼者が俺達の知り合いでな。配信者なんだ」


 配信者ってことはネットに動画上げてるってことか。その同業者? そこまでやるって怖ぇなぁ。


「無事解決して良かったね。明日事務所寄って。報酬渡すから」


「助かる。今月厳しいんだ」


 みんな、色んなことやってんだな。


「仕事の話しちゃってごめんね。とりあえず、これで元白水中学情報部のメンバーは全員揃った訳だしぃ。早速始めますか! なっつん! 店員さん呼んでー」


◇◇◇


 飲み会は、みんなの近況と中学の頃の思い出話であっという間に2時間が過ぎてしまった。


「ソトッちとアミちゃんといると全然飽きなかったよね。不思議なことばっかり遭遇するし!」


「ほとんどお前がネタ持って来たんじゃねぇか!」


 昔は毎日が騒がしかった。小宮がよく分からないネタを掴んでは俺達が確かめに行って、幽霊退治したり、酷い時にはが出て来たり。死にそうな目に遭うこともしょっちゅうあった。でも、その度に彼ノがみが助けてくれた。


「彼ノがみさんと会ったのも小宮きっかけだったもんな。小宮がさぁ。俺を脅して祠の鍵を持って行ってさぁ」


「夏樹は何を理由に脅されたのだ?」


「あぁ!? 彼ノがみさん! 今のは聞かなかったことにして!」


 夏樹が大袈裟に話を煙に巻こうとする。それを犬山が指摘しようとしては小宮に止められていた。


「ふふ。思い出すと笑えて来るな。私もあの時は今とは全然違っていた」


 彼ノがみが少し寂しそうな顔をする。彼ノがみもチヨさんのことや、封印のトラウマがあったりしたもんな。


「そういや今でも2人は霊に遭遇したりするのか?」


 夏樹が空気を読まずに質問して来る。霊? ここ10年近く見てないな。


「いや、私達からそのような場所に行くことは無い。至って普通に過ごしておるよ」


「そっか。秋菜がさ、言ってたんだ。東京は人が多いから死者の思念も集まりやすいんじゃないかって」


「それが彼ノがみと何の関係あるんだよ?」


「いや、彼ノがみさんはカミサマだからさ、助けを求める思念達を引き寄せたりしてないかなと思ったんだ」


「何だよそれ。霊障ばっか起きそうだな」


「そうそう! 霊障と言えばさ、映像研究会と一緒にホラー映画撮ったことあったよね。なっつんが頼みこまれてさ……」


「俺はソド子さんに遭遇した時に死を覚悟した」


「あぁ! 犬山は座りながら気絶しておったな!」


 結局、その日は深夜まで思い出話は続いた。

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