少女と猫。なのじゃ。
第127話 1/1
2学期が始まって最初の放課後。部室に行くとまだ誰も来ていなかった。
「ジュン〜」
「ほい。茶」
ウマ湯呑みに入れたお茶をカノガミの前に置いた。
「良く分かっておるの♡」
「お前部室に来たら絶対言うだろ」
「じゃって、ジュンの茶が飲みたくなるんじゃもん♡」
いっつも飲んでるじゃねぇかよ……。
「失礼するでござる」
どうやったのか、猫田先生が器用に扉を開けて入ってきた。
「猫田先生。久しぶりじゃん」
「お2人だけか。ちょうど良かった」
「ウチらに用事があったかの?」
猫田先生は会議用テーブルに飛び乗ると、俺達の方を真っ直ぐに見つめた。
「先日、準殿を探しているという御仁に助けられたのでござる」
俺を? 誰だろ?
「準殿はカノガミやみー殿の他にカミの知り合いはいるでござるか?」
「あとは彼ノがみだけだな。その3人しか会った事無いよ」
「そうでござったか……その女性は、己のことをカミと言っていた」
「助けられたって具体的には何をされたのじゃ?」
「体の時間を巻き戻して頂いた。拙者、車に轢かれてしまったゆえ」
「え!? 轢かれたって大丈夫なのか!?」
「この通りでござる」
猫田先生の身体を見るけど、怪我すらしている様子は無い。体の時間を巻き戻してもらったって……。
「おかしいのぅ。時間を巻き戻せるカミなどウチらしか知らんぞ」
「というかカノガミ。他のカミっているのか?」
「知らんのじゃ♡」
「知らんのじゃ♡ じゃねえええぇぇぇ!?」
「そうか。礼がしたかったのでござるが……」
「今度助けてもらった所に案内してくれよ。何か分かるかも」
「承知した」
そう言うと、猫田先生は丸くなった。
「あと、小宮殿にも用事を頼みたいと言われてるでござる。来られるまで待たせて欲しい」
猫田先生はものの数秒で寝息を立て始めた。やっぱり猫だな。寝るの早ぇよ。
……。
「猫田先生、なんか元気無かったな」
「そうか? 天気が良いから眠かったんじゃ無いかのう」
「そんな、カノガミじゃあるまいし……」
--ふぁ〜。ウチも寝るのじゃ。みんなが来たら起こしておくれ♡
カノガミは大きく伸びをすると、光の球……
あ、おい!
……寝ちまったよ。
ただでさえ誰もいないのに。
……。
俺を探してた女の人って誰なんだろ? 猫田先生にもっと詳しく聞けば良かったな。
まぁ考えても仕方無いか。
テーブルに積まれていた漫画雑誌を手に取る。
あぁこの漫画、すっかりカードゲームの漫画になったな。俺はもう1人の主人公の過去が気になるから、早く過去編やって欲しいな。今の展開も熱くて好きだけど。
……。
「あれ? お兄様はまだ来てないのですね」
声のした方を見ると、扉の所に秋菜ちゃんが立っていた。
「まだ誰も来てないんだ。お茶入れるよ」
秋菜ちゃんを会議用テーブルに通し、専用湯呑みにお茶を入れた。
「ふふ。準さんって本当にお優しいですね」
秋菜ちゃんが上品そうに笑う。なんかそういう風に言われると恥ずかしいな。俺が好きでやってるだけなんだけど。
秋菜ちゃんはお茶を1口飲むと猫田先生に目を向けた。
「今日はまめ太さんがいるのですね」
「え? まめ太って?」
「あれ? え? あ、すみません。なぜ猫田さんのことを間違えてしまったのでしょう……」
秋菜ちゃんは首を傾げた。どうしたんだろう?
「猫田先生、小宮に呼ばれたらしいよ」
「そうなんですね。なんだか、寝てる姿を見ると普通の猫さんに見えますね」
「はは。背中に物騒な物背負ってるけどね」
「あ。」
呟きと共に、秋菜ちゃんの目がみるみる鋭くなっていく。でもウラ秋菜になっても、なんだか……。
「おいで」
ウラ秋菜が声をかけると先生の耳がピクリと動く。そして、何も言わず起き上がると彼女の膝の上に飛び乗って再び丸くなった。
先生、寝ぼけてるのかな?
彼女はうっすらと笑みを浮かべて先生の背中を撫でる。
「あれ? ウラ秋菜ってそんな感じだったっけ?」
「変か?」
彼女の手が優しく黒猫の背中を撫で続ける。そこから漂う雰囲気は、俺が知ってるものとなんとなく違う気がした。
「ううん。変なんかじゃないよ。前はもっと嫌がってたような気がしてさ、なんでかなと思って」
ウラ秋菜は何も言わず、黒猫を撫でる。何かを言おうとしてるみたいだけど、どう言葉にするか考えているようだった。
「外輪準は夢は見るか?」
「夢?」
「ああ」
「見てると思うけど、どんな内容だったか思い出せないなぁ」
「私もそんな感じだ。怖い夢を見ていたはずなのに、目が覚めると思い出せない。でも……」
「なんだよ?」
「もしかしたら」
ウラ秋菜が窓の外を見つめる。まだまだ暑さが残るグラウンドと、晴れ晴れとした空が窓の向こうに広がっている。つい最近まで、俺達もあの空の下を駆け回っていたはずなのに、今ではそれは夢の中の出来事のようにも思える。
「私達が知らないだけで、誰かが必死になって、頑張って……そうやって繋ぎ止めてくれてるのかも」
「何を?」
「この現実が、悪い夢になってしまわないように」
悪い夢……か。
「そう、思ってな」
目の前の少女が黒猫を撫でる。労わるように、慈しむように。
黒猫はそんな彼女の膝の上で、安心したように眠り続ける。
その姿は……。
そんな1人と1匹を見ていると……。
なぜか、涙が溢れそうになった。
……。
窓の外から生徒達の楽しげな声が聞こえ出す。
「うるさくなって来たなぁ」
「そうだな。なんだか、久しぶりな気がする」
ウラ秋菜は微笑みながら言った。そんな彼女の顔を見るのは初めてで……オモテの秋菜ちゃんにも引けを取らないほど、素敵な笑顔だなと思った。
廊下から騒がしいみんなの声が聞こえる。こちらに向かって歩いてくる声。
もうあと少しで、この部室も一気に騒がしさを取り戻すだろうな。
長い長い夏休みが終わって……。
始まったって感じがする。
俺達の、新しい生活が。
◇◇◇
幕無編 完だよ。
次は……。
……。
やっと……やっとこの章、124話と126話でカケラを見つけた。でもまだダメ。このままじゃ150話以降のみんなを助けられない。
外輪があの選択をしてしまったらダメなのに……私の推測通りなら……この世界は……。
ここまで無いなら、誰も探さない場所を探してみるか……どこかに必ずあるハズ。
あ。観測者さん。
初めまして。もしくは96話ぶりだね。
会ったことある人は覚えてる? 私は
129話から登場してるの。今あなたに話かけてる私は151話から来てるから……129話の私はあなたを知らないかもしれないけど……。
また会えるといいね。
またね。
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