僻遠編。じゃもん!
振り向けば土下座。なのデス! こらぁ! ちょいちょい奪って来るのはやめるのじゃ! お前は100話以上言ってるんだから文句言うんじゃねぇデス!
第128話 1/1
「蝶野。お前はしばらく休んでいたから補習だけでは厳しいな。この課題も提出するように」
「分かりました……」
「これを出せばサボってたことは許してやる。がんばれよ」
数学の山下先生は僕の肩をバンバン叩いて教室を出て行った。
義務教育で良かったな。高校だったら退学だったかも。1学期後半は学校サボって修行ばかりしてたからなぁ。
カバンを持って廊下に出る。
あぁ……やっと帰れる。久々の授業に加えて補習もあるとやっぱり体力使うなぁ。受験勉強は修行中にもやってたけど、長時間座って先生の話聞くのって辛いよ。
夕方、オレンジ色の光が差し込む中、誰もいない廊下を歩いているとふと魔が刺した。
今だったら、力使っても大丈夫かな?
指先に力を集中して周囲の水分を集める。この修行も慣れたな。指先にはすぐピンポン玉程の水球が出来上がっていた。
流石にレーザー出すのはマズいけど、いつでも撃てるっていうのはなんだか心強いな。ヤンキーとかに絡まれても堂々としていられそうだ。いや、使わないけど。
「ねぇ蝶野君」
こ、この声は!?
慌てて水球を手で隠して背中に回す。振り返るとそこには僕の予想通り、偉そうなオーラを漂わせた女子生徒が立っていた。
「アナタ随分雰囲気変わったわね。何かあったの?」
「ほ、
僕は方内さんが苦手だ。以前料理部で超能力を披露した後、彼女はしきりに僕の力を使って金儲けをしようと誘って来た。
調理実習室で何があったのか見ていたクセに、僕の気持ちなんて知ったことではないというその姿勢……。なんというか、すごい女子だなと思う。
「何をそんなに驚いているの? 私は夏休みが明けてからのアナタの変化に驚いているだけなのだけど?」
ま、マズい。方内さんに魔法の存在を知られたらどんなことに利用してくるか……なんとしても隠し通さないと。
(あ、弟子〜♡)
え!?
遠くから師匠の声が聞こえる!?
どこだ……。
方内さんの後ろ……さらに向こう?
な!?
なぜこのタイミングで師匠が情報部の部室から手を振っているんだ!?
廊下の最奥の部屋から笑顔の師匠が手をヒラヒラと振っているのが見える。
というか、方内さんに僕と師匠の関係を知られるのも非常にマズいんじゃないだろうか? いや、そっちの方がマズいだろ。絶対。
……。
弱みを握られると何をさせられるか……。
なんとか誤魔化さないと。
「僕が変わったって、どこが?」
「そうね。なんというか、明るくなった気がするわ」
「そ、そうかな。夏休みではっちゃけてしまったせいかも」
「3年生で? 遅すぎない?」
「い、いや……なんというか……」
(こらああああレイラあああ!? ウチの楽しみにしていたオ○オ全部食ったじゃろおおお!?)
!?
廊下をカノガミさんの声が反響している!?
(うるせぇデス! 準が出して来た分を全部食ったまでデス!!)
(ジュンが!? どういうことじゃあ!?)
(いやいやいや!? 俺じゃないぞ!? 俺はもう1袋残したハズだぞ!?)
(じゃあもう1袋は誰が食ったんじゃあ!?)
みんな何をやっているんだよ!? こんな所で2人が喧嘩を始めたら方内さんに重力魔法を見られるじゃないか!!
なんとか方内さんの気を逸らしつつジェスチャーで師匠に部屋へ戻るよう伝える。
も・ど・れ。
(ん? 弟子が何かを伝えようとしてるデス)
(なんじゃと? それじゃあ蝶野とレイラの愛の力、見せて貰おうかのぉ〜。まさか分からんなんてことはないじゃろうなぁ?)
(分かるに決まってるデス! 私が正解したら土下座させてやるのデス!!)
(あーあー無謀な約束をしてしまったのぉ〜? 失敗したらレイラに土下座して貰おうかのぉ)
(なんでお前ら土下座させたがるんだよ……)
い・ま・す・ぐ・も・ど・れ。
(す・き・だ・よ・レ・イ・ラ デス♡ こんな所で言ってくるなんて……大胆な夫デスね♡)
ちがああああう!?
「どうしたの? さっきから変な動きして」
「い、いや。あ〜なんだか暑い気がするなぁ」
「そう? 今日は涼しいとみんな言っていたけれど」
「あ、ははは……涼しいの間違いだったよ」
「そんな間違いある?」
「いや、あは、あはははは……」
(ぐぬぬ……悔しいがレイラが正解じゃ……)
何をもって正解にしているんだ?
(それじゃあ土下座して貰うのデス)
(あ、あああぁぁぁ! 体が重いのじゃあぁぁ!?)
だ、ダメだ!? 師匠が重力魔法を使ってる!? 方内さんに後ろを振り向かせないようにしないと!
「さっきから後ろがうるさいわね」
「あ、ああああ!? 実は僕超能力で水が出せるんだよ!」
咄嗟に隠していた水の球を出した。
「え? これ……超能力でやってるの?」
「そうなんだよ。すごいだろ?」
く。自分から自慢しに行ってるみたいで恥ずかしい。
「なんか汚いわね……」
「えぇ!?」
「水って所が。手汗? じゃないわよね?」
「ぐぐぅ……」
なんでこんなにも胸を抉られなきゃいけないんだ……。
「あ。犬山君。何1人で帰ろうとしているの?」
「げ。先輩……」
方内さんの目線を追うと、僕の後ろにボサボサ頭の男子がいた。
「今日は一緒に帰る約束でしょ? 忘れたの?」
「アンタが一方的に決めたんだろ……」
「何してたのよ」
「文芸部の
「ふぅん。もう終わったんでしょ? 帰りましょ」
男子が思い切り肩を落とした。方内さんはそんな彼の手をとってグイグイと引っ張っていく。
「また明日ね。蝶野君」
「あ、うん」
……。
「犬山君。オ○オ食べる?」
「なんで持ってるんだよ?」
「1袋貰って来たのよ。情報部から」
「それ盗んで来たんじゃ……」
「失礼ね。ちゃんと小宮さんに聞いたわよ」
方内さんと男子はそのまま階段を降りて行った。
……。
なんだったんだ。一体。
(ぐぅぅぅぅ……土下座させられてウチのプライドはズタズタじゃ……)
(お前もノリノリだったじゃねぇか……)
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