第87話 3/4

「ね、猫田ああああぁぁぁ!?」



 猫田が竜の頭に食われた瞬間。



 辺りに轟音が響いた。



 気が付くと、猫田を食べた竜の頭が空中に浮いていた。



 いや、。あまりの勢いで叩きつけられたからか、頭は首から千切れていた。



「クソ。イアク・ザード本体に当てるつもりだったのデスが……」


「れ、レイラ……!?」


 レイラがこちらへ重力魔法を放ったのか……。



「師匠! すごい威力ですね!」


 蝶野君がレイラへ駆け寄っていく。



「気を抜くなバカ!! 死にたいのデスか!?」


「す、すみません!」



 地面に竜の頭が落ちていく。



 その頭は空中でになった。


 そして、その中からヒトキリ丸を持った猫田が現れた。


 猫田は空中で体を翻すと、地面に着地した。



「ふぃ〜。死ぬ所だったでござるなぁ」


「助けに来たのに喰われるヤツがありマスか」



 レイラが猫田の首筋を掴んで子猫のように持ち上げた。


「は、離すでござる!!」



 私が言うのもなんだけど……コイツら……化け物みたい……。


「でも、これで首は1つだけね」


「くそおおお……油断したあああぁぁ……」


 イアク・ザードの残った頭が悔しそうに叫ぶ。


「今畳み掛けるべきじゃない!? また転移されるかも」


「ちょっと待て……何かおかしいデス。残った頭は1つ。私と戦った時と同じ状況デスが、あの時より余裕を感じマス」



 余裕……?



 

 もう1度目をやると、竜が笑いを噛み殺しているのに気がついた。


 その声は徐々に大きくなり、やがて辺りに竜の笑い声が響き渡った。



「おやぁ? バレるのが早かったな。トドメを刺しに全員で向かってこれば手間が省けたのになぁ」



 イアク・ザードの頭が目を閉じると、失ったはずの頭が、首が、



「な……っ!?」


「「「ふはははは!! 今の我を殺すことはできん!!」」」


「頭が1つでも残ると再生するってこと……?」


「そのようでござるな……」


「「「強者達を喰らい力を得た今の我らは、。そして、もう1つ伝説があったであろう? 1000の魔法を操ると」」」


 1つの頭が空に何かを吐くと、辺りに暗雲が立ち込める。



「「「ふふふ……天候すらも操る我は既にカミの領域にいる」」」


 竜が翼を広げると、辺り一帯にが降り注いだ。


「痛っつうううう? 反則でござる!?」

「きゃああああああああ!?」

「む、無茶苦茶じゃないか……!?」


 雷を避けても別の雷に直撃する。そのたびに全身に痛みが駆け巡る。


 それでも痛みを堪えながら走って、大きな岩陰に隠れた。


 岩陰で耐えていると、やっと雷の雨が止んだ。


「うぅ……まだ手がビリビリするわ」


「防御魔法でも防ぎ切れないデスか……」


「師匠の魔法が無かったら……」


「「「どこへ逃げ込んだぁ? 我らの力のほんの少しで慌てふためくとはなぁ。本気を出した瞬間消し炭となってしまいそうだ」」」


 イアク・ザードが再び笑い声を上げる。



「バカみたいな笑い声だなぁ」



 能天気な声に振り返ると、いつの間にかお兄ちゃん外輪準が後ろに立っていた。


「外輪君!? どこへ行ってたんだよ!?」


「ごめんみんな。ちょっとウラ秋菜の所に行ってた」


 蝶野君にお兄ちゃんが笑いかける。



 え……。



 お兄ちゃんの笑顔がいつもと違う。



 一瞬、見えてしまった。お兄ちゃんが左腕を隠すように抑えるのを。




 「その左手!? 見せてみなさい!」



 「大丈夫だよ」



 「いいから!」


 能天気を装っているけど、左腕が痛々しいほど傷付いている。


 私達は運が良かった。落雷による攻撃は広範囲ではあるけど、威力が弱かったみたいだ。


 でも、お兄ちゃんは……。


「動くから心配するなって」


 お兄ちゃんが平気そうな顔をする。



 なんで?



 なんで平気なフリするのよ。



 いつものお兄ちゃんの顔が頭をよぎる。バカみたいに明るくて、楽しそうで、でも、いつも周りのみんなを気遣ってる姿が。



 ……。

 


 なんだろう。



 胸が、すごく苦しい。



「手を出して」


「あ、あぁ……」


 お兄ちゃんの手を撫でる。触れると、お兄ちゃんが顔をしかめた。


 応急処置はしてあるけど、このままだと……。


 お兄ちゃんの手に両手を乗せ、傷付いた手の時を戻す。


 今の私では生命への干渉はかなりの力を使ってしまうけど、傷付いたお兄ちゃんは見たくなかった。


 こんな、無理して笑ってるお兄ちゃんは。




 私、どうしたんだろう?



「ありがとうみーちゃん。楽になったよ」



「無理しないでね……」


 その時、インカムからウラ秋菜の声が聞こえた。


『長期戦になると私達が不利か……3つの頭を全て倒せば、ヤツを倒せるんだな?』


「そのはずよ」


『……分かった。私に作戦がある。全員聞いてくれ』



◇◇◇


『以上だ。異論あるヤツはいるか?』


 俺が合流した時、みんなの顔は疲弊し切っていた。でも、ウラ秋菜の作戦を聞くうち、少しずつだけど元の表情に戻った気がする。


「ね、ねぇ……。レイラってそんなことまでできるの?」


 ウラ秋菜の説明を聞き終えるとみーちゃんが困惑したように尋ねた。


「できマス」


 レイラさんが腕から真っ黒い剣を取り出す。


「な、なんでござるか!? その面妖な刀は!?」


「猫田先生達は初めて見るのか」


「重力魔法剣。重力魔法を高密度に圧縮し、剣状に形成した物デス」


『準備はいいか? ガキと先輩が飛び出した時点で開始だ。それぞれのタイミングは私が指示する』


「頼むぜ。ウラ秋菜」


 この状況で全体を把握できるのは離れた場所にいるウラ秋菜だけだ。コイツに全てがかかってる。


「それじゃあ蝶野君。行きましょう」


「うん。行こうみーちゃん」


 そう言うと2人は走り出した。



「「「おぉ!! 勇者達の登場ではないか!! もっと我らを楽しませてくれよぉ!!」」」



 イアク・ザードがみーちゃん達に目掛けて電撃を放つ。



 電撃が直撃しようとした時。



 蝶野先輩がみーちゃんを担ぐと、2人はした。


 電撃が今まで2人が立っていた場所へと当たり、土煙が舞い上がる。



『よし! 次!』


 レイラさんが重力魔法剣を構える。


「うおおおおおぉぉぉ!!!」


 叫ぶと同時にレイラさんが俺の立っている地面をすくい上げた。


 俺が立っている大地が砕かれ、舞い上がる。イアク・ザードへと向かって飛んでいく。


 俺は力を使って大地を加速させる。そして、タイミングを測って大地から飛び降りた。


 加速した大地は、イアク・ザードへと直撃した。



「「「が……っ!?」」」



 首を振っていた3つの頭が、目の前で浮遊する俺に気付く。


「「「ははは!! なんだ!? 自ら食われに来たのか?」」」


 3つの頭が一斉にこちらに向かって来る。



『よし! 猫田! ヤツの首が1列になったぞ!!』



『秋菜殿に頂いたを使うでござる!!』


 インカムからウラ秋菜と猫田先生の声が聞こえる。


 遥か下の地面を見ると、土煙の中から、猫田先生が現れた。3つの首目掛けての真空波が放たれる。


 よし! 特大真空波がイアク・ザードの首元に直撃……。


「「「うおおおおっ!! 切られるかああああ!!」」」



 な……っ!?



 竜が叫ぶ。下から放たれた真空波を3つの首が受け止めていた。


『先輩!!』


『川が近くて良かったよ!!』



 イアク・ザードの頭上に目をやると、既にとんでもない大きさのが完成していた。



 ウラ秋菜の声で、イアク・ザードの頭上に浮かんでいる水柱が真下へと急降下する。


 3つの竜の首が、



「「「まだだ!! この程度で我らは切れん」」」



『ガキ! 外輪準!』



 みーちゃんが真空波、俺が水柱をする。



「「「うおおおっ!! 我は……っ!? 我ら、はぁ……っ!?」」



 しかし、イアク・ザードは耐えていた。それどころか水柱を押し返し始めていた。



『レイラ!!』



『待っていマシタよ! 最大出力デス!!』


 インカムからレイラさんの声が聞こえたと同時に、イアク・ザードの頭上から重力魔法が放たれる。


 轟音と共に、竜の体が地面へと押し付けられる。


 それは、竜の体が明らかにおかしい角度に曲がるほどの威力だった。



「「「うおおおお"おおおおあああああああああああ"ああああああああああああ!?」」」



 そして。



 3つの首が、胴体から切り離された。

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