地の文こわい。なのじゃ!

第129話 1/2

 この日、外輪準は何気ない1日を迎えようとしていた。しかし、そんな些細な幸せは、情報部部長、小宮茉莉こみやまつりによって砕かれることとなる。


「ねぇソトっち? 今日舞ちゃんが風邪引いちゃったみたいなの。代わりに取材行ってくれない?」


「いいぜ。どこの部活の取材だ?」


「文芸部だよ! よろしくぅ〜♪」


--ふあぁぁ〜。ウチも行ってやろうかのう。暇じゃし。


 こうして、外輪とカノガミは文芸部へと取材へ向かうこととなった。


 外輪は階段を降り、1階の廊下を歩いて行く。外ではサバゲー部が体育館で激しい戦闘を繰り広げていた。


 外輪は思う。なぜ彼らはいつも暑い中走り回っているのだろうと。何が彼らを熱くさせているのだろうかと。アウトドアな趣味を持たない自分には分からない。


「なぁカノガミ」


--どうしたのじゃ?


「俺らってさ。3だったことあったっけ? いつもより若干地の文がクドい気がするんだけど」


--何をメタ的なことを言っとるのじゃ?


「い、いや……ちょっと気になって」


 外輪は辺りを見回すが何もいない。当然だ。彼らが気付くことは無い。


--オヌシ。そんな所で何をやっておるのじゃ?



 !?



 ど、動揺してはいけない。


 カノガミは、なぜか1点を見つめる。一体そこに何があるのだろうか? しかし、外輪は思い直す。そうだ。今までカノガミは訳の分からないことをやって来たのだから、今回だって同じだろう。


--なんじゃ失礼なヤツじゃなオヌシ!



 !?



「どうしたんだよカノガミ? 何も無い所に話しかけて」


--じゃぞ。31じゃ。誰かがウチらのことを覗いておる。


 ま、まさか私の存在が見つかるなんて……。


--ホレホレッ! やっぱり誰かが喋っておるのじゃ!


「ん? んん〜? 確かになんか聞こえるような……」


 そんな。この能力は誰にも知られていないはず。


「今度はハッキリ聞こえたぜ! 隠れてないで出て来いよ!」


 ……仕方ない。出て行くしかないか。


「うぉ!? 何も無い空間から女子が出て来た!?」


 出て来たのは華奢な体格の女子だった。切れ長の目に細く整った眉。その美しく整った容姿に外輪は思わず息を呑んだ。 


「いや、呑んでねぇから」


--自分の容姿に自信ありすぎじゃろ。


「こんにちは」


--オヌシ誰じゃ?


「……」


--無視か!?


「あ、もしかしてこの状態だと、可視化してないカノガミの声は聞こえ無いんじゃねぇか? この子」


--便利なのか不便なのか分からんのぉ〜。ふんッ!


「あ、出て来た」


 カノガミは可視化し、少女の目の前に姿を現した。


「これでウチの声が聞こえるかの?」


「聞こえる」


「……」

「……」

「……」


「なんか言えよ!」


「ごめん。地の文じゃないと。上手く話せない」


「じゃ、じゃあ戻って良いのじゃ」


 少女が手を伸ばす。そして両手をカーテンを開くように動かすと、外輪達の目の前の空間が大きく歪み、裂け目のような物が現れた。少女がその中に入って行く。


「あ、また消えてくぞ……」


 少女が裂け目に完全に入ってしまう。すると、2人の目の前からは、再び誰もいなくなった。


 私は2年の路野文香じのふみか。文芸部の部長。親しみを込めて『ジノちゃん』と呼んで。


「この子が文芸部の部長?」


「どういう仕組みで消えておるのじゃ?」


 外輪とカノガミは腕を組んで考え出す。しかし、2人とも全く分からないというような顔をしていた。


 廊下からは武士道研究会のメンバー達の声が聞こえる。昨日から部長の直江君が武士道強化週間と称して部の活動に筋トレを取り入れたからだ。しかし、これによって他の部員の反発を呼ぶこととなり、部活存続の危機へと発展し……。


「待った待った!」


「全然関係無い地の文入れるんじゃないのじゃ! 話進まなくなるじゃろ!」


 そうだった。つい。


「つい。じゃないじゃろぉ!?」


「なんで消えられるんだよ?」


 なぜ消えられるかって? それはね。私が行間に入り込む能力に目覚めたからだよ。


「「行間に入り込む?」」


 そう。この世界の次元の避け目みたいなものだと思う。


「ジノはなぜそんなことができるようになったのじゃ?」


 あれは数ヶ月前……。私が武士道研究会の直江君をストーキングしていた時のこと。


す、ストーキングってあの日私は直江君の入った本屋に入り


元からヤバイヤツじゃったのかの…… 彼の様子を小一時間ほど観察していた。その日、彼が買った本はるろうに剣○で……


俺らの台詞にも入り込んで来てるぞ!?直江君は店を出て噴水の所まで歩いて行って振り返った


ちょ、ちょっと止まるのじゃ!焦った私は逃げようとして、赤い光を目撃した。


めちゃくちゃ聞き取りにくいじゃねぇか!その赤い光の中にいた……が私を覚醒させてくれたの


 それからこの能力が使えるようになったんだよ。


「ま、まぁ分かってはいたけど、赤い光の影響って……俺らのせいか」


「ラセンリープの影響ヤバすぎじゃろ」


 外輪準は後悔していた。ラセンリープという名前……。少し厨二病が過ぎたかもしれない。これからの人生、この厨二病ネームと向き合って生きなければならないという事実に直面し大きく肩を落とした。


「勝手に俺の内心を決めるんじゃねぇぇぇ!?」


「他にはどんなことができるのじゃ?」


 私ができるのは行間を移動したり地の文を進行させること、それと


「秘密の能力?」


「なんじゃそれは?」


 次の話で少し見せてあげるよ。


「次の話って……」


「メタじゃのぉ〜メタメタじゃ」


 あぁ。あと行間移動の延長で、を見て来ることもできる。


「他の話?」


「メタすぎて分からんのじゃ……」



 ちょっと待ってて。



 ……。



「あれ? ジノちゃんの声がしなくなった?」


「どこか行ったのかの?」



 ……。



 お待たせ。59話に行ってきた。



「「59話?」」



「59話って何をしておったっけ?」

「話数で言われても分かんねぇよ」


 君達2人が情報部の部室でファーストキスしている所を……。


「やめろよぉぉぉぉ!?」


「見ていいことと悪いことがあるじゃろぉぉぉ!?」


 外輪は思った。


 このまま部活の取材なんてできるのか……と。


「いや、ジノちゃんが言うなよ……」

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