第130話 2/2
前回までのあらすじ。
突如地球に出現した時空間移動用二足歩行戦闘機械「バルディア弐型」に誤って乗り込んでしまったカノガミは、時空転移装置を起動して別時空へと跳躍してしまう。行方不明となったカノガミを救う為、外輪準は本来のバルディアパイロットであるクシアと共に別時空へと跳躍したのだった--。
「嘘吐くんじゃねええぇぇぇ!?」
「クシアって誰じゃああああ!?」
違うの? 残念。
「残念ってなんだよ!? 早く部活紹介用の取材させろよ!」
部活の説明? 私達の部活は創作活動を主として活動してるよ。
「
「だから俺らの台詞に被せて来るのやめろよ聞き辛いんだから!」
ごめんごめん。つい。基本的にはそんな感じかな。月1回の機関紙発行。これに部員のみんなが短編を載せたり、連載してたりするよ。
外輪はメモ帳を取り出すと、路野から聞いた活動内容を書き込んでいった。その後、15分ほど詳細の聞き取りを行った後、外輪は口を開いた。
「あと、創作にあたっての心構えとかあるか? 部活アピールポイントとして新聞に載せるからさ」
何を置いてもまずは観察が必要。書きたいテーマや舞台は現実の観察から生まれる物だから。
「観察か……」
外輪がメモを追加して行く。
そう観察。作品にはモデルが必要。今作ってる私の作品で主人公のモデルは私。相手役のモデルは直江君。彼の心の奥底に閉じ込められた悩み、苦しみ、性癖。そういった物を主人公である私の元に曝け出させたい。そして、徹底的に正論という言葉の刃を突き立て人格を矯正するの。彼の人格の甘ったれた子供の部分を物語の進行と共に叱咤し、正論をぶつけ、優しく包み込み、最終的に私に依存させる。そうすることで2人の関係は完成する。彼は私無しじゃ廃人同様になって……という所で物語はエンディングを迎える。その物語を完成させる為に私は全てを観察するんだよ。この能力を使って。
「こ、コヤツ……変態じゃ!?」
「え? ジノちゃんは直江のことが好きなのか?」
私は自分の作品を完成させる為だったら誰でも好きになれるよ。
「恐ろしいヤツじゃの……」
と、まぁ私の創作論はこんなところ。
「聞こえて来る単語がヤバすぎる物ばっかなんだけど……」
外輪は路野の語る創作論……今、直江君へと向けられている愛を聞いて思い出した。カノガミとの熱い一夜を。あの時の吐息、温もり、感触。まさか自分が欲求に駆られてあのようなことをするなんて夢にも思わなかった。それほどまでに、昨晩のカノガミは魅力的で……。
「勝手に何言ってんだよ!? 俺は何もしてねぇから!?」
「そ、そんなことがあったのかの? つ、ついにウチとジュンはそんな関係に……?」
「やめろぉぉ!? お前まで乗ったら収拾つかないからああああぁぁぁ!?」
ごめんごめん。つい。
「つい。じゃねえええぇぇぇ!」
ところで、取材はこれで大丈夫?
「あ、あぁ……これでなんとか部活紹介記事にはできると思うぜ」
だったら私からカノガミさんにお願いがあるんだけど。
「お願い? なんじゃ?」
キャッチコピーとあらすじを作らないといけないの。
「キャッチコピー? あらすじ? なんの?」
それは秘密。部活動とは別に私がやらなきゃいけない仕事なんだ。
「それでウチはどうすれば良いのじゃ?」
カノガミさん。自分の自己紹介するならなんて言う?
「自己紹介? そんなの決まっておるじゃろ」
「なんだよ?」
「超絶有能美女カノガミサマじゃ!」
「おま……超絶有能美女って……」
「ん? 変なこと言ったかの? その通りじゃろ?」
いいね。すごくいいよ。
「そうじゃろ〜」
「お前の自己肯定感の高さには恐れ入ったよ……」
後は……貴方達の出会いをまとめると、3話は必要になるね。4話も重要だけどそこまでは読者のハードルが高いから。
「何ブツブツ言ってんだよジノちゃん」
カノガミさん。この内容を引き止める感じにするならどうする?
空間の隙間からメモ帳が出て来る。カノガミはそこに書かれた内容をしげしげと見つめた。
「え、引き止めるって……」
はい。3秒で答えて。
「え!? ちょ、ちょっと待つのじゃ!?」
3、2、1……。
カノガミが先ほどのメモ帳の文面を要約し、路野へと伝える。3秒で考えろと言われた内容は、彼女の必死さが滲み出た物となった。
……。
「これで良いのか?」
いい感じ。ちょっとカノガミさん。このメモの内容を叫んでくれない?
再び空間が裂け、カノガミは切り取られたメモ用紙を渡された。そこには33文字のキャッチコピーと92文字のあらすじが書かれていた。
「なんで叫ばないといかんのじゃ?」
そうしないと人目につかないから。
「全然言ってる意味が分からねぇ……」
それでは……どうぞ。
カノガミは息を大きく吸うと力の限り叫んだ。
「待つんじゃ!スワイプせんでくれ!!せめて3話まで見ておくれえぇぇ!」
「スワイプってなんだ?」
気にしないで。窓を閉じることだよ。
「窓を閉じることをスワイプと言うのか。勉強になったの〜」
「いや、そんなの聞いたこと無いんだけど……」
お、カノガミさんが叫んでくれたおかげで、いい感じに人が集まって来たね。
「え? どこに……?」
「どこにもおらんじゃろ」
じゃ、次。私の秘密の能力を使ってあげる。今だけ見えるようにするよ。そこに人がいるでしょ?
カノガミ達の周りに無数の窓が現れる。それは、手のひらサイズの縦長がほとんどを占めていたが、稀に横長の大きな窓があった。その中には私服の者、背広を着た者、作業服を来た者、子供を寝かしつけている者、自分達と同じような学生達……様々な人がこちら側を覗いていた。
「うぉ!? ホントじゃ!? そこら中の窓みたいな所からウチらを見ておるのじゃ!?」
「怖えぇぇ……」
外輪。そんなこと言っちゃダメだよ。
「わ、悪かったよ。よく分からねぇけど……」
はい。じゃあカノガミさん。今度はそこの人達の目を見てちゃんと伝えてね。
「誰に向かって言えばいいのじゃ? 男も女もちょっと見ては窓を閉じてしまうのじゃ」
その人達を引き止める感じでお願い。
「こっちの窓は開いたままだけど? この人達には言わなくていいのか?」
その人達は見に来てくれてる優しい人達だから大丈夫。
「どういうことだよ……」
それでは。はい。どうぞ。
「そこのオヌシ!ウチと目があったな?どうじゃ?この超絶有能美女カノガミサマとキャッキャウフフな学園生活をエンジョイしてみんか?待て!3話から本気出すからスワイプせんでくれえええぇぇぇ!!」
カノガミは窓から覗く人々を引き止めようと必死に訴えた。それを見たある者は残り、ある者は窓を閉じて次の世界へと向かう。
ああ無情かな。この世にどれほど世界があろうとも、人目に付かなければ観測されることは無いのだ。
私の役目はそんな観測者達を引き止めること。カノガミと共に作ったこのキャッチコピーとあらすじが、少しでも観測者達の心を掴むことを切に願う。
「いや、ホントどういうことだよ……」
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