学校に行くのじゃ!

第5話 1/2

 寝たまま放置したら離れるかと思ったが、カノガミはいつの間にか起きていた。今はボヤッとした光の玉みたいな状態でフワフワと飛んで着いてきている。なんだよコイツ。ゼル○のナビィかよ。


 本人曰く「ずっと実体化するのはめんどいから嫌じゃ。その為の光球態じゃ♡」とのことらしい。



 --なぁなぁ。タイムリープしよ♡ 一緒に素敵な思い出作っちゃお♡


「タイムリープって思い出消す方の行為だろ!」


 登校中の生徒が一斉に俺のことを見てくる。


 しまった。心の中で会話するのって難しい。反射的に声に出してしまう。カノガミの声は聞こえないのに不公平じゃんか。


 --お、あの服可愛いぞ!


 それにしても、これからどうしよう。こんな悪霊に取り憑かれて思考ジャックされるのも辛いなぁ。


--だれが悪霊じゃあっ!!


 お前だよお前!!


 はぁ。授業中やテスト中もこの様子だと俺の成績めちゃくちゃ下がるぞ……。


 まずは能力を封印しないとな。こんな力に溺れちまったらあっという間に寿命無くなりそう。


 まぁでも、1日や2日なんて誤差と言えば誤差だよな? 俺、まだ14歳だし……。


 いや! ダメだ!


 自分の為に使い始めたら人間的にも、おかしくなっちゃうぞ絶対。


--大丈夫じゃ!! ウチがうま〜くコントロールしてやるから。安心して寿命を差し出すのじゃ♡


「それマジ怖いよ!? ♡付けて親近感出そうとしてるかもしれないけど、失敗してるからね!?」



「ナンダトテメー!? 『♡』ナメテンノカアァン!?」


 どこから現れたのか、突然ヤンキーに絡まれた。


 ブチギレすぎてて何言ってるか分かんない! ♡? ♡って言った? このヤンキー!?


「え、え、何ですか?」


「サトル君ハ、ダソウトドリョクシンテンダゾ!? ナメテットマジブチ○スカンナ!!」


「よせ、俺が話す」


 絡んで来たヤンキーの後ろから身長190cmは超えるであろうリーゼントの男が前に出てくる。


 このリーゼントヤンキーがサトル君?


「お前はこれに親近感を抱かないか?」



 リーゼントヤンキーサトルの筋肉が盛り上がる!!


 リーゼントヤンキーサトルの筋肉が学ランを引きちぎる!?



 学ランの下には1枚のピンクTシャツ。



 そして中央に大きな「♡」のプリント。



「俺は生まれてこの方、このガタイと顔のせいで周りから距離を取られて生きてきた。孤独だった……強く、不良として生きるしかなかったのだ」


 ……確かに。本人が言うようにリーゼントヤンキーサトルは強面だ。見ただけで分かる。その迫力はエグい。俺もさっきから心臓がバクバク鳴ってる。


「しかし、告白した時、相手の女子が教えてくれたのだ『私はもっと親近感がある人が好きかな?』と……」


 それはやんわり断られただけなのでは……?


「だから親近感の湧く服を着るようにしているんだ! 見ろこの♡を!?」


 リーゼントヤンキーサトルが両手を頭に当て、胸の♡マークを強調する。


「可愛いだろおおぉぉ!?」

 --ふははははは! センス最悪じゃ!


 人間化したカノガミが爆笑しながらリーゼントヤンキーサトルの周りを飛び跳ねる。しかもなぜか


 カノガミのヤツ……俺が命の危機に瀕している時にふざけやがって!?


「なんだよその服!(でヤンキーと絡むとか)ふざけてんのか!」


「なん……だと……このTシャツ5000円もしたんだぞ!!」

 --だって婦警さん可愛かったんじゃもん。


「可愛いからって時と場所を考えろよ!? ここはコスプレ会場じゃねぇんだぞ!」


「!?」


 リーゼントヤンキーサトルの目から一筋の涙がこぼれ落ちる。


 あ……しまった!! カノガミに意識が向き過ぎてリーゼントヤンキーサトルに言ったみたいになってた!?


「アァッ!? テメーサトル君ナカストカマジブッコ○ス!?」


 取り巻きヤンキーが拳を振り上げる。


 ひいぃぃ!? ○される!?


--ジュン。タイムリープじゃ!タイムリープするんじゃ!!


 いやだあああああぁぁぁ!! どっちにしても寿命縮むだろこれぇぇぇ!?


「待て」


 リーゼントヤンキーサトルが取り巻きヤンキーを止める。


「この男は俺の過ちを教えてくれた。服などでは親近感は得られん。真にそれを手に入れたければ、まずは普段の行動を改めろ。そう言いたいのだな?」


「え? あ、はい、そうです、多分」


「お前、名は?」


「そ、外輪準……」


「外輪か……感謝する。その名、覚えておこう」


 え、覚えられてしまって良かったのか?


「よし! 俺は真に皆に好かれる人間に生まれ変わるぞ!!」


「ソ"ン"ケ"ース"ル"ヨ"!サ"ト"ル"ク"ン"ッッ」


 ヤンキー二人はしっかりと抱き合い、ひとしきり涙を流した後、スッキリとした顔で去っていった。



 --アイツら何じゃったんじゃ?



「ほとんどお前のせいだからな」

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