第42話 2/3
コイツには人間に対する悪意しかない。取ってつけたような喜怒哀楽で飾ってはいるけど、その中身は……悲しみと憎しみがドロドロに混ざってる。
コイツはすぐに他人の人生をめちゃくちゃにしようとする。理由をつけて相手の大切な物を奪おうとする。
「ね。ここならロマンチックじゃない? きっとそうだよ! ここでしようよ!」
彼ノがみが腕を絡めてきた。でも、全然ドキドキしたりしない。分かってるからだ。コイツは俺を弄んで笑ってるだけだって。
「あ! でもあそこの親子邪魔だなぁ〜。子供だけリープさせちゃおうかな。3歳かな? 3年前にしようかな? そしたらさ、あの母親どんな顔するんだろうね?」
「やめろ」
「もぅ〜。準ってばずっと仏頂面じゃん。見たくない? きっと楽しいよ!」
「俺は楽しくない」
カノガミはそんなことしなかった。みーちゃんだって……比良坂さんが悲しまないよう気にしていたと思う。でもコイツは……。
「お前は、何なんだよ? なんで人を悲しませて楽しんでるんだ……?」
「えぇ〜? そんなの決まってるじゃん! ちょっと耳貸して」
彼ノがみが耳に口をよせてくる。彼ノがみの呼吸がうっすらと聞こえる。
「お前達が『チヨ』を殺したからだよ」
その声があまりに冷たいことに驚き、彼ノがみから離れた。
「ううぅぅ……私は……『チヨ』が幸せなだけで良かったのにぃぃぃ」
彼ノがみが泣き始める。
「そ。だから。私は何をしても許されるの♪
お前達から何を奪っても許されるの♪」
彼ノがみは今度は満面の笑みになり、急に顔を近づけて来る。
「でもね? 準だけは許してあげるよ? なぜだか分からないけど、準を見ると私はドキドキするの」
真っ黒の瞳で俺の瞳を覗き込む。
「きっと準が特別だからだよ! 他のヤツらと違うからだよ。私と同じ! 他のヤツらがしないような辛いことを味わって、他のヤツらよりかわいそうだから!」
「だからね? 準は、私をいっぱい慰めて? 『チヨ』を無くしたかわいそうな私をいっぱい慰めて? だからさ、周りのことなんて気にして止めなくていいんだよ? 私と一緒に指を刺して笑おうよ」
彼ノがみが柔らかそうな唇を近づけてくる。
「分かるよね? 親を亡くしたかわいそうな準だったら。だからね。ほら、私の目を見て言ってみて。『俺はお前のことを愛してる』って。ほら」
彼ノがみの顔がすぐ目の前にある。俺にとって……な人の面影のある女が目の前に。
そいつはその顔で、声で、俺の心を揺さぶろうとしてくる。頬を赤らめ、まるで恋する乙女のような表情で……。
「俺は」
「うん」
「お前のこと」
「うんうん」
「……」
「どうしたの?」
「大っ嫌いじゃあああああああああああああぁぁぁぁ!!」
彼ノがみの頬を引っ叩いた。
「痛ったああああああああああああい!!」
彼ノがみが空をつんざくような悲鳴をあげる。
「あぁぁぁムカつく!! なんか分からんがムカつくっ!! 何がかわいそうな私じゃいっ!! 4話も使って胸糞展開しやがってこのクソガミがっ!!」
「ウザッ!! 何アンタ!? 私がせっかく気持ち良くなってたのに!!」
「あーーー聞いちゃった!! コイツ今自分が不幸に酔ってるって言っちゃったぁぁ!! みなさぁーーん!! ココに不幸に酔ってる中2女子がいますよおおおお!!」
「やめろよ!! クソ人間!! 私の威厳が無くなるだろこの野郎っ!!」
「何が威厳だ! テメェに言われたかねぇんだよ!! おこがましいとか言いやがって!! 早くラセンリープさせやがれええ!!」
「あーーー!! 出たよ!! 中2病全開ネーミングセンス!! ラセンループって何よ!! ほんっと男って進歩しないわねぇーーー!!」
「ラセンループじゃありませーーーん!! ラセンリープですうぅぅぅ!! 言い間違えてやんのおおおおぉぉぉ!! カミサマのくせにいいいぃぃぃ!!」
「はあぁ!? 言い間違えてないですぅ!! ちゃんとラセンリープって言いましたあああぁぁ!?」
「ウソつかないで下さーーーーい!!」
「ウソじゃないですぅぅぅ!! 私がいつ言いましたかぁ!? 何時何分何秒地球が何回回った時ですかぁぁぁ!?」
「そう言って誤魔化して本当はラセンリープできねぇんじゃねぇのかぁ!? できねーーからやらねーんだよなぁーー!?」
「はぁ!? できますぅ!! やりゃあいいんでしょやりゃぁ!! はーい! 今からラセンリープやりまーーす! 行きたい時と場所を願って下さーーい!!」
赤い光に包まれる。
俺達はラセンリープした。
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