第43話 3/3

 赤い光を抜けると、見覚えのある広場に到着した。あの日、みんなが消えた場所だった。


「ああああーームカつくっ!!ムカつくわぁ!! ブチ○してやろっかなぁコイツ!!」


「ハァ!? やってみろよクソガミが!? どうせテメーじゃできねーよなぁ!?」


「あーー!! いいんですかぁ!? ホントにいいんですかぁ!? 後悔しても遅いでーーす!! じゃあやっちゃいまーーーす!!」


「やってみろよおらあぁぁ!?」


 彼ノがみが俺に手をかざす。


「しね♡」


「……」

「……」


「できねぇぇぇぇっ!? 何なのアンタ!? なんかやってんでしょ!?」


「残念だったなあああぁぁぁ! オメーん中にいるカノガミは俺の仲間なんだわっ!! だから俺は消せませーーーん!!」


「はあああああぁぁぁ!? 何それ意味分かんないですけど!?」


「俺の息止めきれなかったよなぁ!? 俺の言うこと聞くしかなかったよなぁぁぁ!? 全部俺のカノガミのおかげなんですぅぅう!!」


「クソがああぁぁ!?」


 彼ノがみが悔しそうに地団駄を踏んだ。





「ソトッち?」



 懐かしい声に呼びかけられる。振り返ると小宮がいた。その隣に犬山。夏樹、秋菜ちゃんに比良坂さんも……。


「みんな……」


「その子誰!? なんで急に光って出て来たの!? なんで喧嘩してんの!?」


 小宮がスクエア型のメガネを光らせた。


「いや、これは、その……」



「準」



 ノがみに名前を呼ばれた。


 彼ノがみは……妙にサッパリした顔をしていた。悪意をばら撒いていた時の嫌な感じが無くなっている気がする。


「ちょっとの辛抱だから大人しくしてなよ」


 彼ノがみがそう言った直後、急激な眩暈に襲われた


「何だよこれ……」


「世界の融合ね」


「き、気持ち悪い……」


「え!? 吐くなよこんな所で!?」


 彼ノがみが慌てて俺の背中を摩る。


 しばらく座り込んでいると、やっと目眩が治まった。


「無事融合したみたい。別れかけてた世界を無理やり戻すなんて無茶苦茶させるわー」


「お前だって滅茶苦茶してただろ」


「ウザっ」


「嫌がらせに何回だって言ってやる」


 彼ノがみは心底嫌そうな顔をした。



「それで? 準の願いは叶ったわけだけど? これからどうすんの?」



「カノガミも返して欲しい」



「カノガミぃ? ホントよく分かんないけど、私が消えなきゃいけないんでしょ?」


「ま、そうなるな」


「はぁ……アンタそれを言って私がOKすると思う?」


「わかんねー。でも、頼むよ」


「こんな神レベルのいい女引っ叩いた上に消そうなんて、後悔しても遅いよ?」


「後悔するかもしんねーけど、俺には大事なことなんだ」


「……バカな人間には参るわぁ」


 彼ノがみが大袈裟に肩を落とす。


 喧嘩をしている時、彼ノがみに嫌な感じはしなかったな。普通の、年相応の女の子みたいだった。


 あれが本当の彼ノがみだったのかも。


「まぁ〜いいや。なんか、ゴッコのつもりだったのにマジで拒絶されて? バカみたいな理由でラセンリープしてぇ? なんか疲れちゃったしぃ。またしばらく寝まーす。私」


 彼ノがみが背を向けた。


「彼ノがみ」


「何か?」


 彼ノがみが横目で俺を見る。


「俺は……親が死んで、死ぬほど落ち込んだけど……まぁ、なんつーか、こんな感じだ」


「ふふ。何それバカみたい」


 彼ノがみが笑う。今日1日浮かべていた演技めいた笑みじゃない。普通の微笑み。なんだか、そんな表情を浮かべてる姿はちょっと可愛いなと思った。


「バカでもさ。俺は生きてるし」


「そ。私もなんか……色々バカらしくなっちゃった」


 彼ノがみは遠くを見つめた。でも、悲しみの籠った顔じゃない。昔を懐かしむような……そんな顔。


「じゃあね」


 彼ノがみは右手で挨拶すると、そのまま消えた。


 彼ノがみ……チヨさんが亡くなって、どうしようもないまま封印されて、自暴自棄になっていたのかな。




「お、おい! 消えたぞ外輪!」


夏樹が驚く。


「俺は今、見てはいけないものを見てしまった……」


 犬山の思考が止まる。


「スクープスクープ! カメラどこしまったっけ!?」

 

 小宮が騒ぐ。


 いつも通りだ。


 いつもの日々だ。


「外輪君……ありがとう。みんなを助けてくれて……」


「比良坂さんは大丈夫?」


「うん。気が付いたらみんながいて……ごめんなさい。外輪君達ばっかりに大変な思いさせてしまって」


「そんな。俺は全然……」


 ん? 外輪君


「も、もしかして……比良坂さん、何か見えてた?」


「え? うん。女の人がいつも一緒だったよね? 電柱から落ちた時も助けてもらってたし、保健室に来た時、みーちゃんみたいな人なのかな? って思ってたけど」


「ソウダッタンダ……ハハハ」


 ま、まじかよおおおおぉぉぉ!? ずっと見えてたの?


「仲が良いんだね。うらやましいな」


「ねぇ舞ちゃーん! 初日に撮った写真見ようよー」


「う、うん!」


 小宮達に呼ばれて比良坂さんはみんなの輪の中へ入っていった。




 ……。



 どこだ?



 彼ノがみは消えたのに、アイツが戻ってこない。



 アイツの明るい声が聞こえない。



 辺りを見回しても、どこにもいない。



 バカで空気が読めなくて、メシは滅多に作らねーし、マンガばっか読むし、俺のゲームのセーブ勝手に消しちゃうし……いっつもトラブルばっか起こすヤツ。


 でも、一緒にいると楽しい。



 俺の……。



 カノガミ……。


 

 会いたいよ。



「ジューーーーーーン!!!」



 カノガミの声!?



  どこだ!?



「上じゃあああああああ!?」


「うわあああああああっ!?」


 カノガミが空から降って来た。


「会いたかったぞ!! 会いたかったぞおおお!!」


「ちょっと!? くっつくなよ!!」



「……お兄ちゃん」



 いつの間にかみーちゃんも立っていた。



「ジュ、ジュン!! みーちゃんはもう大丈夫じゃ! 敵じゃない」


「わ、私……」


 みーちゃんが黒いワンピースの裾を掴んで涙ぐむ。


「みーちゃん」


「な、何?」


「比良坂さん、どんな顔してる?」


 みんなと話している比良坂さんに目をやった。


「笑ってる……」


「そうだよ。だから、大丈夫」


「うん」


 みーちゃんはポロポロと涙を流した。



「おーい外輪……おい!? おま、なんで美女とイチャついてんだよっ!? しかも何幼女を泣かせてんだよコイツ……!?」


「え"」


 カ、カノガミ……? みんなに見えてるぞお前!? みーちゃんも……?


--あ、力が均等になって他の者にも見えるようになったみたいじゃの♡ 思わず可視化してしもうた♡


「してしもうた♡ じゃねえええええぇぇぇ!!」


「クソぅ……外輪のヤツぅ……なんと羨ましい……」


 夏樹が涙を流しながら訴えてきた。


「ほう……私のはすぐに泣くようだ……芦屋家に相応しいよう、教育せねばならんな」


「え? 秋菜……? なんでお前そんな怖い顔してんの……?」


「あ、芦屋秋菜!? なんで!?」


--あ、世界が融合されて秋菜が二重人格化してしもうたみたいじゃ♡



「おいいいいいぃぃぃ!? 何やってんだよぉぉぉぉ!?」




◇◇◇


逢着編 完だよ。




 これで、この物語も一区切り。



 だけど……。



 もし、まだ外輪とカノガミさんの続きが見たいのなら……。



平生へいぜい編へ進んで。



 ……。



 どれだけ探しても見つからない……。



 どこにんだろう?



 ねぇ。そこの人。観測者さん。



 初めまして。それとも16話ぶりかな?



 探しものをしているの。



 見なかった?



 いないかな……次の章に探しに行こう。




 またね。

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