ラセンリープ!なのじゃ!

第41話 1/3

 ノがみを連れて思い付く限りのデートスポットを回ることにした。今の時点では喜んでいるように見えるけど、上手くいっているのだろうか?


「ねぇ〜私お腹空いたー」


 マジかコイツ。金は……持ってる訳無いよな……。カノガミみたいにめっちゃ食うのかな。下手な所入ったらえらい事になるぞ。


 悩んだ挙げ句、ハンバーガーショップに入った。


「お前、奢ってやるけど、絶対他の人に迷惑かけるなよ!」


「分かってるって。安心しなよ」


 彼ノがみが満面の笑みで答える。


 頼む……頼むから何事もなく店を出させてくれ。


 心の中で祈った。




「ど・れ・に・し・よ・う・か・な♪」


 レジ上に貼られたメニューを彼ノがみが指差していく。


「やっぱり初めてだしチーズバーガーにしようかな♪」


 ほっ……良かった。チーズバーガーならセットでもなんとかなるな。


 彼ノがみが注文させろとうるさいので、彼女がレジで注文することになった。


「店員さーん。注文いいですかぁ? ポテトとコーラとチーズバーガー。あ、チーズバーガーは20下さい」


 は?


「に、20個ですか……?」


 店員さんが笑顔のまま凍りつく。


「はい♪ 20個よろしくぅ〜」


「おい! お前、20個も頼むなんて言ってなかっただろ!?」


「え〜? でも準の財布には5625円入ってるよね? 払えるでしょ?」


「なんで知ってるんだよ!」


「さっき過去覗いた時に財布の中身見てるシーンあったし〜」


 う……あの時か。


「ちゃんと準の予算も考えてあげてるから安心しなよ〜。デキル彼女でしょ?」


 それって持ってる金全部吸い取られるってことでは……?




「2862円になります」



 残り2763円。あぁ……生活費も込みなのに……。



 それにしても……。



 注文を通してから、厨房が殺気立ってる気がする。


「あのーお客様……。次から10個以上頼まれる際は事前にお電話か何か頂けますでしょうか……? あと、他のご注文もありますのでお待ち頂くことになるかと思います」


 店員さんがやんわりと注意してきた。確かに、中学生の2人組がそんな注文をしたらイタズラか何かと思うよな……。


「え〜? 待つの〜?」


「仕方ないだろ? お前が無茶な注文入れたんだから」


「待つの嫌っ! こうしちゃおっ!」


 彼のノがみが指を鳴らすと、厨房のクルーが目にも止まらぬ速さでハンバーガーを作っていく。


「また何かやったのか!?」


「えっとね〜厨房だけ時間の流れを速くしたの!」


 特定の空間だけ時間弄るとかありかよ……。


 1分も待たないうちにチーズバーガー20個は出来上がった。



◇◇◇


「お〜これは中々美味しいかも!」


 店内のテーブル席に陣取った彼ノがみが、すごい勢いでチーズバーガーを食べる。


「やっぱりめちゃくちゃ食うんだな」


「やっぱりって何〜? こんな華奢な子が大喰らいに見えるわけ?」


「いや、エネルギーすごく使うんだろ?」


「よく分かってるねぇ。前からの知り合いみたい♪」


 知り合いなんだけどな。お前の片割れとは。


「そんなに食うって、チヨさんの時は大丈夫だったのかよ?」


「え? チヨ……?」


 彼ノがみがどんどん涙目になっていく。


「チヨォ……」


 あ、やべ……。


「うえぇぇぇぇん!!」


 彼ノがみが大泣きする。元々ハンバーガー20個で注目を浴びていた俺達の席は、更なる視線を集めることになった。


「おいそんな泣くなって。みんな見てるからさ、な?」


「はぁ? 何コイツら私のこと見てる訳?」


 彼ノがみの表情が変わる。泣き顔から冷たい顔へ。一瞬で気分まで変わったみたいだ。

 

「見んなよ。お前ら」


 彼ノがみがそう言うと、周囲の人達は


「おい! 迷惑かけないって約束したろ!?」


「だってぇ〜。? コイツらみんなって分かってないのに」


「戻してくれよ……」


「え〜? なんで?」


「なんでって……この人達の家族が心配して……」


「そんなの準に関係ないじゃん。それに、私はそっちの方が楽しいし」


「楽しくないよ。本当にやめてくれ」


「まぁ? 


「頼む」


「分かったよ〜」


 彼ノがみがそう言うと、周囲の人達は元に戻った。


「ちなみに準はこんなこと思ってる?『チヨと彼ノがみってどんな関係なんだ?』って」


「ま、まぁな。そんなに毎回大泣きされれば気になるよ」


 彼ノがみは食べる手を止め、語り出した。


「チヨはね。私の母であり姉であり妹であり、親友なの。そんな存在を失った私はココにぽっかり穴が空いちゃった……」


 彼ノがみが芝居掛かった言い方をして胸を押さえる。


「それから、チヨをなんとか生き返らせたんだけど、失敗したの。チヨは優しい子だったからさ、生き返った後メンタルもたなかったんだよねぇ」


「チヨさんをもう一度失って、お前はどうしたんだよ?」


「どうしたって? 芦屋っていう一族に封印されたかな。私、村の他の奴らのことなんてどうでも良くなってたしぃ。ま、出来る限りの人間を道連れにしてやったけど」



 なんとなく分かった。言葉では平気そうにこう言っているけど……コイツは……。



。久しぶりに復活したらなんだか……落ち着かないっていうかぁ〜。こんな感じ? になってた」


 彼ノがみが最後のチーズバーガーに手を伸ばす。


「どう? 私もでしょ? だから、のほほんと生きてるヤツら見るとすっごくムカつくんだよ。すぐ準に止められちゃうけどねぇ」



 彼ノがみ……それは、違うよ……。


 俺だって昔は他人を羨んだりしたけど、みんな色々あるんだよ。俺達が知らないだけで……。



「あーお腹も満たされたし、次行こ次っ!」



 彼ノがみは再び笑顔になって俺の手を引いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る