第57話 4/5
辻斬り猫を呼び出す方法はかなり古典的だった。
猫が初めて現れたという寺に行き、試し切りしたというつり鐘に果し状を貼っておいたらすぐに来た。
場所は私と秋菜が2度目に戦った山を指定した。
「ここに来ると嫌な思い出が蘇るな」
秋菜が鉄製のランディングネットをもて遊びながら言う。
「……う。それを出されると私は何も言えないわ」
「冗談だ」
秋菜が笑った……気がした。
「お、来たぞ。猫が」
黒い影が物凄い速度で木の間を走り抜ける。
そして、私達の前で止まった。
毛の短い黒猫が背中に小さな刀を背負っている。刀の鞘にはしっかりとヒモが結んであった。
でも、4本足で立っている姿は背中の刀以外至って普通の猫に見える。
「おや? 果し状と書いてあったので、てっきり
黒猫はゆっくり2本足で立ち上がった。背負っていた刀を腰へと回す。
「ほ、ホント……聞いた通りのヤツ」
話には聞いていたけど、実際に目の前にするとやっぱり驚くわね……。
「見物で呼び出したのなら帰ってもよいか? 拙者は腕を磨くのに忙しい」
「辻斬りがか? ただの通り魔だな」
猫の表情が険しくなる。
「辻斬り……だと? 拙者を愚弄するでござるか?」
「まぁ落ち着けよ。私らは本当にお前に決闘を申し込んだんだ」
「か弱き女子2人でか? 猫とはいえヒトキリ丸を持つ拙者に決闘とは、丸刈りではすまんぞ? その網で拙者をどうこうできるかとは思えんが」
秋菜はネットを杖のように地面に刺した。
「か弱き女子ねぇ。じゃあさ。私ら2人がかりでも問題無いよな? 私らが勝ったら従ってもらう」
黒猫はため息をついた。
「仕方ない……恨むなよ?」
黒猫が抜刀の構えを取った。
「言ったな」
秋菜がネットを構える。
「行くぞおぉぉぉっ!!」
物凄いスピードで猫が秋菜の眼前へと迫る。抜刀された刀は秋菜の胴体へと一直線に向けられる。
「1秒!!」
秋菜は、叫ぶと同時にネットの持ち手で刀の刃先の向きを変え、しゃがみ込んだ。
猫の刀が空を切る。
「な!?」
驚いた猫が目線で秋菜を追う。
その目の前には秋菜のネットが迫っていた。
「うぉっ!?」
咄嗟に猫がネットを避ける。
「ちっ。外したか」
秋菜が舌打ちする。
猫は体を捻って着地し、再び刀で秋菜を狙う。
「1秒!!」
再び秋菜が叫ぶ。猫の刀が空を切る。返しで秋菜のネットが振られる。それを猫がギリギリで躱わす。
紙一重の避け合いが何度も続く。
「これは、どうだ!?」
猫がネットを鞘で受け止め、刀で切り返す。
「1……っぶねぇ!?」
秋菜が咄嗟に叫ぶことを止め、避けることに集中した。
「刃物振り回すなんてやっぱ反則だろ!?」
「武士相手に何を言っておる!! 拙者に決闘を申し出たのはお主であろう!」
黒猫が秋菜を押し始める。秋菜は叫ぶことができず、防戦一方となっていく。
「これで終わりだっ!!」
猫が秋菜を袈裟斬りにしようと刀を振った。
「1秒!!」
叫ぶと同時に秋菜が身を捻る。刀が秋菜の体ギリギリを通っていく。
秋菜が無防備になった猫にネットを振り下ろす。
「無駄だっ!」
猫が秋菜のネットを躱わそうとした瞬間。
「1秒!!」
秋菜が叫ぶとネットが軌道を変え、猫を捕らえた。
ネットは地面に叩きつけられ、猫が体勢を崩す。
「ガキ! 今だ! 止めろ!!」
「分かってるわよ!!」
右手を刀へと狙いを定め、刀の時を止めた。
「うぐぐ……油断した。だがこの程度の網など……ヒトキリ丸で」
猫が地面の刀を拾おうとした。
「刀が……重い!? 持ち上げられん!」
猫の目が見開かれる。
「重いんじゃない。固定されてんだよ。降参しな」
秋菜はネットの持ち手を踏み付けながら言った。
「秋菜が、私に手伝わせた理由……よく分かったわ」
「だろ? カノガミと外輪準じゃあこんな芸当はできないしな」
秋菜は……猫の刀が振られる瞬間、私に1秒間タイムリープさせた。
刀の軌道をギリギリまで把握し、私に秋菜をタイムリープさせる。そして、戻った意識でネットを操作し刀の軌道をずらした。
しかも……。
あの一瞬の中で、自分のネットの軌道を変えるという応用までやってのけた。
そう。秋菜は把握していた。
カノガミと力を分けたのに、私だけに残った特性。憑代以外の他人をタイムリープさせる能力。
みんなを……消した、力。
それを逆に利用してみせたのだ。
「罪滅ぼしとしてはうってつけだろ?」
秋菜はニヤリと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます