第72話 2/3

「なぁ〜いいじゃろ〜」


 カノガミがラミネートされたメニュー表を見ながらテーブルに突っ伏する。


 夏休みに入り、俺たちは白水を離れて街に来ていた。


 朝から店を見て回り、昼は商業ビル内のタコスの店に入った。カノガミがどうしても入りたいと言うから入ったけど……。


 これって……デートになるのかな?


「いやぁ、食わせてやりてぇけど……こ、これ高くね? 単品で1000円、セットで1350円 って……」


「じゃって『チーズ・メルトコア・ビーフ・ブリトー』じゃぞ!? 絶対美味いじゃろこんな名前のヤツ」


 タコスとブリトーって何が違うんだよ……。


「仕方ない。俺のへそくりから出すか……その代わり! 足りないとか言うなよ!?」


「好き!! ありがとうなのじゃ♡」


 カウンターで注文すると、すぐに何たらブリトーが出て来た。俺は1番安いセットで650円のタコスにした。


 あぁ……ゲーム買うために貯めていた小遣いが……。


「こ、これがチーズ・メルトコア……どんな味なのじゃ……」


 カノガミがゆっくり口に運ぶ。


「こ、これは……」


 瞳の輝きが増す。


「美味あああい!! なんじゃこれは!?」


 カノガミが猛烈な勢いで食べ進める。断面からチーズが溢れてきて危うく落としそうになっていた。


 なんだ。メルトコアって中でチーズが溶けてるってことかよ。ややこしい名前付けるなぁ。


「食うの早えなおい……」


「ジュン。すごいぞこれは……思わずパイルドライバーをキメたくなる美味さじゃ」


味翁あじおうさんの真似するなよ!?」


 あまりの騒がしさに思わずため息が出た。


 でも。


 笑顔のカノガミを見ていたらまぁいいかと思えた。


 前デートした時はそれどころじゃなかったしな。相手もカノガミとじゃなかったし。



 その時、店の奥で俺達とは別に騒いでる男女がいることに気付いた。



「師匠!? ちょっと頼みすぎじゃないですか!?」


「お前が奢ってくれると言ったんデスよ! 文句言うんじゃないデス!!」


 ウェーブのかかった髪に、デカイリュックを背負った男子と金髪碧眼の小柄な女性がカウンターで揉めていた。


「師匠が『この国の街を見たい』って言うから来たんじゃないですかぁ」


「だって私はこの国の通貨持って無いデスし。修行見てあげてるのだから、その対価デス」


「僕のお小遣いがぁ……」


 ウェーブ髪の男子が肩を落とした。



 ん?


 

 あの男子、どこかで見た気がする。


 ウェーブ髪がかなり伸びているけど……あれって……。


「ウジウジするんじゃありマセン!」


 女性が男子の両頬を引っ張った。


ひはひいたいっ!? はおかおはやめてぇ!?」


 男子の顔がハッキリと見える。


「あ!」


 蝶野ちょうの先輩だ!!


「どうしたのじゃ?」


「カ、カノガミ。あそこに蝶野先輩がいる」


「ん? ん〜? あ、ホントじゃ。しばらく学校で見ておらんかったのにの」


 カノガミと話していたら、向こうもこちらに気付いたようだった。


「き、君は……!?」



◇◇◇


 なぜかあの後、蝶野先輩に連れられて少し離れた公園へとやって来た。近くに高速道路が通る高架が渡っていて、車が走る音が反響していた。


「どうだい? ここなら人もいないし、うってつけだろ?」


「うってつけって……何がですか? 俺はただ『ついて来てくれ』とだけ言われただけなんですが……」


「決まってるだろ? 僕と君との再戦だよ」


「さ、再戦!?」

「再戦じゃと?」


「君に辱めを受けた後、僕は山にこもって修行していた。なのに君ときたら! そんな美女とイチャイチャしていたなんて……ゆ"る"せ"な"い"」


 蝶野先輩が涙を流しながら敵意を剥き出しにする。


「ちょ、ちょっと待って下さい! 俺は別にイチャイチャしてなんて……な、なぁカノガミ?」


「デート」


「は?」


「デートをしておったぞ♡」


「ちくしょおおおぉぉぉ!?」


 蝶野先輩の目付きがさらに鋭くなる。


「ま、待って! 先輩だって美人の女性と一緒にいるじゃないですか!?」


「何を言っている……こちらは僕の師匠だ。そんな関係ではない。それに、こんな暴力的な女性はこちらから願い下げ……いてっ!?」


 先輩が「師匠」と呼ばれた女性にチョップされていた。


「調子に乗るんじゃないデスよ。私はお前などに選ばれたいわけではないデスが……そのような言い草は非常にa@jt@/&g的デス」


「す、すみません師匠!!」


 蝶野先輩が土下座する。というかあの人今なんて言ったの? 全く聞き取れなかったんだけど……。


「ど、どうしよう……」

「案ずるなジュン。ウチが守ってやるのじゃ」


 蝶野先輩達が視線を逸らした隙にカノガミは


--これで力を使っても問題無いじゃろ。


「おい女」


 急に、師匠と呼ばれる女性に話しかけられる。


 姿


「これは私の弟子とその宿敵との決闘デス。邪魔立ては許さんデス」


 女性がそう言った途端、カノガミが地面に叩きつけられた。


--ウギャッ!?


「お、おい。大丈夫か!?」


--なんじゃあ……? 体がめちゃくちゃ重いのじゃ……。


 女が手のひらを動かしながら何かを呟いた。


「うむむ。なぜかが弱まっていマス。国によって異なるのデスかね?」


 ちから? 何言ってるんだ? あの人。


「ほら、よそ見していていいのかい?」


 そう言うと、蝶野先輩は背負っていたリュックを乱暴に開いた。



 そこから出て来たのは……。

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