第73話 3/3

 蝶野ちょうの先輩がリュックから出したのは大量の500mlペットボトルだった。


「な、なんですか? そのペットボトルの山は……?」


「修行の為にね。いつも背負っているんだ。師匠の言い付けで」


 先輩はそう言うと、リュックを逆さにして全てのペットボトルを地面に落とした。


 何十本……いや、何百本ものペットボトルが地面に落ちる。一体何キロあるんだよこれ!?


「僕と師匠が出会ってからの数ヶ月……僕はこれを背負って生活や修行をしていた。最初はもう地獄だったよ」


 師匠……カノガミを押さえ付けている女性を見る。女性は一切表情を崩さずコチラを見守っていた。


 あの人、一体どういう人なんだ? 先輩の師匠というぐらいだから、あの人も超能力者なんだろうけど。



「僕はね。ずっと考えていたんだ。あの時、君がどうやってスプーンを浮かせていたのかをね」


 先輩が空になったリュックを投げ捨てて言う。


  あの時……調理実習室の時か。確か、カノガミがスプーンを持ち上げたからみんな驚いていたよな。あの時はみんなカノガミのことが見えなかったから。



「僕は知らなかったよ。この世には様々ながある。火、水、風、地、光、闇……」



 え? 何の話?



「そして、物を浮かせるというのは、に働きかけることだった……まさかあの時点の君が世界のコトワリを認識していたなんてね。僕が足元にも及ばないハズだ」



 え? ちのちから? 何それ?



 あれはカノガミが手に持って……。



「だが僕も強くなった」


 先輩がそう言った途端。



 数百本もあるペットボトルが



 空中に浮いたペットボトルが先輩の後ろで1列に並ぶ。


「ペットボトルとはいえ、当たるとケガをするぞ。君の本気、見せてくれ」



 先輩が手振ると、ペットボトルが一斉にコチラに向かって飛んで来た。



 あの数!? あの速度!? 絶対当たったらタダじゃ済まないだろ!?



「うああああああぁぁぁ!!」



 公園を全速力で走り回る。



「逃げるな!!」



「無理いぃぃぃ!? 先輩誤解してるよぉぉぉ!!」


 ペットボトルに追いかけられるのがこんなに恐ろしいなんて……。


 視界に入った複合遊具へと逃げ込んだ。その中でトンネルへと入る。


 なんだよあれ!? どういう理屈で飛んで来るんだよ!


「そんな所に逃げ込んでも無駄だ!」



 !?



 物凄い音と共に複合遊具の壁をペットボトルが突き抜ける。



 壁を貫通したペットボトルは、トンネルの反対側の壁に深々と突き刺さる。そして、物凄い勢いで中身が吹き出した。



「うわっぷ!? なんだよこれ!?」



 トンネル内はペットボトルの中身でビシャビシャに濡れていた。



「どうだ! ペットボトル内部を僕の力でしたペットボトルミサイルの威力は!!」



「先輩!! それもう中2病どころか小5の発想ですよ!!」



「相変わらずへらず口ばかり言うヤツだな君は!!」


 遊具の壁を無数のペットボトルが破壊していく。


 このまま隠れていてもジリ貧だ。カノガミにも頼れない……。



 どうする? どうしよう!?



「ホラホラさっさと出てこないと遊具ごと潰されるぞ!」


「先輩! 誤解なんですよ! 俺は力なんて持ってない!」


「君はそうやってまた僕を馬鹿にするのか!! 僕は……っ!! 君と全力の勝負をする為に何ヶ月も修行したんだぞ!!」


 またペットボトルが遊具を貫通する。その度に遊具全体が軋む感覚がした。


 このままじゃホントに遊具ごと潰されそうだ。


 クソっ! 誤解を解けるような状態じゃない。

 


 ただの学生の俺には蝶野先輩を倒すこともできない。



 ……。



 なんだ。



 だったらやることは1つじゃないか。


 

 ペットボトルの爆撃が止むタイミングを測ってトンネルから飛び出した。



「うおおおおおおぉぉぉ!!!」



 先輩に向かって全力で走る。



「やっとやる気になったか!!」


 

 ペットボトルの群れが俺に向かって迫る。しかし、先輩の超能力で操ってるだけのペットボトルはまだ逃げ切れる速度だ。


 どこかでさっきのミサイルのヤツをやってくるはずだ。



 頼む。まだやるなよ……。



 ペットボトルから逃げながら角度を調整する。



「食らええええぇぇぇ!!」



 先輩の声が聞こえる。



 今だ!!


 咄嗟に右に曲がる。


 全力で走っていたせいで思いっきり転倒してしまった。



「ははは! 何をやってるんだ君は!」



 でも、狙い通りだ。



 ペットボトルのミサイルが



 そのまま。



 の方向へと飛んで行く。


「うわ! マズイ! 師匠避けて下さい!!」


「チッ」


 師匠と呼ばれた女は飛んで来たペットボトルに手をかざした。



 瞬間。



 ペットボトルが地面に深々と突き刺さる。



 うわぁ……。あの人と絶対やり合いたくないなぁ。


 だけど今のおかげで……。


 


 急いでカノガミの所へと走る。



「カノガミイィィ!! リープするぞ!!」



--!? 分かったのじゃ!!



 カノガミが俺の首筋を掴む。



 1週間!


--了解じゃっ!



 すごい力で意識が後ろに引っ張られる。



 先輩とその師匠が視界から遠くなっていく。



 俺達は……タイムリープした。

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