第160話 あるカミの記憶6

 準と共に生きるようになって15年が過ぎた。


 いつの間にか、準と過ごす日々は、チヨと過ごした日々を超えていた。


 準は昔からは見間違えるほど精悍になった。だが、その中身は少しも変わらない。私の知っている少年の頃のまま。頭が足らず、寂しがり屋のまま。私の好きな……。


「明日からまた仕事であろう? 今日は少し、外に出ないか?」


「デートしたいのか? いいぜ」


 むむ……なぜこうも私の言いたいことが分かるのだ。年々心を読まれるようになっていく。


「せっかくだから新宿方面に行ってみるか」


 私と準は白水を出て、様々な街を転々とした。田舎の白水ではそれなりの時を過ごしても子を成さない私を訝しむ者が増えた。


 本当は……私も準との子を成したいのに。準の命を次へと繋げたいのに。準との子ならきっと愛らしいに決まっておる。


 私がカミだからそれができないのであろうか? いや、諦めてはいけない。私達にはまだ時間がある。できることは全てやってみよう。先日もカミ頼みに行ったしな。



 ……。



 いかんいかん。



 せっかくのデートが台無しだ。



◇◇◇


「たくよぉ……どんだけ食うんだよ」


「あのクレープが美味しいのがいかんのだ! つい沢山食べてしまう」


 思わず顔が熱くなるのが分かった。お腹が空くから仕方ないではないか。


「次はの……駅ビルの中に〜ランチの美味しい店が」


「ま、まだ食うのかよ……」


 その時、準のスマートフォンが鳴った。


「悪い。ちょっと待ってくれ」


 誰だろう? もう仕事で何かあるのか?


 電話に出た準は話している途中からみるみる顔が青ざめていく。心配になって準の手を握った。


「どうしたのだ準?」


「あ、いや……小宮が……」


 その後、数度会話を交わすと、準は深刻な表情で、私の手を引いた。


「彼ノがみ。行こう」


「い、痛い……っ!? 小宮が何か言っていたのか?」


 強く手を握りしめられ、声を上げてしまった。


「す、すまん。今説明する余裕が無いんだ。早くここから出よう」


 準に手を引かれて駅の中を進む。準の背中だけを見て……。


 何があったのだろう? この焦りよう。なんだか嫌な予感がする。



 そして、駅の出口が見えて来た。



「もうちょっとで駅を抜けるぞ」


「う、うん……」


 外の光が見えて、安堵した瞬間。



 辺りにが鳴り響いた。



◇◇◇


 その後のことはよく覚えていない。


 私の中に大量の思念が入り込んで、私の心を蝕んだ。そして……私は準に、準に助けを求めてしまった。


 なぜ、なぜあの時私は……愛する人に縋ってしまったのか。私1人が消えてしまえば、準を巻き添えにすることは無かったのに。


 準は、私の身代わりとなった。私の代わりに思念達へと飲み込まれた。


 そして……準の中へと匿われた私の魂はを聞いた。



 それは思念達の声。



 周囲の亡骸から出でて、助けを求め私の元へと集まった思念達。



 ズルイ。



 ズルイ。



 ズルイ。



 オマエタチダケ、ズルイ。



 やめてくれ。私は……私は準と離れたくない。



 カミサマノクセニ。タスケテクレナイ。



 やめて。1人は嫌だ。準と一緒に。



 ズルイ。ワタシタチハクルシイノニ。



 タイセツナヒトニモウアエナイノニ。



 やめて。私は……。



 ハナレロ。



 オマエタチモ。



 嫌……離さないで! 私の心は準の中にいさせて!!



 ハナレロ。



 やめて、お願い……。



 ハナレロ。



 や……やめて、くれ……。



 ハナレロ。



 私の心が、魂が、体から引き抜かれていく……準の中から……引き抜かれる。



 ハナレロ。



 準を置いて行ってしまう……。



 ハナレロ。



 嫌だ。準……。




 ハナレロ。



 嫌……。







 そして私は……魂だけが、準から切り離された。



◇◇◇


 これは災厄が生まれた時に彼女に起こった出来事。


「だから、彼ノがみは消えた……」



 そして次が、最も重要。



 



 また、風景が切り替わる。そこには、彼女のその後が映し出された。

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