世界の真実。なのじゃ。

第159話 あるカミの記憶1


 私の封印を解いた外輪準という少年をなぜか助けてしまった。事故に巻き込まれ、友人の小宮という少女を救いたいという彼の願いを叶えてしまった。


 なぜ私は助けてしまったのだ……私の大切なチヨを殺した人間。私を合わせ鏡に封印した憎き人間を。


 まぁいい。この準を仮の憑代とし、この白水の人間共を滅ぼしてやる。


「どうやって俺を助けてくれたんだよ?」


--ソナタの意識だけを過去に飛ばしてやったのだ。全ての時を巻き戻すのは力を要するのでな。


「ふぅん。それってタイムリープみたいだな。映画かなんかでみたことある」


--人間は時の力のことをそのように呼ぶのか。


「ところでさ、お前なんて名前なんだ? 姿も見えないけど、実体とかあんの?」


 準は不思議そうに周囲を見回した。確かに。声だけではいささか迫力が足りぬやも。


--では、我が姿を見せてやろう。畏れよ。讃えよ。我こそが封印されし時のカミ。


 空間に私の姿が浮かび上がる。在りし日のチヨの姿を模して作り、私の年齢に合わせた姿が。


「お、おぉ……お前、女の子の声だなぁとは思ったけど……俺と同い年くらいじゃん」



「ふん。気安くお前などと呼ぶでない。私はノがみ様だ」


「どんな字を書くんだよ?」


 全く想像していなかった質問に思わず面食らってしまった。


「え? 字だと? 書く物を」


 準から書く物を借り受け、近くにあった紙に、私の名前を書いた。「彼ノがみ」と。


「んん? これって……カノガミだろ」


「無礼者! カミの名を間違えるとは貴様……!!」


「え!? 彼ってアって呼ぶのか?」



「彼ノ世……つまりあの世のカミという意味だ。私は人間からそう呼ばれ、畏れられた」


「ふぅん……」


 準は私のことをジロジロと見渡した。コヤツ、一体何を考えておるのだ? 間抜け面をしおって。


「でもやっぱりカノガミちゃんだよ」


「なんだそれは!? 変な名で呼ぶでない!」


「いいじゃん。カノガミちゃん……可愛くない?」


 

 なんだコヤツは……ふざけおって……。



 消してやるか?



 その時、私の脳裏に昼間この少年を助けた時のことが浮かんだ。


 血塗れで今にも死にそうなのに、友人を気遣う姿が。



 それに祠で言っていたあの言葉。



「カミサマだって1人だと寂しいだろうな」



 なぜ私のことなど気遣ったのか……。



 ……まぁ良い。



 私はコヤツの中で力を蓄えさせて貰おう。用済みとなってから消せば良い。



「あ、カノガミちゃんも夕飯食うか? 今から夕飯作るからさ」



 準が笑う。その笑顔が、昔チヨが見せた笑顔に似ているような気がして。



 私の胸が僅かに脈打った気がした。 



◇◇◇


 これが私の見つけ出した記憶。外輪には覚えの無い物でしょ?



「なんだよこれ……こんな記憶ねえぞ……」


 でも、外輪は近しい経験をした。


「う、うん……カノガミと出会った時と、似てる」



 他にも隠されてた。そして、今から見せる所からが、核心の話。



 路野ジノはそう言うと、あるカミの記憶を進めた。

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