第158話 4/4
ロベリアは、校庭にあった二足歩行機械の1機を公園へと停止させ、その機体の上で夕陽を眺めていた。夕日の中で機体の上に座る彼女が、妙に悲しげに見えた。
「ロベリア。何やってるんだよそんな所で」
ロベリアが俺とみーちゃんの方を見下ろす。
「なんだ。災厄はお仲間が救ってくれたのか?」
「うん。みんな必死で助けてくれた」
彼女は何も言わず、再び夕日へと目を向ける。
「……夕日に映る街並みを見ていると、戦前の光景を思い出すな」
彼女は誰に言うでもなく呟いた。彼女の視線の先に映る光景は、古い街並みが夕焼けに照らされオレンジ色に光輝くものだった。
「生きているのなら私が手を下してやろう」
ロベリアが機体の上に立ち上がる。
「そのことだけど……俺は、もう消えようと思う。それを伝えに来たんだ」
「……どうするつもりだ?」
「生まれてこなかったようにする。そうすればあの災厄は絶対に生まれない。消された人も、戻って来ると思う」
ロベリアは二足歩行機械につけられたウィンチを使って地面へと降りて来た。
地面に降り立った彼女はゆっくり俺達に近づき、その顔を近づけて来る。その顔は笑みを浮かべていた。俺を苦しめようとするように。
「私は絶望していた。全てを災厄に奪われたことに。だから災厄への復讐と称して私の世界を変えようとした。奪う側になろうとした。しかし、お前と出会い、気付いた。過去の災厄を消せばあの日々は帰って来るとな」
笑ってはいるが、俺への憎しみが渦巻いた瞳が覗き込んで来る。それだけで居心地の悪さを感じた。
「お前が消えてくれるならどんな方法でもかまわん。返せ。私の全てだった世界を」
ロベリアが俺の胸へと指を当てる。
「責任を果たせ災厄」
そうだ。俺は……俺が変えてしまったクシア達の世界も元に戻さないといけないんだ。だから……だから俺は今すぐ……。
「準サン……っ!? その必要はありませんわ……」
振り返ると、息を切らせたクシアが立っていた。
「クシア……なんで」
「先程様子がおかしかったから……追いかけたんですの」
「オイカケタ! オイカケタ!」
エアリーがクシアの周囲を飛び回る。彼女は、息を整えるように数回深く呼吸した。
「準サン。貴方が消える必要などありません」
「……貴様、何を言っているか分かっているのか?」
ロベリアがその表情を変える。先程の悪意ある笑みから、怒りを帯びた顔に。
「災厄が現れたことは既に私達の世界の歴史。災厄後には、沢山の命が生まれておりますの。災厄を無かったことにすることは、そんな命を消すことになります」
「はぁ? 災厄を経験していないガキが何を……」
「経験していないガキだからこそ言うのです! 私達の世界は、貴方達大人だけのものではありません! 今、貴方を慕っている若者達も消えるかもしれないのですよ!?」
クシアが悲しそうに目を伏せる。
「ずっと……ずっと負い目に感じていましたわ。私は悲劇を知らない、経験していない。記録として知っているだけ」
彼女が再びロベリアの目を見据える。その瞳は決意に満ちた物だった。
「しかし、今は思えるのです。それは、前を向く為だと。未来を生きる為だと」
「貴様に何が分かる!? 私達の無念を!! 戦争に全て奪われた!! だから戦場に生きようとした!! 災厄にそれすら奪われのだぞ!」
ロベリアが拳銃を向けた。彼女のその銃口が、真っ直ぐクシアを狙う。しかし、銃口を向けられてなお、クシアの瞳は揺るがない。
「貴方は災厄と同じ罪を背負う覚悟はありますの? 私達を消す覚悟を」
「私は……」
ロベリアが声を震わせた。昼間の男子とのやり取りを思い出す。ロベリアについて来たという若者達。その彼ら全てを消してしまうことを恐れるように。
ロベリアの銃口が外輪へと向けられる。
「災厄!! 私の為に今ここで死ね!!」
俺が消えれば全てが良くなると思ってた。でも、消えても消えなくても犠牲者はいる? だとしたら俺は……どうしたら……。
……。
その時、一陣の風が吹いた。まるで何かを告げるように。外輪達のこれからを変えるように。
「この声……!? ジノちゃん!?」
「な、なんだ!? この声は!?」
ロベリアが一瞬気を取られた隙に、クシアとエアリーが彼女へと飛びかかる。そして、エアリーが拳銃を奪うと、拳銃を遠くへと弾き飛ばした。
「貴様らぁぁぁっ!!」
クシア。ロベリアを抑えておいて。決して油断しないように。
「分かりましたわ!」
「ど、どうしたんだよ。ジノちゃん……」
外輪。自分の存在を消そうとしていたでしょ。
「それは……」
そんなことしちゃダメ。何も解決しない。
「で、でも! このままじゃ白水のみんなが、未来の俺が消してしまった人達が……っ!?」
外輪はね。勘違いしてる。この世界のことを。
「どういうことですの?」
外輪達がいるこの世界。その秘密をやっと見つけた出したの。過去の話に遡ったけど見つからなかった物を。
「何を探して……」
消えた彼ノがみの……記憶。
「消えた……彼ノがみの?」
そう。それは「裏設定」という名称で保存されていた。私達この世界の人間に見つからないよう周到に隠してね。まさか、この世界の外に隠すなんて。最悪の人格破綻者だよ。アイツは。
「ジノちゃんが何を言ってるか分からないよ……」
いいから。今から見せる。それで、全てが分かる。
そう言うと、外輪を中心として周囲の景色が変わっていく。そして、それはあるカミの記憶を映し出した。
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