第157話 3/4
屋上へ出ると、夏樹とウラ秋菜が駆け寄って来た。
「目が覚めたか……良かった……」
ウラ秋菜が顔を袖で拭った。何度も何度も。驚いた、ウラ秋菜が泣くなんて。
「お前も、無理矢理飛び出して行くから……心配したんだぞ……」
「……ごめんなさい。私も冷静じゃなかったわ」
ウラ秋菜がみーちゃんを抱きしめた。みーちゃんは、そんな彼女の背中を優しく叩く。
「お、おい秋菜。そんな泣くなって……」
「お兄様だって……涙目じゃないか」
「仕方ねぇだろ。助け出してからずっと眠ってたんだから」
夏樹は潤んだ瞳を隠すように顔を背けた。
「……なぁ外輪。カノガミさんは?」
「俺の中にいるけど、無事だよ」
2人共心配そうな顔で俺の顔を覗き込んで来た。俺の中のカノガミの気持ちが伝わって来る。喜びと悲しみが入り混じったような感覚。カノガミにそんな思いをさせてしまうことに申し訳なさが込み上げる。
「2人共、アレの正体知ってるんだろ?」
「ああ。でも、今の外輪準とは違う。アイツを倒して、お前がアイツになる未来を回避すればいい。私も協力する」
ウラ秋菜は真っ赤に腫れた目をもう一度拭うと、いつものように鋭い目付きに戻った。
「だから……後2日でなんとしてもあの影を倒す方法を考える。だから、お前達はそれまで休んでいてくれ」
「俺も戦うからさ。ログサ達と戦った時、結構活躍したんだぜ〜」
ウラ秋菜も夏樹も俺を信用し切った顔で災厄にどう対抗するかの相談を始める。なんだか、イアク・ザードと戦った時のことを思い出す。だけど、頭に入って来ない。焦燥感でおかしくなりそうだ。
「お兄ちゃん。そんなに……」
みーちゃんが何かを言いかけた時、後ろから、大きな声が聞こえた。
「目を覚ましたんだね!」
「動いて大丈夫なのデスか!?」
振り返ると、蝶野先輩とレイラが屋上に来ていた。
「お兄ちゃんとね、私達がいない間に何が起こったのかを聞いて回ってたの」
「災厄は外輪君と戦って動かなくなったからね。師匠の重力魔法で飲み込まれた外輪君を引っ張り上げて貰ったんだ」
「あの影がもう厄介で、苦労しマシタ」
「影って俺の体に入り込んで来たヤツか」
「そうなんだ。災厄本体が動かなくても、あの影だけは周囲の人を取り込もうと攻撃して来るからね」
「憑依態の髪みたいね」
「だが、やはり1番厄介なのはタイムリープだな。あれだけの広範囲でも発動できる。食らえば即アウト……というのは」
ウラ秋菜が腕を組んで考え込む。
みんなありがとう。
でも、戦っちゃダメなんだ。災厄はイアク・ザードやロベリアの時とは違う。彼ノがみと同じ……いや、それ以上の力を持ってるんだ。俺は、アイツの所業を、記憶を見たから分かる。
戦ったら、いや、アイツが動き出したら……みんな消えてしまう。例外無く。
早く……早く俺が消えないと。
◇◇◇
みんなに「家に戻る」と嘘をついて学校を後にした。本当のことを言うと止められると思ったから。
ロベリアを探して町の中を歩いていると、クシアと猫田先生が1軒の家の前で何かをやっていた。事情を聞くと、どうやら喋る白猫が避難してくれなくて困っているらしかった。
「ココ。拙者達以外は皆避難したでござる。人も猫も。お主も早く避難を……」
「嫌にゃん! 十兵衛様と離れたく無いにゃん!」
「そんなこと言わず、ほら、全て終わったらまた戻って来れば良いでござる」
「嫌にゃん! ココはずっと十兵衛様の近くにいるにゃん!」
「はぁ……さっきからずっとこの様子でござる」
「十兵衛様は色々考えすぎにゃん! 好きな相手の側にいたい。そんな当たり前のことを止めることはできないにゃん♡」
「……」
「どうしたんですの準サン?」
「ヘン! ヘン!」
エアリーが俺の頭上を飛び回る。
「あ、いや、なんでもない」
分かってるよそんなこと……。
でもどうしようもないじゃないか。みんなの命には、変えられない。
「準サンは疲れているのですわ。あまり思い詰めないで下さいね。私は準サンの味方ですから」
クシアが微笑みかけてくる。
でもさ、クシアやロベリアの世界に酷いことをしたのは俺なんだよ? なんでそんなこと言ってくれるんだよ……。
「お、俺達もう行くよ。行こうみーちゃん」
「う、うん……」
やっぱりみんなに会っても俺の考えは変わらない。むしろ、みんなを消してしまう方がずっと嫌だって感じるから。
胸の奥がすごく痛む。カノガミが、カノガミが泣いてる。そうだと分かる。
ごめんな。
最後に……ロベリアの所へ行こう。消えるって、ちゃんと伝えないと。
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