第156話 2/4
みーちゃんと2人で比良坂さんを家まで送り届けた。
比良坂さんがお母さんと共に芦屋家の用意した避難用の車へと乗り込んでいく。
「みーちゃん。絶対帰って来てね」
「ありがとう。舞の為にも、なんとかするわ」
比良坂さんは、車が見えなくなるまでみーちゃんに手を振り続けていた。
「大丈夫だったのか?」
「うん。ちゃんと舞とお話したから」
「そっか」
「私はね。お兄ちゃんのせいじゃないと思うわ」
「ありがとう。でも……」
「分かってる。お兄ちゃんに、任せる」
比良坂さんを送る前、みーちゃんにカノガミと交わした約束を話した。みーちゃんは、怒ることなく全てを聞いてくれた。俺の選択も含めて。彼女は「自分も見届けたい」とだけ言うと、後は何も言わなかった。
みーちゃんが手を繋いで来る。彼女の持つ小さな手のひらが、俺の手をギュッと握る。そこから、離したくないという想いを感じた。
反射的に夢のことを思い出す。彼ノがみの手を引いて駅を歩いた時のことを。
「みーちゃんもあの夢見たのか?」
「うん。私ね、幸せだった。彼ノがみだったけど、お兄ちゃんとああいう風に過ごせて。穏やかな日々を」
みーちゃんが寂しそうに笑う。その顔を見ると胸がズキズキと痛む。
「私もね。お兄ちゃんともっと早く出会っていたらと思うわ。お兄ちゃんの……気持ちは分かってるから」
「うん……」
「でも、良かったこともすごく沢山あるわ。舞とも家族になれたしね」
いつもみーちゃんは、俺とカノガミを尊重してくれる。俺も、彼女の気持ちは分かってる。いつも俺を包んでくれるような、見守ってくれるような優しさを。
だけど……俺にはカノガミが……。
未来の俺は、どうやって折り合いを付けたんだろう? 前に彼ノがみが言っていたように、全員と……っていうことなんだろうか。未来の俺が彼ノがみを想う気持ちも、すごく伝わったから。俺がカノガミを思う気持ちと同じだったから。
◇◇◇
外は、昼前だけど、冷たい風と人気の無い田舎道がなんとなく寂しかった。比良坂さんを乗せた車の運転手から聞いた。町の人達はほとんど避難したらしい。小宮も犬山も学校のみんなも。なんだか、いつも歩いてる道なのに、人の気配が無いだけで全然違う場所みたいだ。
小宮や犬山に最後に会えないのは寂しいけど、会わなくて良かったのかもしれない。会っていたら、きっと踏み止まってしまうかもしれないから。
学校の方へと歩いて行くと、黄金の3つ首竜が見えて来る。校庭まで行ってみると、竜の下には緑色をした半透明の球ができていて、中ではあの影が蠢いていた。
「「「む。小僧とご息女か。何のようだ?」」」
「イアク・ザードが災厄を封印してくれてるって聞いて」
「「「こんなものは一時凌ぎだ。もってあと2日と言った所か」」」
2日……それまでになんとかしないと、また災厄が人を消してしまう。今度は、俺のよく知ってる白水の人達を。どこに逃げても絶対に消されてしまう。なんとなくだけど、分かる。
「「「小僧。良からぬことを考えているな」」
「……」
「「「我らは1000の魔法を操りし生きた伝説。心を読むなど、造作も無い」」」
「そうだったな。1000も魔法を使えるんだった」
竜は、笑うように鼻息を拭くと、言葉を続けた。
「「「貴様、あのロベリアという女とも会うつもりだろう?」」」
「うん。俺の被害者だから。消えることをちゃんと伝えようと思う」
「「「我らは貴様の選択を見守ろう。きっと彼ノがみ様もそのようにされるだろう」」」
「ありがとう」
「「「礼を言われる筋合いは無い。我らがもっと強ければこの災厄を消せたのだが、無理であった。此奴の強さは彼ノがみ様に匹敵……いや、それ以上かもしれんな」
「……なぁ。俺達は影に飲み込まれたハズなのに、なんで生きてるんだ?」
「「「しれたこと。貴様の仲間が助けたのだ。災厄は、貴様の影響で停止していたのでな。その間にあの者達が、必死に貴様を影から掬い上げた」」」
「みんなが……無茶させてしまったわね……」
「礼を言わないとな」
別れを告げてその場を去ろうとした時、竜に呼び止められた。
「「「小僧」」」
「なんだよ?」
「「「貴様は己が未来……運命を見て、嘆いておるのだろう?」」」
「うん。だから、俺は消えなくちゃいけないと思う」
「「「我らは思う。貴様は別の宿命を背負っていると」
「宿命ってなんだよ? 運命と違うのか?」
「「「そのくらい辞書でもなんでも引いて自分で調べんか」」」
なんだか、3つ首竜が先生みたいなことを言うから笑ってしまった。
◇◇◇
竜に居場所を聞いて、学校の屋上に向かう。階段を登って屋上への扉を開けると、ウラ秋菜と夏樹、それとガラの悪そうなメカスーツ姿の男子が何かを話していた。
なんだか入ってはいけない気がして、立ち止まってしまった。
「たくよぉ。せっかく攻め込んで来たのにシバのオッサン達は消されるわ最悪だぜ」
「仲間が消されたっていうのに軽いな……」
「秋菜だっけ? そういうもんだろ。戦闘が起きりゃ死ぬヤツもいる。そりゃ、悲しいけどよ。悲しんでたって腹は減る。俺は生きてんだしよ」
メカスーツの男子は落下防止用の手すりへともたれかかり空を見上げた。口ではそう言っているものの、目を閉じて何かを想う仕草は、消えた仲間の為だと分かる。
「俺はログサがここに馴染んでることに驚いてるぜ〜」
「うっせ夏樹」
夏樹と男子が何かを言い合ってる。どういう関係なのか分からないけど、あの男子、嫌に夏樹に構ってるな。
「あー俺どうすっかなぁ。Mう87世界の時は戦って飯が食えりゃそれで良かったけどよ。なんか、どうしたいんだろうな。俺」
どうしたいのか。か……。
「私達はあの災厄が動き出したら、ヤツと戦う。お前は帰れるなら早く自分の世界に帰った方がいいぞ」
「夏樹はどうすんだよ?」
「俺は秋菜とこの町を守らないといけないからな。戦うしかない。シュウメイがあれば俺も戦えるし」
「はぁ……せっかく好敵手に出会えたと思えたのによぉ。ま、頑張れや。お前らが消されても覚えといてやるよ」
男子がこちらに歩いて来る。
扉を開けた男子と目が合った。災厄が消してしまった人達の仲間……気まずくて道を譲った。
「お、災厄と戦ったヤツ。お前が将来災厄になるんだっけ?」
「あ、あぁ……その、アンタの仲間を、その」
「俺にそんなこと言うな。俺だってなぁ。成り上がる為にめちゃくちゃ人殺してんだ。俺にお前を責める資格はねーよ」
男子が階段を降りていく。数段降りた後、男子は「あ」と声を上げて振り返った。
「司令は別だぜ? あのオンナ、昔のことに囚われてっから。まぁ、俺らはそれを知っててついて行ったんだけどよ」
「アンタ達はなんで、ロベリアを……」
「慕ったのかって? あのオンナさ、手腕はあるんだぜ。何もねぇ所から基地に部隊まで作っちまった。個人的問題に固執しちまうのが、あのオンナの弱点だけどなっ!」
男子が子供っぽく笑う。こんな笑顔をするヤツが人殺しなのか。住む場所や世界が違えば、持ってる常識も違うんだ……。
でも。
今はその笑顔が、少しありがたかった。
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