カノガミ救出!なのじゃ!

第147話 1/1

 外輪準は牢獄の冷たい壁にもたれかかっていた。手首にはめられた手錠を引っ張っては外れないことを確認する。


 ……何回やっても自力では無理か。



 ドアに耳を当て、外の音を確認した。先程まで女が演説しているような声が聞こえていたが、いつの間にか聞こえなくなっていた。


 外輪は思いを馳せる。一体自分の作戦の何が悪かったのか。ウラ秋菜がやるようにカッコよく決めるハズだったのに……これじゃあ主役失格じゃないか。



「……」



 額のクリスタルのことをすっかり忘れていたなんて、俺はなんて間抜けなんだ。


 外輪の胸の中には後悔が渦巻いた。



「うっせ。好き放題言いやがって。全部狙い通りなんだよ」



 狙い通り? その割には焦ってMう87世界のことをM78と言っていた。


「ああああっ!? 確かに上手く忍び込めたらラッキーとは思ったけどさ!」


 そう。外輪はおっちょこちょいだからよく間違える。「やってきた」と言ったと思ったら別の話で「やって来た」と言ったりブレまくり。他にも誤字や脱字なんかも……。


「お、俺の心を痛め付けに来たのかよ


 私は優しく指摘してあげてるだけ。


「よく言うぜ……それで、どうだった?」


 バルディア弍型は地下2階にいる。ここが地下3階だから1つ上の階。カノガミさんはに震えてた。


「そっか……鍵は?」



 持って来た。


 何も無い空間に裂け目が現れる。そこから出て来たしなやかな指が、外輪の目の前へと鍵を放り投げた。


「サンキュー」


 外輪はそれを拾うと器用に手錠の鍵を開ける。


「あとこの扉の鍵もよろしく」


 外輪が頼んだ数秒後、ガチャリと扉が開く音がした。



 と言い出した時はビックリした。いつから気付いてたの?



「この世界着いた時からもういただろ」


 まぁね。


「異世界に転移までできるとかチートかよ」


 転移してない。私は141話に移動しただけ。ちなみにここは147話。


「相変わらず意味わかんねぇ能力だよなぁ」


 ほら、そんなこと言ってないで、カノガミさんを迎えに行くんでしょ?


「あぁ。案内頼むぜ」


◇◇◇


 外輪は迷路のような基地内を進んで行く。基地内の兵士達は慌てて外へと走る者ばかりで誰も外輪のことは気にしていない様子だった。


「クシア達上手くやったみたいだな」


 うん。派手に囮になってもらったから。イアク・ザードに。


「初めて見たら、そりゃなるよな」


 外輪の作戦……それは外輪が路野ジノと共に捕まり、基地内へと入り込んだタイミングでイアク・ザードを出現させて転移装置を破壊するというものだった。転移装置を破壊し、自由に基地内を動き回ることのできる。一石二鳥のアイデア。


 3つ首竜の出現方法はクシア達に任せた。とにかく派手で人目を引く方法で、とは伝えたが。


「どんな方法使ったんだろ?」


 バルディア壱型の中からイアク・ザードを出現させた。を入れたバルディアを自動操縦で転移装置に向かわせるって言ってた。直進するくらいしかできないけど、衝撃が加われば時間玉が解放されてイアク・ザードが出現するからって。


「弐型やイアク・ザードがいるから帰れるけど、クシアはそれで良かったのかなぁ」


 さぁ? 覚悟は決まってたみたい。


「それならいいんだけどさ……」


 でも、1部隊だけは転移してしまった。


「マジかよ……俺達も早く元の世界に戻らねぇと!」



 通路を通り過ぎ、物陰から様子を伺う。バルディア弍型が置いてあるのは資材倉庫のようだった。


 あと13秒待って。イアク・ザードの電撃魔法の影響で資材が倒れて来る。


「なんで分かるんだ?」


 147話は68回は観察したから。


「無茶苦茶かよ……ちなみに67回目までの俺はどうやってカノガミの所まで行ったんだよ?」


 外輪は手錠を外す為に己の右腕を犠牲にして……その先はもうシリアスすぎて言えない。


「怖っ!?」


 そうならないように私の言うこと聞いて。あんまりやると怒られるけど、今回は特別に助けてあげるから。


「誰に怒られるんだよ? ホント意味分かんねぇ」


 路野の言う通り、物陰で13秒数える。すると、地響きと共に資材が倒れて行く。バルディア弍型には当たっていないが、このまま近付いていたら下敷きになっていたかもしれない。


「ホントだ……危ねぇ〜」


 ほら。ボーッとしてないで早く行きなよ。


「あ、あぁ……」


 外輪は真っ直ぐバルディアへと駆け寄り、背中のハッチを開いて中へと入った。


「カノガミっ!!」


 外輪の声に反応して、後部座席に人影が現れる。長い髪にパーカーを着た女性が、体育座りをしていた。


「……ジュン?」


「迎えに来たぞ」


「ううっ……ジュン……」


 カノガミは大粒の涙をボロボロと溢し、外輪へと抱きついた。



「1人は嫌じゃ……暗いのは嫌じゃ……」


「分かってるよ。だから迎えに来たんじゃねぇか」


 外輪はカノガミを優しく抱きしめ、愛おしそうにその髪を撫でる。出会ったら思いっきり怒鳴ってやろうと思っていたが、その顔を見たらそんな気は一瞬にして消え去った。ただ再び出会えた安堵と、彼女への想いだけが胸の中に満たされていた。


「まったくよぉ。勝手にロボットに乗ってこんな所まで来やがって」


「うん……」


「勝手に俺を置いてくなっつーの」


「ごめんなさい……」


「めちゃくちゃ心配した。だから、帰ろうぜ? みーちゃんも待ってる。きっとみんなも」


「うん……帰りたい、のじゃ」


 外輪はカノガミをもう一度抱きしめた。今度は力強く。まるで、もう離さないと言うように。


「勝手に俺の内心決めんなよジノちゃん」


  いつものことでしょ?


「でも……」


 何?


「ありがとな。助けてくれて」


 ……いいよ。私は外輪とカノガミさんのこの場面を見る為に何回もこの話に来てるし。


「ジノは本当にデリカシーないの……」



 それが私だから。



「でも、今回は許してやるのじゃ。ありがとう。ジノ……」


 カノガミは、路野ジノを横目に外輪の胸に顔を埋める。チラリと見える彼女の顔はとても幸せそうなものだった。


 愛する人が自分のことを想ってくれる。それはどれほど素晴らしいことなのだろう? 



 いつか自分もそれを感じてみたい。



 はそう思った。

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