黄金の嵐!なのじゃ!

第146話 1/1

 時は遡ってログサ達30機の侵攻部隊がLあ77世界に現れる1時間ほど前。



 ……。



 先行部隊からの転移ビーコン反応を確認し、いよいよ侵攻部隊の転移が整った。まずは30機。その後転移先に拠点を構築。順次第2第3の部隊を転移させる。


 大型転移装置の前には100機を超える二足歩行機械が整列し、ロベリアの指示を待っていた。


 ロベリアが兵士の前へと歩み出る。防衛ではなく侵攻作戦。彼ら兵士にとっては初めての経験だ。転移前の士気向上は必要な措置だろう。


「異世界への侵攻作戦……目標は二足歩行機械を持たず、災厄も経験していない軟弱な人間達だ。諸君らの中にはこの作戦に疑問を持つ者もいるだろう」


 彼女の口から出た言葉にざわめきが起こる。


「しかし。これは必要な事なのだ。共和国から徹底的に締め付けられ、滅びゆく運命なのは誰だ!? この国の支配層は何をやっている!? ヤツらは滅びゆく国から目を逸らしながら、自分達の保身にしか興味が無いのだ!」


 絶叫の後、彼女は言葉を止めた。訪れた静寂が、彼ら兵士が受けて来た仕打ちをよく理解していると告げているようだった。


「我らが何をした。我らはただ……大国から押さえ付けられる現状を変えたかっただけだ……」


 ロベリアは涙を堪えるように声を震わせる。


 兵士達は思う。親も兄弟も自分達も、皆同様に苦しんで来た。そんな自分達に声をかけたのはロベリアだった。彼女について行けば、この苦しみの日々から逃れられる気がした。そして、彼女は人を集め、基地を手に入れた。自分達では到底叶えられそうにもない願いも彼女なら、叶えてくれる気がしたのだ。


「だが異世界の人間達はどうだ!? 我らの苦しみなど知りもせず、日々平和を享受している! 食糧や資源にも恵まれながら、そのを理解していない! ヤツらは生まれながらに恵まれているのだ! 我らとの差は一体何なのだ!」


 兵士達から賛同の声が上がっていく。数名の声が徐々に徐々に増えていき、次第にそれは怒号の渦を巻き起こした。


「だからこそ、我らは攻める。奪うのでは無い。勝ち取るのだ! これは我らが初めて勝利する為の戦いなのだ!! これより作戦を開始する!!」


 怒号は熱狂となり、周囲は熱に埋め尽くされる。



 これでいい。



 何が異世界は……だ。こんな破綻した論理に乗るなど所詮愚者共だな。戦いたければ己が国と戦え。不正を正せ。運命に抗わず他者にすがるなど……。



「ロベリア様」


「下がれ。まだ途中だろうが」


 小声で報告して来た兵士は、それでも引き下がらない。


「大型転移装置前に二足歩行戦闘機械が向かっています」


「何機だ?」


「1機です」


 1機で攻めて来ただと? 何だその無謀な攻撃は。


 だが作戦結構前のこのタイミング……嫌な予感がする。


「兵士達よ! 作戦を聞き付けた賊が大型転移装置を狙っている!! ログサ部隊は転移を開始。それ以外は転移装置の防衛に向かえ!!」


 ロベリアの声で各機が一斉に行動を開始する。彼女は部下と共に司令室へと急いだ。



◇◇◇


 司令室のモニターには基地前へと展開された大型転移装置周辺が映し出されていた。


「あれは……鹵獲したバルディアか?」


「いえ、鹵獲機は資材庫で整備中です。同型機でしょう」


 モニターに映った敵機はフラフラと転移装置へ向かって歩いていた。ログサの部隊が転移を開始し、その周辺の各機が敵機を取り囲むように配置されていく。


「鹵獲機のか。いずれにせよ国内へ侵入されるなど、相当に舐められているな。ムスカリは」


「防衛部隊配置完了しました。いつでも攻撃開始できます」



「やれ」



「はっ」



 指示から程なくして銃撃が開始された。



 1機相手にやりすぎだが、念には念を入れよう。爆弾でも仕掛けられているかもしれんしな。


 雨のような数の銃弾がバルディアへと命中する。数百もの銃弾を浴びた機体が異様な形に膨れ上がっていく。



 ……。



 おかしい。



 被弾してあのように膨張する所など見たことが無い。



 しかし、彼女の疑問とは裏腹にバルディアはなおも膨張し続ける。



 なぜだ? なぜあのような反応を見せる?




 膨らみ続けた機体が、ついに臨界点を迎えた。




「破壊した、か……」



 いくら見たことが無い現象であろうとも、あの機体がもう動かないことだけは明白だ。それで良しとしよう。



 ロベリアの気が緩んだ次の瞬間。



「敵機から高熱源反応っ!?」



 オペレーターの声が彼女の耳に飛び込んだ。



 そして。



 バルディアの背中から、が現れた。



 脚部が吹き飛び、そこから強靭な脚が生える。



 胴体を突き破り、3が現れる

 


「な……なんだあれは!?」


「分かりませんっ!?」



 二足歩行機械の中から黄金の輝きが放たれ、の雄叫びが響き渡った。



 いや、雄叫びではない。これはだ。



「「「ふはははははっ!! 矮小な人間共よ。真の恐怖というものを教えてやろう!!!」」」



 3がその翼をはためかせる。



 ロベリアの目の前には、黄金の嵐が吹き荒れた。

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