第67話 4/5

「と、とにかく、ウラアキナを操作して攻略してみるぜ」


 夏樹がウラアキナを操作してダンジョンの地下1階へと潜る。


「まずは各フロアの敵を全滅しつつアイテム回収だな!」


 夏樹がウラアキナで敵を蹴散らす。霊力攻撃はスタミナを使うみたいだけど、その分威力が大きかった。敵を一撃で倒しつつ階数を進めていく。気が付けば一気に10階まで到達してしまった。


「おぉ! さすがウラアキナ! 霊力高いだけあるな! カノガミさんでもサクサク進めただけあるぜ!」


 な、なんだか……カノガミがバカにされてる気がする……。




 しかし、最初の勢いとは裏腹に階を進むごとに難易度が上がる。


 夏樹も余裕が無くなっていく。


「い、今の階危うかったな……」


「あ、あぁ……あそこで回復できなかったら……」


 夏樹の顔を見ると疲労の色が浮かんでいた。


「……」


 階数が進むたび口数も減っていく。



 そして、辺りも暗くなり、空腹に襲われるようになった頃、やっと地下60階まで到達した。



「……おし! この札で村にワープできるみたいだ。レベルも引き継ぎつつアイテム持ち帰れるって書いてあるぞ!」


 夏樹の顔が緩む。かなりの緊張感の中のプレイだったから、やっと一息つけた感じだな。


「ちょっと安心ですねお兄様。せっかくなのでカノガミさんも使ってみてはいかがですか?」


 秋菜ちゃんの提案に夏樹は頷いた。


「試してみるか。ボス戦の時とか2キャラ使える方がいいしなぁ。ここまでボスが少なくて良かったぜ」


 夏樹がカノガミにキャラクターを切り替える。


「カノガミってどんな技使えるんだ?」


「ちょっと待てよ〜」


 夏樹が操作しようとした時、異変が起こった。


 カノガミのチビキャラが


「おい夏樹! 勝手に動いてるぞ!?」


「あ!? ちょ!? ボタン押しても反応しねええぇぇ!?」


 夏樹がコントローラーのボタンを手当たり次第に押すが、カノガミの操作はできないみたいだった。


「見て下さい! 回復アイテムがすごい勢いで減っていきます!!」


 ゲームのアイテムウィンドウが勝手に開き、カーソルがアイテムを選んでは無駄に消費していく。


 回復アイテムが?



 なんで?



 あ!?



「夏樹!? このゲーム回復アイテム全部じゃないか!?」


「た、確かに……『チョコ』とか『にく』とか『パン』だわ……」


『ウヒョー!! ゴハンジャアー!』


 回復アイテムを無駄消費するたびにチビキャラが喜ぶ。


「回復アイテムを……食ってる……」


 秋菜ちゃんが呟いた。


「あああ……苦労して集めたアイテム達があぁぁ……」


『ナンジャア、コノ、クエンゾ』


 あ! カーソルがを選んでる!?


「あ"っ!! カノガミさん! それはやめてええぇぇぇ!!」


 夏樹が叫ぶ。


『ステルノジャ』


 カーソルが「捨てる」コマンドを選択した。


『ハァ、ツカレタカラネルノジャ』


 チビキャラがそう言うと、カノガミからウラアキナへキャラクターが交代した。


 おいおいおい。カノガミが呪いのキャラみたいなもんじゃん……桃○のキングボ○ビーかよ……。


「はは……俺……ダメかも……」


 緊張感の中やっと訪れた安息を失ったからか、夏樹は力無く項垂れた。


「夏樹!? 大丈夫か夏樹!?」


「お兄様!? しっかりして下さい!!」


 俺たちの呼び声には反応せず、夏樹はふらふらとカイ兄の部屋へ入っていった。


 俺と秋菜ちゃんで追いかけたが、カイ兄の部屋は内側から鍵がかかってるようで、開けることはできなかった。



「どうする? 続きは俺がプレイしようか?」


「待って下さい。私は……お兄様を待ちたいです」


 秋菜ちゃんは真っ直ぐな瞳で俺を見つめる。


「分かった。夏樹を待つよ」


◇◇◇


 ……。


 ん?


 物音で目が覚めた。いつの間にか寝てしまっていたみたいだ。


 時計を見る。



 もう深夜2時か。



 ふとリビングを見ると夏樹がテレビに向かっていた。


「夏樹……もう大丈夫なのか?」


「なんとか持ち直した」


 疲労の色は残りつつも、夏樹はゲームを進めていた。あれからさらに下の階に進んだようで、画面には「80階」と表示されていた。


 横を見ると、秋菜ちゃんが絨毯の上で丸くなって眠っている。


「秋菜を起こさないでやってくれ。俺が部屋から出てくるまでずっと待ってくれてたみたいだから」


 秋菜ちゃん……カノガミ使うように言ったこと気にしてたのかな。


「夏樹、なんか食うか?」


「頼む。もうめっちゃ腹減ってさ」


 すぐ出せる物の方がいいかな。


 朝食用の食パンにマヨネーズを塗ってスライスチーズを乗せた。そして、もう一枚パンではさむ。最後に軽くレンジにかけてから夏樹に渡した。


「サンキュー」


 夏樹がゲームをストップしてパンを食べ始める。


「ほらよ。紅茶も」


「あんがと。外輪はさ……カノガミさん消えちゃったのにずっと冷静だな」


「いやぁ、チビキャラみたら大丈夫な気がしてさ。それに、前いなくなった時のこと思えば大丈夫だよ。今回は」


「んだよその謎の自信は〜」


 夏樹が画面を見つめながら言った。なんだか、いつもの調子が戻ってきたように思えた。


「言ったろ? お前のこと信用してるって」


「秋菜といいお前といいなーんか俺を過大評価してんなぁ」


 夏樹は一気に食べ終え、ゲームを再開した。


 ウラアキナを操作し敵を倒していく。80階の敵はかなり防御力が高く、攻撃用の消費アイテムも惜しみなく使っている。その割にはなぜか、回復アイテムを温存しているような動きをしていた。


「回復アイテム使わなくて大丈夫なのか?」


「ちょっと


 夏樹はそう言うと、アイテム欄を確認した。


 そして、なんとか地下80階をクリアし、地下81階に進む。そこは道具屋のフロアのようで、敵はいないように見えた。



「……俺さ、ウラ秋菜が現れた時、アイツの話を聞いて胃が痛かったんだよねぇ」


 夏樹がポツリと呟く。


「え? 訓練ばっかやらせてくるから?」


「ちげーよ。ウラ秋菜ってさ、前の世界の時、俺とだったろ?」


 立場……あぁ、次期当主のことか。


「俺、こんな感じだからさ、失望されるだろうなぁって思って。それに、アイツっていつも切羽詰まったような顔してたじゃん」


「あ〜なんて言うか……覚悟決まってる感じだったな。前の世界では」


「はは……なんかちょっと分かるわ」


 夏樹が笑う。


「だろ?」


「秋菜にはさ、もっと……のほほんとしていて欲しいんだよね〜。


「じゃあもっと訓練受けてやれよ」


「うっせ。死ぬほどキツいんだよ。俺には俺のペースがあんの」


「そういや、なんで部屋から出て来れたんだ?」


「なんつーか……ウラの方も俺の妹だし。助けてやんねーとな」


 コントローラーを操作する音が響く。


 夏樹の言ってることはフワッとしているけど……。



 なんとなく。



 いいなと思った。



 兄妹か。

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