第68話 5/5
明け方。
「や、やったぜ……。次で地下100階だ」
目にクマを作った夏樹が呟く。
「さすがですお兄様……」
あの後秋菜ちゃんも起きてきて、夏樹のプレイを見守っていた。
「気を付けろよ夏樹。最終階って絶対ラスボス待ち構えてるだろ」
「ああ。やってやるぜ……」
夏樹の操作するキャラ、ウラアキナが階段を降りる。
「なんじゃこりゃ……」
地下100階は今までと違い、何もなかった。ただ、真っ暗なだけ。
真っ暗な画面をウラアキナが進んでいく。
そして、突然。
真っ暗な画面の中に赤い文字が現れる。
「ダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセダセ」
「うわっ!? 怖っ!?」
「これは……恐らく呪いの中枢です。何者かの思念。それがゲーム内の地下100階に閉じ込められていたようです」
「おい……それって、画面に映して大丈夫なのか!?」
「恐らく……閉じ込められていた怨霊の類いが……外に出ようとするハズ……」
「オオオオオオオォォォ……」
部屋に雄叫びのような、悲鳴のような声が響き渡る。
そして、声が止む。
「こっちに気付いたのか!?」
次の瞬間。
真っ暗なゲーム画面の奥から。
人の顔が浮かび上がった。
「物凄い霊力です!! 2人とも下がって下さい!!」
画面が盛り上がり顔の形になっていく。明らかに現実離れした光景に体が震える。
「こっち側に出てくるぞ!?」
しかし、夏樹は画面を見つめたまま動かない。
「おい夏樹!! どうしたんだよ!」
「呪いに魅せられているのかも……」
しかし、よく見ると、夏樹はゲームをしていた。画面の隅に映るウラアキナを操作して、懸命に画面に映る顔に向かって攻撃を仕掛ける。
「お兄様! 危険です!! 離れて下さい!」
「秋菜……っ! 俺はな、正気だぜ……」
夏樹は、一心不乱にコントローラーを操作しながら言った。
「な、何を言っているのですか?」
「見ろよ。コイツ怨霊のクセに体力ゲージがあるんだよ。だから、コイツはゲームの中で倒せるっ!!」
そう言うと、夏樹が操作しているウラアキナが、怨霊へ向かって攻撃アイテムを投げ始める。当たる度に怨霊のゲージが減っていく。
「秋菜っ!! 兄ちゃんが助けてやるからな!」
夏樹がウラ秋菜に呼びかける。そしてアイテム欄から強力な消費アイテムを選択すると、怨霊に電撃が走り大きく体力ゲージを削った。
「オオオオオォォォ……ッ!!」
怨霊が雄叫びを上げ、外に出ることをやめた。画面が再び平面になっていく。
そして、そのままターゲットをウラアキナへと変え、攻撃を仕掛けはじめる。
「クソっ! 当たったらマズイ!」
顔がウラアキナへ噛みつこうと追いかける。夏樹は真っ暗な画面を逃げ回ってなんとか攻撃の当たらない位置どりをキープしていた。
しかし……。
画面を縦横無尽に動き回る顔の攻撃を避け切ることができず、ついに攻撃が当たってしまう。
「夏樹!?」
「っぶねぇー!? 身代わりアイテム持ってなかったら死んでた!!」
100階に向かう途中で拾った即死回避の消費アイテムのおかげで、なんとかウラアキナは体力1で生き残っていた。
「1発くらったらアウトって……とんでもねぇチートボスだな」
「……しゃあない。一か八かアレやってみるぜ!」
そう言うと夏樹がキャラクターを変更する。キャラクター名が『カノガミ』になった。
「今まで貯めに貯めた回復アイテム! カノガミさん全部食べちゃって!!」
『ゴ、ゴハンジャアーーー!!』
カノガミがすごい勢いで回復アイテムを消費していく。
そして。
あっという間にカノガミは全ての回復アイテムを食べ尽くしてしまった。
「夏樹。どういうつもりだよ!?」
「まぁ見てろって」
見てろって、何を……?
「カノガミさんは言ってたよな? ホットケーキ18枚で8分目だって! だからそれ以上の食い物を貯めてたんだ!」
!?
カノガミの
「ハラペコ」から「通常」に。
「チートにはチートをぶつけんだよ」
夏樹がそう呟くと。
『ウワッ。キモイノジャ! ○ネ!!』
画面の中のカノガミが怨霊をボコボコにブン殴りはじめる。
もうゲームとか関係無い動き。
怨霊の断末魔が消えるまでカノガミは怨霊を殴り続けた。
30分。
顔だけの怨霊は……30分間、頭を庇うこともできず、ひたすら顔面を殴られ続けた。
『ハァハァ。ジョレイカンリョウジャ♡』
カノガミがそう言った瞬間、PS2から煙が噴き出し、呪いのゲームディスクが飛び出す。
「あ、見て下さい! ゲームディスクが割れています!」
秋菜ちゃんの指差した方向には粉々になったゲームディスクが散らばっていた。
「はぁ〜なんか変な夢見たのぉ」
「カノガミ!」
いつの間にか、カノガミは俺達の後ろで伸びをしていた。
◇◇◇
「秋菜!? ウラの秋菜は大丈夫か!?」
「お、お兄様……そ、そんな揺すらないで下さい」
「あ! ごめん!」
「あ。」
「秋菜……?」
秋菜ちゃんの目つきが変わる。でも、なんだかいつもより鋭さが無いような気がした。
「お、お兄様。その、今回は私もやり過ぎた……」
「バカ! 心配させんじゃねぇよ!」
「お兄様……?」
「いつもだったらさ。お前は強いから、自分でなんとかしちゃうんだろうけど今回は……俺達がゲームに気付かなかったらどうするつもりだったんだよ!」
夏樹が怒る所なんて初めて見た…….、
「すまない……」
ウラ秋菜は肩を落として、下を見つめた。
「ウラ秋菜……って呼んでいいんだよな? お前のことさ、助ける為に必死だったんだぜ。夏樹のヤツ……」
「お兄様が……私を?」
「当たり前じゃ。夏樹にとって2人とも大事な妹じゃからのぉ」
カノガミが腕を組んで言った。
「ちょ!? カノガミさん!? 俺の台詞取らないで!!」
「はぁ〜せっかくの良いところを持っていかれるのが夏樹らしいなぁ」
「おい!? それお前が言うか!?」
俺達にツッコむ姿はすっかりいつもの夏樹に戻っていた。
「本当にすまなかった……それと、その、ありがとう、お兄様」
そう言うと、ウラ秋菜はぎこちない動きで夏樹に抱きついた。
「まぁ……もういいよ。お前も無事だったし」
夏樹もウラ秋菜を優しく抱きしめる。
なんだか、その光景を見ると胸の奥があたたかい気持ちになった。
いつも秋菜ちゃんはやり過ぎな気もするけど、やっぱり良いもんだな。家族って……。
「あ。」
「ん? あ。ってなんじゃ?」
ウラ秋菜の目つきが変わる。いつもの鋭さから見開かれた大きな瞳へ。
「お兄様!? なぜウラ秋菜だけ抱きしめるのですか!? ズルいです!!」
「あ、秋菜!? お前……」
「あ。」
「おい。また……」
「お兄様。これからは訓練も加減するから、その、も、もう少し、その……強く……」
「ウ、ウラ秋菜……」
「あ。」
「ズルいです! ズルいです!! 私だって……」
「そ、外輪ぁ〜助けて……」
夏樹が涙ながらに訴えてきた。
「……ジュン。ウチらは一体何を見せられておるのじゃ?」
「ま、まぁ〜終わり良ければということで……」
「そういえば。のう、ジュン?」
「なんだ?」
「PS2から煙が出ておるが良いのか?」
「あぁ!? 俺のPS2がああああぁぁぁ!?」
俺のPS2は怨霊と共に成仏してしまった。
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