第117話 2/3

「2度と来るんじゃねええええぇぇぇ!!」


「ひぃぃぃ!? 逃げるのじゃああぁぁ!」



 店員にブチ切れられ、急いで近くの公園へと逃げ込んだ。


 これで断られるのは3軒目。パチンコ屋なら玉を運んだりする力仕事があるので重力魔法を使えるレイラさんなら余裕だと思ったんだけど……。


 実際は……重力魔法が発生させるのせいでパチンコ台が狂ってしまい、周囲の客達がへ突入。店側が大損をしてしまうという事態となった。


 当然、アピールポイントを重力魔法に振り切っていたレイラさんが犯人と1発でバレてしまい、こうして逃げる羽目となってしまった。


「クソ〜ムカつきマスねぇあの店員。あの遊技場ごと潰してしまいマスかね?」


「物騒なこと言うのやめろおおおぉぉ!?」


「レイラの場合は潰す(物理)じゃろぉぉぉ!」


 レイラさんの性格も災いした。この人、戦闘だとめちゃくちゃ頼りになるけど、奴隷兵だったせいで人間関係の構築が下手すぎる。1軒目の工事現場は現場監督にブチ切れた挙げ句、重力魔法使って土下座させるし……。


 まぁ、他の人達にはなぜか感謝されたけど。どんな職場環境だったんだ?


 2軒目のコンビニも最初こそ品出しやら力仕事は上手くいっていたものの「時短デス☆」とか言ってレジ打ちしながら重力魔法で品出ししようとしたせいで、磁場でレジぶっ壊すわ、焦って重力魔法の調整ミスって棚をぐっちゃぐっちゃにするわ散々だった。時短どころか店をデスdeathしてどうするんだよ。


 店長さん、あんなに良い人だったのに帰る頃には鬼みたいな顔になってたな。


「魔法使わず働けばいいんじゃないかの?」


「無理デス。私の世界では魔法とは日常そのもの。カノガミだって自分の能力を使わず日常を過ごせと言われてできマスか?」


「無理じゃの。そもそも能力使えなかったらすっぽんぽんで過ごさないといけなくなるのじゃ」


 カノガミのヤツ……何バカなこと言ってんだ?


「ん? ジュンはウチの裸を想像してしまったのかの? ほんのり顔が赤くなっておるのじゃ」


「なってねぇ!!」


「私の前でイチャつくんじゃ無いデス!!」


「いだだだだだっ!? やめるのじゃレイラ!!」


 ヘッドロックをキメられるカノガミを見ながら考えを巡らせる。


 俺達が紹介できそうな店って言ったらあそこだよなぁ。あそこだったら少なくとも1日は雇ってくれるよな?


 でもなぁ……。


「そうじゃ! 紺田のじいちゃん家はどうかの!? あそこなら断られることは無いじゃろ!」


 考えていたことと全く同じことをカノガミが提案して来た。


「いやでもさ、紺田のじいちゃんに迷惑かけるのはちょっとな……それに」


 カノガミを引っ張っていき、レイラさんに聞こえ無いよう耳打ちした。


「もし、レイラさんが筐体きょうたいぶっ壊したらバーチ○ロンできなくなるぞ?」


「そ、それは困るのじゃ……!? みーちゃんから再戦を申し込まれておるし……」


「だろ? だから別ルートを当たった方が良いって」


「了解じゃ」


「何を相談しているのデスか?」


「な、なんでも無い!」


 適当に言い訳しつつ考える。俺らの知り合いでいないかなぁ。金があって1人ぐらい雇っても問題無さそうな所……。


--いるかのぉ〜?


 わ!? お前また頭ん中で話かけて来やがって。


--じゃってぇ。下手なこと言うとレイラにキレられるんじゃもん。被害を被るのはウチなんじゃぞ?


 ま、まぁそうか。でも、なーんか昔こういうことあったなぁ。俺とカノガミが話してたら殺気を向けられたことが……。


--そんなことあったかの?


 あったじゃねぇかよ〜。なんか殺気というか……鋭い視線というか


--鋭い? ……目つきが悪い……ん?



「あ!!」



 脳裏に、女の子が浮かんだ。鋭い目付きの女子が。


「当てがあるのデスか?」


「ウラ秋菜!! 芦屋あしや家だっ!!」



◇◇◇


「そうなのか。レイラは就職先を探しているのか」


 結局、芦屋家のウラ秋菜を訪ねた。芦屋家なら金もあるし、ボディーガードやら警備員やらすごい数の人を雇っているからレイラさんも雇って貰えるかもしれない。しかも、モロにレイラさんの能力か活かせる職場だ。こんな好条件、そうそう無いぞ。



「芦屋家に求職は無いデスかね?」


「今、ボディーガードや警備員は枠が埋まっているしな……」


 い、意外に厳しいんだな。俺達の考えが甘かったか……。


「ほら、この前レイラさんの世界のモンスターが現れただろ? その辺りの知識を持ってるレイラさんがいた方が白水は安全じゃないか?」


「確かにそれはありがたい。でもなぁ。最近は猫田に周辺を見張らせているし……猫田はキャットフードだけで働くしなぁ」


「猫田はなんでウラ秋菜にこき使われておるのじゃ」


「アイツはなぜか私の言うことはなんでも聞くぞ」


 猫田先生……なにやってんだよ。武士のくせになんで13歳の女の子にこき使われてんだ?


「ここしかもう行くところ無いのデス。それに、秋菜の所で働けば約束してた結婚の契約魔法も教えやすいデスよ」


「結婚の契約魔法……? なんだそれは?」


「え? ウラ秋菜は知らないんだ。オモテの方の秋菜ちゃんがレイラさんに使い方を教えて欲しいって頼んでたぜ?」


「あとチャーム誘惑の魔法も教えて欲しいと頼まれてマス。私はあまり得意ではありマセンが」


「何!? そんな記憶は共有されてないぞ!? オモテのヤツ私を出し抜こうとしやがって……」


 ウラ秋菜は悔しそうに爪を噛んだ。コイツら、どれだけ夏樹のこと……いや、これ以上はやめておこう。


「まぁ……いいか。レイラは信用できるしな。ばば様の警護についてもらうか」


「おぉ! 感謝しマス!!」


「ひ、姫……?」


「だって芦屋の令嬢デスよね? 今のうちにゴマをすっておくのデス」


「なんだか振り切ってるな……」


「ウラ秋菜がなんだかニヤニヤしとるのじゃ」


「うるさいぞお前ら!」


 ウラ秋菜はニヤニヤした顔を無理矢理真剣な表情へと戻して話を続けた。


「コホン。その代わり、配置としては私の部下。私の要請があった場合はそちらを優先してもらうがそれでいいか?」


「の、のうレイラ? ここまで来てアレじゃがオヌシは良いのか? ウラ秋菜の部下じゃぞ。13歳の女子おなごにコキ使われるなどオヌシのプライドとか大丈夫かの?」


「プライドでメシは食えんのデス。愛する夫に会う為だったら靴だって舐めてやるデス!!」


 レイラさんは急に跪いてウラ秋菜の靴を舐めようとした。


「や、やめろ! 頼んでもないのに靴を舐めようとするなっ!?」


 ウラ秋菜が応接ソファーに飛び乗る。なんだか、明るくなったなぁレイラさん……。


--明るくなったというか……バカになった気がするのじゃ。


 なんで心の中で言うんだよ?


--口に出した瞬間、レイラにヘッドロックされそうじゃから。



 ……。



 秋菜(ウラ/オモテ)→レイラさん→カノガミ。



 ……。



 なんだか女性陣のパワーバランスがおかしなことになってきたぞ。


「姫〜!!」


「やめろおおおぉぉぉ!?」


「ヤレヤレじゃのぅ」

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