第50話 4/4

「これは返すぞい」


 住職が包丁を差し出した。


 ん? 包丁か……これ?


「どう見ても小刀じゃの。鞘もあるし」


「我が家の家系は代々刀鍛冶だったのよ。でも、あまりに売れなくてね。ご先祖が刀身を短くして包丁として売り出そうとしたの」


「そして、それが最初の1本ということか」


「犬山。どうして最初のだって分かるんだ?」


「包み紙に書いてある」


「なんだよ〜。てっきり推理したのかと思ったぜ」


 その時……。


 黒い影が通りすぎた。


「……っ!? ヒトキリ丸が!?」


 方内先輩からヒトキリ丸が奪われる。奪ったのは1匹のだった。


 黒猫が寺の屋根へとよじ登る。


「うわぁ〜これ、また登って取り返すパターンかよ〜」


「リープしてもよいぞ♡」


「いやぁリープしてもまた住職が同じ目に遭うだろ? それも可哀想だしなぁ」


 そんなことを話していたら……。


 屋根の上の猫が2


「え!? あの猫……立ち上がってるぞ!?」


 黒猫が


 そして、俺達に向かって


「拙者。猫であれど武の道を極めんとする者。この刀貰い受ける」



「「「ね、ね、ね、猫がじゃべったああぁぁぁ!!!」」」


 全員が同時に叫んだ。


「なんとやかましい者達でござるな。そこの女。この刀、名は何と申す?」


「ヒト(振りでなんでも)キリ(きざむ)丸よ……」


 方内先輩完全に固まってるな……。俺達でも驚いてるぐらいだし、当然だけど……。


「なるほど、ヒトキリ丸……。良い。この大きさも実に良い」


 黒猫が居合の構えをとる。


「どれ。一つ試させてもらおう」


 黒猫が刀を抜く瞬間。


 物凄い風が吹いた。


「なんじゃあ!? あの猫屋根におらんぞ?」


「後ろだ!」


 犬山の声で反射的に振り向いた。猫はいつの間にか俺達の後ろにいた。刀をブンブンと振ってはウットリしている。


「これは良い。気に入った。あとは紐がいるでござるな……」


 そう言うと黒猫は走り去ってしまった。


「あ! ちょっと!? ヒトキリ丸返せええぇ!?」


 方内先輩が叫ぶ。


 その時。


 俺達の後ろにあった


「何が起こったんだ!?」


「ヒトキリ丸の伝説……力がある者が使うと本当に何でも切り刻めるって……本当だったのね」


「我が家のつり鐘がぁぁぞいっ!?」


 住職が膝から崩れ落ちた。


「……」


 今日の住職のことを思うと、あまりの悲惨さに思わず涙を流してしまった。


「カノガミ……お前、つり鐘戻せる?」


「た、多分……。つり鐘の時を戻すことは今ならできると思うのじゃ」


 俺とカノガミはその日の夜に境内に忍び込み、つり鐘を直した。


 それにしても、あの黒猫。一体なんだったんだろう?

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