……誰?なのじゃ!
第115話 1/1
夏休み最終週の勉強合宿に備えて話がしたい。
そう小宮に呼び出されて、俺とカノガミ、夏樹と秋菜ちゃんは部室に来ていた。
「にしても小宮のヤツおせ〜なぁ〜」
夏樹があくびをしながら漫画雑誌のページをめくる。
「なんだか、こうやって部室に集まるのは久しぶりですね」
「そういやなんで秋菜はいるんだよ? お前は勉強合宿行かないだろ?」
「そうなんですよね。でもなぜか私も来るように言われて……」
秋菜ちゃんは不思議そうな顔をしていた。秋菜ちゃん達と部室で会うのっていつ以来だっけ? 本当に夏休み最初の方だったよな? 確か。
「ジュン〜。茶を入れて欲しいのじゃが」
カノガミが馴れ馴れしくお茶を要求してくる。なんでコイツ、こんなに自然に溶け込んでんだよ。厚かましいヤツだなぁ。
「もう入れたっての。ほいみんな。ペットボトルの麦茶だけど」
夏樹、秋菜ちゃん、カノガミに湯呑みを置いていく。そして、来る途中に買った、小袋のアルフォー○をみんなに出した。
「あれ? ウチのはウマ湯呑みじゃないのかの?」
「ん? ウマ湯呑みってなんだっけ?」
「え〜!? ジュンが買ってくれたんじゃろ? あの甘酸っぱい放課後を忘れるなんて酷いのじゃ!」
カノガミが頬を膨らませる。なんだよ甘酸っぱい放課後って。
「あ、そう」
「な、なんか素っ気ないの……」
などとカノガミに気を取られていたところ、俺達を呼び出した2人がやっとあらわれた。
「オイッス〜!! 久しぶり〜」
「プギ〜! みんな久しぶりプギねぇ〜!!」
小宮とプギるんが元気よく扉から入って来る。久しぶりとは言うけど、なんだかんだで俺は小宮と結構会ってたよな。お隣さんだし当たり前か。プギるんも元気そうだな。
「プギ! みんなばっかりズルいプギ! プギるんも食べたいプギ〜」
「なんだよ〜プギるんはいっつも食いしん坊だな〜」
夏樹がプギるんにアルフォー○を渡す。
「プギ〜! 夏樹は優しいプギ!」
プギるんが4本の腕を器用に使って小袋を開ける。そしてモリモリとすごい勢いで食べ始めた。
「プギるんはいつ見ても可愛いですね〜」
「プギるん、秋菜ちゃんのこと大好きプギ♡」
プギるんは、小さな羽をパタパタと羽ばたかせ、秋菜ちゃんの胸元へ飛び込んだ。
「プギ〜」
「もう〜プギるんったら甘えん坊ですね」
「女の子にすぐに抱きついちゃダメだよプギるん♪」
「え〜!? プギるん女の子大好きなのにプギ〜」
「そのせいでウラ秋菜に酷い目に遭わされただろ〜」
みんなが大笑いする。そうそう。プギるんがウラ秋菜に縛り上げられて大変だったなぁ〜。
「ウラ秋菜? まぁいいプギ。準〜プギるんにもお茶入れて欲しいプギよ〜」
「わあったよ〜」
「……」
ん?
お茶を入れようとしていると、カノガミがなんとも言えない顔でみんなを見ていた。
なんというか……。
湯呑みを持ったまま固まっているように見える。
「どうしたんだよカノガミ?」
「の、のうみんな……。そ、その、ハエと言うにはデカすぎる気持ち悪い小動物はなんじゃ? そんなヤツおったかの……?」
「は?」
「プギ!?」
「カノガミ何言ってんだよ? プギるんだぞ? お前、風呂覗かれてブチ切れたことあったじゃねぇか」
「ふ、風呂を……? こんなヤツが覗いてたら思わずぶっ○してしまうかもしれんぞ……」
「プギ〜カノガミは酷いヤツプギ〜」
「そうだよカノちゃん! プギるんのおかげで私達はみーちゃんのタイムリープから助かったんだよ? 忘れるなんてひどいって〜」
「プギ! 茉莉ちゃん。そのことはみんな辛くなるから話すのやめようプギ〜」
「あ、そうだったね♪ ごめんねプギるん。でも、あの時プギるんが寿命を使ってくれたことは……忘れないよ!」
「プギ……茉莉ちゃん……」
「えぇ……? ラセンリープできたのはジュンのおかげじゃろ? こんな気持ち悪い小動物なんてなんの役にも立たんのじゃ」
「プギギ……貴様ぁ……」
「コヤツめっちゃ邪悪な顔しとるのじゃ!?」
「邪悪って……カノガミさん酷いですよ? プギるんは私の命の恩人なんですから」
秋菜ちゃんがプギるんを抱きしめる。プギるんは愛くるしい仕草で秋菜ちゃんに顔を埋めた。
「し、しあわせプギィ〜〜」
プギるんは恍惚の表情で秋菜ちゃんに顔をグリグリと押し付けていた。プギるんのヤツ、相変わらずだなぁ。何やってんだよもう。
「あ、秋菜ちゃん?」
「なんですか? プギるん?」
「プギるんと一緒にお散歩を……」
「そういや、イアク・ザードから体を張ってみんなを守ってくれたのもプギるんだしな。いや〜プギるんがさ、この星の生命エネルギーを集約させて放ったあの技! 凄すぎて腰抜かしたぜ〜」
プギるんが何かを言おうとしていたけど、夏樹の言葉に遮られてしまった。
「夏樹は褒めすぎプギ! みんなを守るのは時のカミとしての当然の義務プギ!」
「は? 時のカミ? オヌシなんぞウチは知らんぞ?」
「え、何言ってんだよカノガミ?」
「え、じゃってウチとみーちゃんが時のカミじゃし……」
カノガミが時のカミ? いったい今日はどうしちまったんだよカノガミのヤツ。
「何言ってんだよ。お前とみーちゃんはただの地縛霊だろ? 勝手にカミなんて言ったらプギるんに怒られるぜ?」
「じ、地縛霊じゃと!? めちゃくちゃ失礼じゃぞそれは!」
カノガミは顔を真っ赤にして地団駄を踏み出した。
「みんな。コイツの言うことなんて聞かない方がいいプギ。所詮は地縛霊。みんなを惑わそうとしてるプギ」
「このハエ……クッソ悪い顔しとるのじゃ……というかウチらが地縛霊ならみーちゃんもタイムリープ使えないじゃろ!」
「あ」
「あって言った! みんなコヤツあって言ったのじゃ!!」
「う、うるさいプギ! 地縛霊は黙ってるプギーー!! みんな! プギるんの目を見るプギ……」
プギるが何かを言いかけたその時、勢いよく部室の扉が開いた。
「みんな! お久しぶりデス!」
「1ヶ月ぶりだね」
「「「レイラと蝶野先輩!?」」」
「もうすぐ夏休み終わるだろ? だから修行から帰って来てね。実はみんなに報告しなきゃいけないことがあって……」
「ん? なんでモンスターがいるのデスか?」
おもむろにレイラさんが手をかざす。
「プギャア!?」
レイラさんの放った重力魔法でプギるんは地面にめり込んでしまった。
すると、急に俺の中からプギるんに関する記憶が消し飛んだ。
「あれ? コイツ……誰だ?」
「プギギ……もう少しだったのにプギ」
目の前ではハエと言うにはデカすぎる気持ち悪い小動物がもがいていた。
「あ、秋菜ちゃんだけは連れて帰りたいプギ……」
小動物が秋菜ちゃんへとにじり寄る。
「ひ……っき、気持ち悪い!? 近寄らないで下さい!!!」
秋菜ちゃんが怯えた表情で、小動物から距離をとった。そして、小さく言葉を発すると、その目付きがどんどん鋭くなっていく。
「お前……よ、よくも私に抱きついてくれたな……」
「プギ? な〜んか雰囲気が違うような……」
「消えろぉぉぉぉっ!!」
ウラ秋菜が小動物を全力で蹴る。
「プギィィィイィィ!?」
小動物は窓を飛び出し、グラウンドを飛び越え、空の星になった。
「おー! さすがウラの方の秋菜ちゃん♪ 飛距離すごいね〜」
◇◇◇
「な、なんだったのじゃあれは?」
「あれはメモリーウォッシャーというモンスターデス。イアク・ザードの転移魔法に巻き込まれたのデスかね?」
「なんでカノガミのこと忘れちまってたんだろ?」
「アイツは人間の記憶を好きに書き換えれるのデス。そして、生娘を攫っては自分の妻にする……そんな種族なのデス」
「アイツ、秋菜のこと狙ってたな……多分……」
「つ、妻!? 思い出しただけで鳥肌が……」
芦屋兄妹は2人とも顔面蒼白になっていた。
「私の世界では皆手口を知っているのでそうそう付け込まれ無いのデスが、初めて遭遇したのなら確かに危険かもしれマセン」
「ま、まぁみんな無事で良かった……」
ん?
なんか後ろから殺気が。
「ジュン。ウチのこと忘れておったばかりか『地縛霊』などと言いおったのぉ〜?」
カ、カノガミのヤツ……え、笑顔なのに……ドス黒いオーラを出しまくっている……。
「あ、あれはあの小動物のせいで……!?」
「関係無いのじゃあああああああ!?」
「助けてえええええええ!?」
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