師匠と弟子と。なのデス!

第103話 1/4

 イアク・ザードとの戦いから2週間。僕と師匠は修行の旅に出ていた。



「師匠……こんな所でバスを降りて良かったんですか?」


「し、仕方ないじゃないデスか。私はこっちに来てまだ日が浅いのデスから」


 降りる場所を間違えた……とは言わないんだなぁ。


 旅の目的はが強いと言われる土地を巡ること。師匠の重力魔法の強化も兼ねている。


「そういえば、師匠はどうして自分の力も上げようとしているんですか?」


「え? それは……いつまたあの戦いのようなことが起きるか……」


 師匠が腕を組んで考える。


 最近の師匠、変だな。前みたいに顔を引っ張ったりしてこないし、優しい気もする。でも……なんだか元気が無い。


「でも、それって……いつ、なんデスかね?」


 師匠は微かに聞こえる程の声で呟いた。



 ……。



 しばらく2人で歩いていると、山沿いの道に小さな商店があった。恐らく車の人がよく利用するのだろう。駐車場だけが異様に広い場所だ。



 そこの自販機で飲み物を買って師匠に渡す。



「あ、ありがとう」


 師匠はなぜか顔を背けた。


「ここで夕飯の材料でも買って行きますか?」


「この辺りは魚もいマスし、昨日買った乾麺も残ってるから大丈夫デス。旅費は温存しておきマショウ」


 師匠の重力魔法のおかげで川魚等の食材はすぐに確保できる。反面……魔法の使いすぎで師匠か異常に食べるのが難点だけど。


 2人で相談していると、店の奥から50代ほどの女性が出て来た。


「アンタ達……キャンプしに来たの?」



「一応そうですね。川沿いでテントを張って……」


「この山は大部分がだよ」


「え……す、すみません」


「この女性は何を言いたいのデスか?」


「勝手にテントを張るなって言っているんですよ」


 女性に聞こえないように師匠に耳打ちした。


「あ、そうだ。僕達この地図の場所に行きたいんですけど、どの道を行けばいいか分かりますか?」


 女性が地図に付けられたマークを見る。


「ここは……この先の村を通らないといけないね」


「村……デスか」


「アンタ達、運がいいよ。そこにさ、家を持ってるんだ」


「え? は、はい……」


「1泊20000円でその家使わせてやるよ」


 に、20000円……!? テントで寝泊まりするの前提だったから宿代とか考慮に入れてないぞ!?


「どうする? 私有地で勝手にキャンプされちゃあねぇ……誰か通報するかもしれないし」


 女性がわざとらしく言ってくる。その様子から、かなり手慣れてるように感じた。


「どうします? この場所諦めて次の目的地目指しますか?」


「私に任せるのデス」


 師匠がおばさんに近づいていく。


「何だい? 金髪の姉ちゃん」


「あの車。あそこに放置していていいのデスか?」


 師匠の指した先にはボロボロになった乗用車が打ち捨てられていた。


「あぁアレ? 不法投棄だよ。片付けるにしても金かかるし、邪魔ったらないよ」


「私達がアレを片付けたら家を使わせてくれマスか?」


「どういうこと?」


 おばさんは頭にハテナが浮かんでいた。


 師匠が車に向かって手をかざし、を使う。



 すると。



 一瞬で車がペシャンコになった。



「は?」


「ちなみにこういうこともできマス」


 師匠がペシャンコになった車に手を当てると、バキバキとすごい音を立てながら師匠の手元に吸い込まれていく。そして、先程まで敷地を占有していた車はソフトボールほどの球体になってしまった。


「これでどうデスか?」


 師匠がボールになった車を地面に落とすと、ボールは地面にめり込んだ。


 おばさんはただ首だけを上下に動かして、家の鍵を渡してくれた。



◇◇◇


「あんな人前で重力魔法使って良かったんですか?」


「ムカつく女デシタから。力を見せつけてやるぐらいがちょうどいいのデス。それに、誰にも迷惑かけてないデスから」


「ま、まぁ……あの車は実際片付けましたからね」


 師匠と話しながら進んで行くと、聞いていた目印に到着した。鳥居のような物が立った、何だか変わった趣の場所だ。


「それじゃあ探しますか。家」


 あの女性の話だと、目立つからすぐ分かるって言ってたな。


 その家で1泊して、早朝に出発すれば明日中には目的の場所まで行けそうだ。


 師匠と2人で鳥居を潜ると、急に師匠が立ち止まった。


「今、声がしませんデシタ?」


 師匠に言われて辺りを見回すが、木々が生い茂ってるだけで、人影すら見当たらない。


「誰もいないですよ」


「動物の鳴き声か何かデスかね」



 ……。



 鳥居の先の細い山道をさらに15分ほど歩くと、言っていた村に到着した。想像よりかなり広い土地だ。周りは鬱蒼とした森に囲まれ、近くを流れる小川のせせらぎが聞こえる綺麗な場所だった。



 だけど……。



「人の気配を全く感じマセン。まるで廃村のようデス」


 師匠の言う通り、村の中は誰も歩いていない。それに、どこの家もボロボロだ。周囲の自然と朽ちた人工物のギャップが、どことなく気持ち悪さを感じさせた。



 この建物、一体築何年なんだろう? 僕達が泊まる家もこんなだったらとてもじゃないけど夜を明かす気になんてなれないぞ。


「ありマシタ」


 師匠が立ち止まった家は、他のボロボロの民家と比べて子綺麗で生活感が感じられた。


「ここだけ、何だか新しいですね」



 早速鍵を取り出す。


 ……。


 あれ? 鍵が回らない。



「師匠。この鍵、違いますよ。開かないです」


「騙されたのデスかね?」


 クソ……師匠のおかげでお金払ってなかったからいいものの、めちゃくちゃムカつくぞ。


 悔し紛れに引き戸を動かしてみる。


 すると。


 扉がカラカラと音を立てて開いた。



「開いた? なんで?」



「鍵をかけ忘れた上に間違った鍵を渡す……そんなことありマスか?」


 僕達は顔を見合わせた。



◇◇◇


 家の中もつい最近まで人がいたように整っていた。なんだか、旅行から帰って来た後の家みたいな……。


「こっちの部屋に荷物が沢山ありマス」



 先に奥へと入っていた師匠が声をかけて来た。


 師匠がいる和室に入ると、そこには大量のリュックやカバンが置いてあった。


「な、何ですか? この大量のカバンは……?」


 師匠がカバンを漁り出す。


「ちょ!? 何漁ってるんですか?」


「何か使える物があるかと……」


「やめて下さいよ!」



 師匠はしぶしぶといった様子でバッグを漁るのを諦めた。前の世界だと普通だったのか?


「着替えにキャンプ道具……この人達も私達と同じようにあの女に騙されたみたいデス」


「みんなどこに行ったんですかね?」


「さぁ? 私の世界なら、野党か何かに襲われたのだと思いマスが、この世界でそんなことは無いデスよね?」


「そんなの滅多に聞かないですよ。な、なんか気持ち悪いし、引き返しましょうよ」


「今から戻っても真っ暗になってしまいマスよ」


 う、う〜ん。ここに残るか、真っ暗な山道を歩いて戻るか……嫌な2択だ。でも、真っ暗な中歩き回って事故に合う方が危ないか。


 野生動物か何かいても、師匠と僕ならなんとかなるしな。以前熊に遭遇した時も師匠一撃で倒してたし。



「寝床も確認しマシタし、今日の分の修行をシマスよ」


「わ、分かりました!」

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